20 うちの味
台所からリビングを見ると、星羅はまだ固まったままだ。
星羅は与えられる側になると弱いんだよな。
俺は希望通りに餃子パーティをする為の餃子のタネ作りをする。
「光司さん。見ていてもいいですか?」
寧々はエプロンを付けて俺の横にいた。
「いいですよ」
「何かお手伝いしますか?」
「これ、捏ねると手が臭くなるんで、これは俺がやっちゃいますね」
「分かりました」
微笑んだまま了承してくれた。
「これは、何かこだわりとかあるんですか?」
「いや、特には……。まぁ、うちでよく作ってたやつですね」
「つまりこれが須永家の秘伝のレシピということですね?」
「まぁ、そうですね。その時その時で微妙に変わりますけど」
「へぇ。どう変わるんですか?」
「ガラスープじゃなくて、中華あじ使ったり、浅葱入れたり、キャベツが無くて白菜使ったり。まぁ、その時ある材料で作りますね。ああ、あとニラの代わりに大葉を使ってしそ餃子にしたり」
「そんなに入れるんですか?」
「入れる。これが最終的な俺の最適解だからな」
「凄いですね……」
感心したかのような返事をする寧々。俺もちょっと気分良くなっちゃったし。
どんだけ食べるか分からないが、三回焼く分くらいでいいかな?
まぁ、多く作りすぎたら冷凍にすればいいしな。
ボウルに豚ひき肉、みじん切りにしたニンニクと生姜とニラを入れる。
調味料は、ごま油、塩、胡椒、オイスターソース、ガラスープの素、味の素、醤油、酒を入れるのがうち流だ。
ハイミーでもいいし、オイスターソースがなければ中華あじでもいいし、なんなら創味シャンタンでもいい。
酒の代わりに紹興酒があれば尚いいが、今は切らしてるんだよな。
タレつけなくても食べられるようにするが、濃すぎないようにする。
最初に肉だねを混ぜたら、キャベツをみじん切りにして混ぜる。
まな板の上にキャベツを丸々一個置く。
このサイズなら全部でいいだろう。
「それを全部包丁でみじん切りにしていくんですか?」
「子供の頃はそうしてましたが、今はこういう便利なものがありますから」
棚から電動のブレンダーを出す。
「ただ、注意しないと細かくなりすぎちゃうんですね。歯ごたえ出すには粗みじんな方がいいですから」
「なるほど」
その目は、しっかり受け継いでいくといった、信念のようにも見えた。
そうして数分でキャベツをみじん切りにしたら、あとは混ぜて完成だ。
水分が出ないようにするのが大変なんだよな。
本当ならニラも絞った方がいいんだが、手がマジで臭くなるし、そこまでする必要もないしな。
「調味料とか計らないんですか?」
静の声がしたので、ふとカウンターの方へ頭を上げる。
いつのまにか、カウンターの向こう側で三人が真面目に見ていた。
工場見学される側ってこんな気持ちなんだろうか。
「ああ。いつも通りにしてるだけだから」
「後でおおよそでいいので分量とか教えて下さい。再現出来なければ意味がありませんので」
「まぁ、そうだな。うん。あとで測っておくわ」
「ええ。お願いします」
静はそう言うが、感覚派のユイと星羅はふんふん言いながら頷いてるぞ。
「まぁでも、目分量だけど、毎回同じ味にできる自信はあるんだ」
「なるほど。職人技ですね」
「そんな大したもんじゃないと思うんだが、まぁ慣れと経験だな」
測っても同じにならないことはあるからな。
「味を共有するというのは、関係を共有することですね」
静が呟くように言ったが、俺もその通りだと思う。
「まぁ、そうかもな」
そう言うと、カウンターの向こう側の三人が揃ってサムズアップした。
「コージ、あーし覚えたよ」
「わたしも覚えたわよ」
「しかと記憶いたしました」
横を見ると寧々もニッと笑う。
「光司さんの味、受け継ぎました」
それは食べてからだろ。
まぁ、それをここで言うのは粋じゃないな。
「少し寝かせたら包むか」
四人とも元気よく頷いた。
「ところで皮はどうするんです?」
「ああ、皮は市販のものを。粉から作れますけど、量作るとなると大変だし」
手作りの皮だと、焼きも美味いんだけど、水餃子や蒸し餃子なんかの方が好きだな。
まあ市販のでも美味いから、そこまでこだわらないだが、今度作ってもいいな。
「そうなんですね。皮のレシピも後で教えてください」
寧々は勉強熱心だなぁ。
「いいぞ。何でも教えるよ」
「なんでもって……」
どうしてそこで赤くなるかなぁ。
カウンターの向こう側から、エアコン付けてないのに、強風の冷気が吹いてくるんだが。
仕方ないな。
「お前らも何でも聞いてこいよ」
ピタッと風が止む。
「な、なんでもって……」
「ふ、ふーん。少しは進歩したじゃない」
「及第点ですが、悪くありませんね」
「料理の話だろ?」
「そ、そーだよね。あ…あはは…」
「知ってるわよ、もう……」
「……逆に何だと思ったんですかねぇ」
静、それは俺のセリフだ。
だってそうしないと俺の真横から、ぶっといつららが当たりそうだったんだ。
チラッと見ると、ニコニコしている寧々。
おかしいな。家の中にいるのに雪原にいる気分だ。
少しは前に進んだと思ってたんだがな。




