16、あれから5年弱
「シェリー。浮かない顔をしているが、何か心配事でもあるのか?」
王太子妃教育のあとのお茶会で、アレク様は私が浮かない顔をしていることに気づいたのか問いかけてきた。
顔には出していないつもりだったので気づかれたことに驚くも、それだけ付き合いも長くなったということかと感じる。
気づけば婚約してから5年近く経とうとしている。私も14歳に、アレク様ももうすぐ15歳になる。
王族は15歳に立太子し、それに伴いその婚約者も時期王太子妃になる。今でも公務はありこなしてはいるが、それが格段に増えるそうだ。
アレク様は幼いころは天使のような見た目だったが、この5年でとても男らしくなった。体も成長したため鍛錬が本格的になり、透き通りそうなくらいに真っ白だった肌は少し日に焼けて男らしさが増し、少し鋭さを含んだ長いまつ毛に縁取られた金色の瞳が、整いすぎた顔をさらに引きたてていた。
そんな人にじっと顔を見られるとどぎまぎしてしまう。
「いえ…今日の夢見が悪かっただけです」
「そうか…王太子妃教育も恙なく進んでいると報告を受けている。そういうときはあまり無理はするな」
「ご心配いただきありがとうございます。ですが、雨の日だけですので大丈夫です」
そういうと、アレク様は眉間にしわを寄せ、難しそうな思いつめた顔をした。
「…どういった夢か聞いてもいいだろうか」
「…忘れてしまいましたわ」
実際は覚えているが、前世の内容を説明するのも難しいと思ったため忘れていることにした。
「…それよりも、そろそろこの婚約についてお話しませんと。もうアレク様も本気で将来を見据えたパートナーを考えねばなりません。立太子の式典も再来月行われることですし...」
「そ、それは…そうなんだが…」
アレク様は目線を彷徨わせてあたふたと何かもごもご言っている。アレク様がこんな反応をするのは珍しい。
アレク様とのお茶会は場所はときどきによって変わるが、給仕などはいつも話が聞こえないぎりぎりのところに待機しているためいきなり内緒話しても問題はない。余談だが今日は雨なので温室庭園で行っている。
話し合わなければと思っていたことについて、やっと話を切り出せた。最近はそういった話になりそうになると不思議と違う方向に話が進み、そのうちに忘れ、お茶会の時間も終わってしまっていた。帰ってからはっと思い出すことが多々あった。
シェリルは記憶力はよくとも、忘れっぽいのがいただけない。「瑠璃」の片りんが見受けられる。
最近はアレク様から無性に離れたくなる時がある。それがなぜなのかまだわからないが。
「ちなみに...シェリーはどういった人が好みとかはあるのか?」
それとなくと自分は思ってるアレクシスは、堂々と探りをいれる。
「え?好みですか?...それ何か関係あります?アレク様ならよりどりみどりだと思いますが...」
いまだに婚約者であるシェリルがいても人気が衰えず、ファンクラブまであるのに。
「いや、ちょっと参考までに...だな...」
歯切れの悪い返事が返ってくるも、まぁ参考にはならないと思うけど、と思いながら考える。
「まぁ、私はそもそも結婚に夢などはないので...それに王太子という立場のアレク様には参考にならないと思いますが、強いていえば家族を大切にする人ですかね」
「家族を大切に...それは重要だな。以前、政略結婚ならしょうがないと言っていたがそういう相手ともか?」
「政略結婚の場合は相手を選べないのでなんともですが、私に愛情は期待をしないでほしいです。私も期待はしないので。もちろん自分の子供に対してとなれば話しは別ですが」
「そうか...」
少し考えながら返事を返すアレクシスを横目にお茶を一口飲む。
「まぁ、私のことは置いておいて、アレク様ですよ!アスターともよくお話ししてますが、気になっている方はいらっしゃるんですか?」
「アスター?なんでアスターがでてくるんだ。アスターは君の妹だから話しているだけだ」
「そうですか...」
小説だとくっつく2人。婚約してからそれとなく何回も機会を作ってきたが、あまり芳しくはない。
ふと視線を感じ、アレク様のほう見ると熱のこもった真剣な眼差しで、私のことを見ているアレク様と目が合う。
「気に...なってる人は...いる...」
「そ、そうですか...それなら...」
よかったです。その一言がいえず、その綺麗な黄金色の目に見入ってしまう。
時が来たら私が婚約者から外れるということは、最初に話していた通りなのに、なぜか嬉しいとは思えなかった。そんな自分に困惑するも、こんなに長い期間一緒にいたから情が湧いただけだと自分を納得させる。
「来週、時間をくれないか。2人で城下に出かけよう」
「城下ですか?いつも通りに視察ですか?」
いきなりの話の展開に驚くも、確かに月に1度くらいの頻度での視察のタイミングでもあったので確認する。
「いや…視察では…まぁそれでもいい。一緒に行ってくれないか」
「かしこまりました。準備しておきますね」
その後は可もなく不可もない雑談を交わして今日のお茶会は終わった。
帰りの馬車の中で王太子の婚約者としての役割に終わりが見えてきたことで今後について考える。私の魔法の腕は国の上位に入るほどだと以前オーウェン先生に言われた。
魔法もあらかた使いこなせるようになったころ、忙しくなったことからウォーレン先生ももう家庭教師の仕事を終えた。今ではときおり手紙をやりとりしたり、王城で会った際にはお互い時間があればお茶をしたりしている。
(明日は、魔塔に寄ってオーウェン先生に話を少し聞かせてもらおう)
魔法の勉強をしているうちに魔塔での魔法を研究する職に興味を持った。
魔塔に入るためには、魔塔に所属している2人の魔法使いから推薦書をもらわないといけない。さらに推薦があったうえで実技での試験で合格しなければならない。
魔塔所属の魔法使いになれば、序列の影響で差はあるが、ある程度の高い給料がもらえるはず。そのため詳細を聞きに行くことを決めた。
読んでいただきありがとうございます。




