強くなりたい
「よし、やるぞ……!」
気合を入れ直し、紀伊は周囲を見回す。
この街道の近辺にはジャイアントラットが主に出てくるが、先日の騒動のせいかグラスウルフのような多少強力なモンスターの姿がチラホラと見える。
それが退治されていないのは、やはり昨日の件が尾を引いているのだろう。
どのモンスターも好戦的で、人間を見つけると襲い掛かってくるものばかりだし、紀伊も今までは腰が引けていたが……今日は違う。
「うおおおおおおおおお!」
「グルウ!?」
見つけたグラスウルフへと駆け寄り、紀伊はレイブレイドを振るい……アッサリと避けられてしまう。
「あっ」
「ギャウッ!」
紀伊へと反撃を加えようとしたグラスウルフの足元が銃撃され、グラスウルフは脅えたように下がる。
「提言します。先程は叫ばない方が優位性を保てたかと」
「すまん!」
叫びながらも紀伊はレイブレイドを振るい、今度こそグラスウルフを切り裂く。
やはり一撃。当てさえすれば、レイブレイドはかなりの威力を誇る事が紀伊にも嫌でも理解できる。
「グオオオオ!」
「ガアアアア!」
「ぬ、あ! このお!」
紀伊の視界の外から走り寄ってきた別のグラスウルフ2体も、紀伊の振るったレイブレイドが「当たった」それだけで簡単に切り裂いてしまう。
荒い息を吐きながら、紀伊は手の中のレイブレイドをじっと見つめる。
「つくづくトンでもない武器だよな、これ」
「レイブレイドは基本的な防御兵装ではありますが、それ故に信頼性が高い武器でもあります」
「よく分からん」
「それ一本あれば何でも出来ます」
「なるほど、よく分かった」
言いながら紀伊はレイブレイドを振るいジャイアントラットを切り倒す。
当てれば相手を倒せる。今のところ、レイブレイドはそういう武器として機能している。
問題があるとすれば、紀伊だけであってレイブレイドには何の問題もない。
「……しかし、それもまたマスターの力の一部である事をお忘れなく」
「分かってる。でも、力に振り回されないようにならなきゃな」
その為には、レイブレイドの扱いにもっと慣れなければいけない。
そうする為に必要なのは……。
「街からもっと離れた場所に行ってみよう」
「確認しますが、それは危険と判断されていたのでは?」
「ああ。でも、このままじゃ俺は強くなれない」
レベルアップできない以上、紀伊が強くなるには単純に戦闘経験を積む必要がある。
そしてそれは、恐らくはオーガのようなモンスターでなければ得られない。
紀伊は、そう実感していたのだ。