閑話 響と律の馴れ初め1
続きがまだなので、これをどうぞ。
ごうごう、と風が強い日だった。まだ、響が高校生になっていない時だった。響はふと何かに呼ばれているような気がして、夜遅いにもかかわらず外出用の服に着替えていた。まだぎりぎり日は跨いでいなかったが、それでも外に出てみると人気もあったものではない。そうして何となく街に向かって歩みを早める。眠い眠いと呟きながらも引き返す気にはなれず、ぽ~っとする頭でとにかく歩く。そうしてようやく賑わいのある繁華街にたどり着いた。
「おいっ、ふざっけんなよ、このクソガキ!!!」
その声はひときわ大きく響の耳に残り、何故だか気になって声の方に身体を向けた。
するとそこには響と同じくらいか、少し上かくらいの子供がいた。どうやらその子供が何かをやらかして大人の男に捕まってしまったようだ。手首を掴まれてひょろひょろのもやしのような体が持ち上がる。さすがにかわいそうだろうと響は飛び出そうとしたが、その少年の目は歯向かう獣のように鋭く足が止まってしまう。
「くそっ、もういい! 次また俺様にぶつかってきたら殺すぞ!!」
ちぃっと大きな舌打ちをして大の大人が少年を投げ捨てた。そのままその大人は何事もなかったかのように周りの人間を引き連れて繁華街の奥へと消えてしまった。
「君、大丈夫?」
投げられてしばらく動けないようなので、響が少し距離を開けて屈んで尋ねる。
「……誰」
よく見たら整った顔をしている、と響は呑気に少年の顔を見つめる。黒いごわっとした髪に鋭く吊り上がった目、本来であればシャープな顔立ちなのだろうが今は少し痩せすぎている。
「ん? ああ、俺は響、深山響っていうんだ。君は?」
「俺は……リツ」
ふーんと響が興味なさげに答えると少し癪に障ったのかリツと名乗った少年が立ち上がってこちらをねめつけてくる。どうやらひょろひょろしている割に背は響よりも高いようである。
「何でこんなところに子供がいんの」
「君も子供だろ。それに俺こう見えて中3だし」
「同い年? でもその割には……」
まだ成長期が来ていない響は150と少ししかなく、リツに年下だと勘違いされたのだ。
「はあ、ていうか君、家は? さすがにこの時間だと親に心配かけるでしょ」
「……別に」
親というワードに目に見えて沈み込んだので、これは何かあると響のおせっかいな性分が顔を出す。
「そ、でもとりあえず帰る場所について行ってやるよ」
「いらない」
「んー、とにかくここから離れよう。何か子供が来ちゃいけない気がする」
「当たり前だろ、馬鹿かお前。てか何でこんなところにいるんだよ」
さあと響が答えると馬鹿にしているのかとリツが牙をむく。しかし響にもよく分からないのだからこればかりは答えようがないのだ。二人して並んでとぼとぼ目的もなく彷徨っていると、繁華街から離れた公園までたどり着く。ここらでいいか、と響はベンチに腰を掛けてリツが座るのを待った。
「あのさぁ、家出は別にいいけど、今日はどうするつもりなの」
家出はいいのかよ、とリツは思いながらもこの不思議な響という少年に惹き付けられながら素直に答える。
「適当なところで寝るところだった」
「お、屋外とかで?」
こくりと頷いたのを見て響はあちゃーっと顔をしかめる。
「うん、じゃあ俺の家に来な」
「……お前の」
「うん?」
「お前の家族が迷惑に思う」
「いや、それはないかなぁ。うち、結構放任主義だから。それに拾いものをしすぎてこういうの慣れてるんだよね。……野生の人間は初めてなんだけど、たぶん大丈夫」
拾いもの? 野生の人間? たぶん? と、リツからすれば様々な疑問がこみあげてくるのだが、迷惑にならないと言外に示されて少しだけ心が揺れる。
「でも……」
「俺、眠いから帰る。君も一緒に来るだろ」
リツの言いかけた言葉を遮って、自己中に見せかけた優しい言葉をリツに投げかける。そうして有無を言わせずに響はリツの手を引き家に帰るのであった。
「あら、お帰り響」
「ただいま」
「そちらはまた拾ってきたのか?」
「まあ中に入りなさい。こんな寒くて風の強い夜中に出て行くなんて何事かと思ったけど……」
家に帰ってすぐ響の両親が迎え入れてくれた。確かに響は何時に帰ってくるとすら言わずに突然家を出た。心配をかけたと響が心の中で思いつつ、どうせこんなことくらいでへこたれる両親でもないと思い直すのであった。




