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「お前はっ、何でこんなところまでついてきてるんだ!」
鞄に向かって叫ぶ響は傍から見ると変質者であるが、屋上には誰もいなかったので変質者にならずに済んだ。
「きゅうっ」
「きゅうっ、じゃねえ! お前な、ここは学校って言って、動物は入ったらダメなんだよ」
どうして?というように小首を傾けるフェレットに物申したい響であったが、必死にこらえて鞄の中で鳴き声を出さずに静かにすること、と言い含める。
このフェレットがきちんと理解しているのかは不安だが、学校に解き放つわけにもいかず鞄の中にいてもらうしかないのだ。はあ、とため息をついた響は重い足取りで教室に戻った。
「おはよう響、今来たのか?」
「ん? ああ、まあな。おはよう」
獣臭いと言われる響にも一応友達といわれる存在はいる。中須律だ。去年までは別のクラスで一匹狼と言われていたらしいが、響と同じクラスになって響にだけは懐くようになった。律の顔立ちが整っていることもあり、響に懐くようになって柔らかくなった雰囲気のせいかここぞとばかりに近寄ってくる人たちには牙をむくのだから、響の何がそんなに気に入ったのか分からない。それでも響が世話しているシロたちを彷彿とさせるからか、響も律の世話をついつい焼いてしまうのだ。
「響、鞄の中のそれ何?」
「……核心を突かないでくれ」
一匹狼と呼ばれる野生の勘か、鋭い質問に響は正直に話すしかなくなったのであった。
「へえ、じゃあそのフェレットの名前はまだ決めてないんだ」
昼休み、鞄の中で眠るフェレットを見ながら律が言う。
「そうなんだよ、どうしよう」
今までも名づけは相当苦労した。苦労したのに両親からは単純な名前で覚えやすい、と言われる始末。真珠のような白っぽい体だから……。いやでも、パールは安直か?
「悪くないと思う」
「そ、そうだよな! 悪くないよな!」
同意も得られたのだからこの名前で決まりだ。律は響から名前をもらえるだけで羨ましいのだから、少しくらい安直な名前の方がいいのだと、内心でフェレットと競っている。こういうところがシロたちと同類扱いされてしまうところなのだが、律は響に構ってもらえるだけ嬉しいのだ。
そうして5限目の授業が始まろうとしていた時、事は起こった。時間になっても5限目の担当教師が来ないと思っていると、いつの間にか教室の一帯が淡く光っていたのだ。そして床には複雑な模様の、いわゆる魔方陣が輝いていた。「キタコレ、異世界転移ふぉおおおお」と小さな声で叫ぶ生徒がいたり、扉を開けようとして開かずに泣き始めた生徒までいる。
眩しすぎる光に包まれた響たちは、そのまま意識を失ってしまうのであった。