表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛する気はない悪役令嬢ですが、王太子の執着から逃げられません〜前世で妹と恋人に裏切られたので穏やかに生きたいだけなのに〜  作者: はな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/65

アレクシス視点①


 生まれてからずっと、何かが足りない――そんな気がしていた。


 夜、ふと部屋のバルコニーに出て夜空を眺める。

 眠れないときは、こうして月を見ることが多い。

 その日は満月の前、少しだけ欠けた月が浮かんでいた。


 心にぽっかりと空いた穴が、その月のように思える。


 何が欠けているのかはわからない。

 物なのか、人なのか。

 それすら曖昧で、ただもやもやとした感覚だけが残り続けていた。


 勉強も剣術も、何でもそれなりにすぐこなせる。

 達成感は薄いが、不足のない日々だと思っていた。


 それでも、何かに追い立てられているような感覚がある。

 ずっと、何かを探しているような気持ちだった。


 周囲の人間も、両親である国王夫妻でさえ、どこか一歩引いて俺を見ている。

 子供らしくない言動をしている自覚はある。

 乳兄弟のルカだけは、どんなときも変わらずそばにいてくれたが。


 変わり映えのしない日々に飽き、ときおり市井に紛れて気分転換をしていた。


 


 十歳を目前に控えた頃。


 いつものように指輪の魔道具を身につけ、茶色の髪と瞳に変装する。

 外套を羽織り、城下の活気ある市場を抜け、貴族や富裕層で賑わう区画へ向かった。


 そのとき、突然腕を引かれ、路地裏へと引きずり込まれた。


 考え事をしていたせいで反応が遅れた。

 次の瞬間、殴られた。

 強い衝撃に声も出ない。


 視界の端に映ったのは、いかにも柄の悪い大柄な男だった。

 俺を担ぎ上げようとしている。


 腕は拘束され、動かせない。

 全身で抵抗するが、さらに奥へと連れていかれ、大通りの喧騒が遠ざかっていく。


 本格的にまずい。


 奥まで来たことで気が緩んだのか、拘束がわずかに弱まった。

 その隙に叫ぶ。


「放せ!! こんなことをして、ただで済むと思っているのか!」


「おっと。さあな。どうにかなる前に、お前をどうにかしなきゃな。いい加減、大人しくしろ!」


「うっ」


 再び拳が振り下ろされる。

 剣術も体術も習っているが、まだ子供だ。

 大人の力には敵わない。


 拘束は外れたが、殴られた衝撃で地面に叩きつけられた。


 男がにじり寄ってくる、そのとき。


「騎士様! こっちです! 男の子が攫われそうになっています!」


 澄んだ少女の声が響いた。


「ちっ」


 男は舌打ちをし、急いで去っていった。


 何が起きたのか理解できないまま、男の去った方を見ていると、声をかけられる。


 顔を覗き込んできたのは、桃色の瞳にプラチナブロンドの髪をした少女だった。

 今まで見たこともないほど、綺麗で可愛らしい。


 女の子に助けられたという情けなさはあった。

 だがそれ以上に、先ほどの言葉が引っかかる。

 以前にも、似たような言葉を聞いたことがある気がして。


 不思議に思ったそのとき、少女と目が合った。


 瞬間、記憶が――弾けた。


 理屈ではない。

 ただ、確信だけがあった。


 目の前の少女こそ、自分がずっと欲して、探していた存在だと。


 胸の奥が、強く締めつけられる。


 ――やっと、見つけた。


 言葉にならない感情が、静かに溢れ出す。


 反応のない俺を不思議に思ったのか、少女はハンカチで頬を拭い、両手を当てた。


 不思議と、じんわりと痛みが引いていく。


 だが――そんなことは、どうでもよかった。


「あ、ごめんなさい。痛かった?」


 離れていく手が、ひどく――耐えがたいほど寂しい。


 頬に触れると濡れていた。

 自分が泣いていることに気づく。


「いや、違う……大丈夫だ。ありがとう……」


 そういえば騎士を呼んでいたはずだ。お忍びが知られるのはまずい。


「……騎士は?」

「あ、あれは嘘なの。でも、私の護衛はすぐ来ると思うわ」


 遠くから「お嬢様! どちらですか!」と叫ぶ声が聞こえる。


 “お嬢様”と呼ばれていること、年齢にそぐわない洗練された所作と言葉遣い。

 高位貴族の可能性が高い。


 せめて名前を、と声をかけようとしたが、付き人の声とかぶってしまう。

 少女はにっこりと微笑み、そのまま去っていった。


 咄嗟に動くこともできず、見えなくなるまで後ろ姿を見つめる。


 高位貴族なら、自分の誕生日の式典に招かれるはずだ。


 ――そのとき、必ず見つけ出す。


 ふと、先ほどまで彼女がいた場所に鈴蘭が落ちているのに気づき、咄嗟に拾い上げた。


 ――前世の恋人が、好きだった花だ。

 


 騎士に保護され城へ戻ると、両親にひどく叱られた。

 こんなに怒られたのは初めてだ。

 部屋を抜け出していたことは以前から知られていたらしく、影の護衛までつけていたという。

 今回はその目を掻い潜ったらしい。


 素直に謝ると、両親は目を丸くし、どこか泣きそうな顔で言った。


「もう、こんなことはしないように」


 他にも心配をかけていたのかもしれない。


 その夜、部屋のベッドに横になり、押し寄せた前世の記憶を整理する。


 だが――。


 ひとつ、とても受け入れがたい出来事も思い出してしまった。


 何よりも大切だった恋人に、プロポーズをしようと計画していたとき。


 浮気をしていると誤解された挙げ句、目の前で――


 その恋人が、トラックに撥ねられ――亡くなった。


 あの光景は、今も鮮明に焼きついている――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ