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「お待たせいたしました! あらッ、今あなた方が着ている服を売っていただけるのですね! これは新しい流行になりそうね……」


 店主が現れたと思ったら、律が獣人であることに戸惑いもせず夢中で服を嘗め回すように見ている。


「あっ、失礼しました。わたくし、店主のミーシャと申しますわ。先ほどの店員の態度も含め謝罪いたしますわ。それにしてもこの服、とても素晴らしいですね」


「いや、大丈夫だ。この服がそんなに見たいなら渡すが、代わりの服を見繕ってもらえるか」


「不躾に見てしまって申し訳ないですわ。そうですね、庶民用の服でよろしいのでしたら、こちらとこちらがよろしいかと」


 そう言って差し出されたのは、白地に首回りと袖のところにモスグリーンのあて布を使った少し長めの服だ。下のズボンは少し茶よりの通りでよく見たものだった。響と色違いで律は濃い青のあて布をしているものだった。Vネックでポンチョのように袖が広がっており、着てみると意外としっくりきた。首付近や袖の色と同色の紐でズボンもろともずり落ちてこないようにしっかりと結ぶらしい。

 試着室で着替える際、パールが驚いたように顔をのぞかせてきたので、響はしばらく大人しくするようにといい含めて再び懐へパールを押し込んだ。


「あら! よくお似合いですこと。そちらの方は……ふむ、こんなものですね、どうぞ」


 店主が律の方を向きズボンの尻の少し上のあたりに穴を開けた。差し出されたものを律も試着室で着てみる。


「おおっ、似合うな。尻尾大丈夫か?」


「ああ、ちょうどいいみたいだ。まだ尻尾があることに慣れないが」


(ま、急に耳と尻尾が生えて異世界ですって言われても困るよな)


 こそこそ二人で話していると、買い取りの話になった。この服は買い取りの値段から引いてくれるようだ。


「このカッターシャツというものとスラックスというズボンを2セットで、そうですね……新しい流行にもなりそうなことですし、金貨3枚でどうでしょう! もちろん今着ているものの値段は差し引いて、ですわよ」


 響たちからしてみれば制服なんてよくあるものだし、1万円程度で揃ってしまうという認識なので、30万円ほどの価値になるとは思ってもみないことだ。


「ああ、それでいい。できれば金貨2枚と大銀貨10枚でもらえないか」


 さすがに金貨で持ち歩くと両替が面倒なので駄目元で頼んでみる。


「それでしたら、金貨2枚と大銀貨9枚、銀貨9枚、大銅貨10枚でお支払いいたしますわ」


「助かる、あといい靴屋を紹介してもらえないか」


「それでしたらここをもう少し北へ行っていただいて、左側に青い屋根の『ヴァレン靴屋』という名前の靴屋がございますわ。はい、こちらがお代です」


 きっちりお代を受け取り、礼を言って店を出ようとする。


「少々お待ちをッ、こちらのローブを持って行ってください。迷惑料のようなものですわ。創世神のご加護の下、安全な旅路になりますように」


 響たちのことを心配してくれたのか、フード付きのローブを用意してくれたらしい。ありがとう、ときっちりお礼を言ってから響と律は今度こそ店を出る。


「どうしよう、律。制服あんなに高く売っちゃってよかったのかな。それにこの黒いローブまで」


「大丈夫だ。異世界のものは珍しいし、質も今着ているものよりずいぶん上だ。正当な取引だぞ。これも素直に感謝して着ておこう」


 店を出て急に弱気になってしまったが、律がうまいことフォローしてくれる。城にいるのが合わないからと一人で飛び出さなくてよかった、と響は心の内で密かに思うのであった。


 通りを北にまっすぐ進んでいると、青い屋根の靴の意匠が施された看板の店が見えた。

 店の前で立ち止まったからか、店主がドアを開けて中へ促してくれた。


「おう、らっしゃい」


「どうも、靴を二足揃えてほしいのだが」


「冒険者か? それならこういった歩きやすいブーツがおすすめだ」


 差し出されたブーツを手に取ってみると、想像以上にずしりとした重みを感じる。例えるのなら登山靴のような感じだ。


「冒険者ってぇのは森の中に行くことが多い。それくれえの方が歩きやすいんだ」


「じゃあこれをもらう」


 響も律も履いてみてぴったりだったため、即買うことにした。


「お前さんたち、収納ポーチ持ってねえな? パーティーで一つあれば当座はしのげる。靴と合わせて金貨3枚で売ってやる」


 収納するものを一つも持っていなかったので大変助かる。ぼったくられているのかもしれないが。


「助かる」


 お金を渡して店を出た響と律は武器や防具の類を身に着けていなかったことを思い出す。自分たちに戦いができるとは思えないが、それでも生きていくためには避けては通れないだろう。

 お金の入った小袋と先ほど脱いだ靴を収納ポーチに入れてみる。


「律、これはすごいぞ。お金の入った袋や靴も入れたのに全然重さが変わらない」


「確かに。冒険者ならみんなこんな便利な鞄を持っているのか……」


 日本にいた頃にも見たことのある普通のポーチなのだが、性能は普通ではないらしい。どこまで入るのか正直気になるところだが、それは追々分かるだろう。



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