アレクシス視点②
「瑠璃…!!」
翌朝、叫んで手を上に伸ばし何かをつかもうとして目が覚め、飛び起きた。手をみると震えており、息も上がっている。冷や汗をかいて吐き気もあり気持ち悪い。
昨夜記憶が戻ってくるにつれて眠れる気がしなかったが、まだ子供なこともあり誘拐されかけたりいろいろあったことでいつの間にか眠っていたようだ。夢で恋人の瑠璃が事故にあったところで目が覚めた。
「はぁ、はぁ……くそっ!」
焦燥感から手を握ってベッドに打ち付けるも、やわらかいので当然ながら痛くはない。
やっと自分がずっと探していたものを見つけたと思ったら、蘇ってきた前世はひどいものだった。浮気を疑われるような後ろ暗いところは何一つないが、いまさら記憶のない彼女に弁明することも出来ない。
でも瑠璃を…あの子を見つけることができたのは僥倖だった。死んでもなお、再び会えたことは奇跡でしかない。
瑠璃はもう俺なんかと一緒にいたくないと思っているかもしれない。けれどこんな奇跡を与えられたんだ。それを無駄にする気はない。
ひとまずは来月の誕生日パーティーで見つけなければならない。もし見立てが間違っていて貴族でもなんでもなくても絶対に探し出す。
待ちきれないが、まだ誰かもわからない状況で探し回ったりして彼女に迷惑がかかり、印象が悪くなるわけにもいかない。自分の立場が与える影響も理解していた。
ひたすら我慢をした1か月。やっと誕生日当日になり、逸る気持ちを抑えられずそわそわしていた。
今日は最初は一般の使用人を装って会場を観察することにした。最初から王子としていくと、いつも引っ付いてくる令嬢たちに囲まれることが目に見えていたから。
幸い身長は年齢にしてはそこそこ高いのでそこまで怪しまれないだろう。声変わりはまだなのでしゃべらないようにすればいい。
指輪をつけて茶色い髪と瞳に、念のため前髪で目元を隠しさらに眼鏡をつけて変装した。
乳兄弟であり幼馴染の側近候補のルカも同行することになった。
早めに会場入りし、物陰から国王夫妻に挨拶していく招待客を眺める。まず来たら国王夫妻に挨拶は必須になるので、ぎりぎり声が聞こえるところで様子を伺う。
するといつも父親とともに王宮に来ては俺を見つけて追いかけてくる、ドレージュ公爵家のヴァネッサが来た。
いつも甘ったるい香水をつけていることや、無遠慮に腕を絡められるからとても苦手としている。俺を探しているのかきょろきょろとしているが、遅れてくると伝えられるとすぐさま会場に向かっていった。
それからしばらく。もう少しでパーティーの開始時刻間近になる。
(貴族…それも高位のだと思っていたが、見立て違いだったか…?)
それならまた改めて探す方法を考えなければ、と思っていると宰相が来た。その宰相の影に待ち望んでいた女の子がいた。
「来たっ!!」
小声だが思わず声が漏れてしまった。今日は水色のワンピースを来ており、儚げな美しさを引き立てていてとても似合っている。
目を逸らすことができずに見惚れていると、ここでやっとハーディング公爵家のシェリルということが分かった。
ドキドキとしながら見守るも、宰相にはバレてたのか俺の方を一瞥しさっさと会場へ促した。
一緒にいた明るい茶髪でシェリルと同じ桃色の瞳をしたのは妹なのか。今世も妹がいるんだな、なんて思いながらバレないように会場のほうへ向かった。
しばらくシェリルを眺めていると、周りの令息どもがシェリルに話しかけようとしているのか、ちらちら見ながら様子を伺っていることに気づく。
そんな令息どもに殺意が芽生えるも、まだ友人でさえない俺は何もできない。急ぎそろそろ王子に戻る準備をするかと思った時、ヴァネッサがシェリルたちのもとにいちゃもんをつけにきた。
瑠璃だったらいちゃもんに対して静かに黙っているか、静かに反論していた。黙っていたのは言い返して時間を取られる方が嫌だったと後ほど聞いたが、それに比べて堂々とはっきりと言い返しているシェリルに驚く。
言い返した言葉を聞くと、優しいところは変わってないことがよくわかる。彼女は自分には無頓着だが、他の人が貶されたりすると怒るタイプだった。
そんな感慨に耽っていると、あろうことかジュースをかけだした。
一気に頭に血が上り思わず駆け付けようとするも、ルカに羽交締めにされ止められて自分の状況を思い出した。悔しく思いながら急いでルカに指示して給仕を向かわせた。王子という自分の立場が憎い。
着替えたら戻ってくると思い、自分も急いで着替え会場に向かったが、もうシェリルは帰ってしまっていた。
それを聞き茫然自失していると、ヴァネッサが何事もなかったように俺に絡んでこようとしてきた。
「私は人にジュースをかけるような、マナーもなっていない奴は好きではない」
「な、なんで知って…!!」
絡まれる前に開口一番言い、怒りを隠さずにらみつけると、顔を真っ青にしていた。そのうち周りからのバカにされたような視線に気づき、今度は顔を真っ赤にして去っていった。
これでしばらく絡んでこないだろう。俺も本日の目的は果たせたが、主役としてもてなしもしなくてならず、動けなくなってしまった。
パーティーが終わり、すぐに両親へシェリルと婚約をしたいという話をした。もともと候補に挙がっていたそうだが、宰相からは本人の意向次第といわれているそうだ。
そのためまずは2人で話し、本人の意思を確認するように言われた。また、魔力鑑定を慣例よりも早く行ったこと、聖属性での複属性持ちだったため、他国からも縁談が殺到することが予想されることを教えてくれた。
「国としても、この国にしてくれることが望ましい。時期王妃としてならなおさらよい。しっかり頑張ってくれ」
両親は全面的に協力をしてくれること約束し、話は終わった。
部屋に戻り、お茶会に誘うべく手紙を書くため机に座る。今日のシェリルを思い出すと、幸せな気持ちが込み上げてくる。が、すぐにシェリルに向けられた令息たちの熱い視線を思い出した。
湧き上がる怒りを抑えつつ、今後に思いを馳せる。
前世、あの一緒にいられる時間が、当たり前のことではないことを身をもって思い知った。
いつ失われるかわからない、そんな可能性があると知ってしまったら、どんなに嫌がっても、もう手放すことなんでできない。
もう一度、その心を得られるように頑張るから。与えられた時間を大切にするから。
君の大切なものは俺が全部守るから。
──どうかまた、俺を好きになって。今度こそ幸せにするから




