3話
「…じゃあ行こ」
「ちょっと! 待ちなさいよ!」
「うん?」
「うん?」じゃないわよ。エリアスを食事に誘ったら一瞬のあいだ固まって、それからすぐにアタシの手を掴んできた。
「手を放して」
「ああ、嬉しくてつい」
「そんなにお腹空いてたの?」
「…違う」
無意識にアタシの手を掴んで外に行こうとするぐらいだから、空腹なのかと思い聞いたら物凄く渋い顔で否定された。
「違うの?」
「違う。その話しはもういいから飯食いに行こ」
「書類片付けるから待って」
「分かった」
・・・
「で、アンタは何か食べたいものあるの?」
「団長は?」
「アタシは別に何でもいいわよ。アンタの好きなとこにして」
「分かった」
「確かにアタシは何でもいいって言ったけども……だからってガールズバーはないでしょ!?」
まさかアタシを連れてガールズバーを選ぶとはいい度胸してるわねコイツ…
「なんでもいいって言ったじゃん」
「そうね。アンタに任せたアタシがバカだったわ」
「まあ、冗談だけど…」
「アンタの事だから本気かと思ったわよ」
「団長ってばいいリアクションしてくれるから」
コ、コイツ…!
どれだけアタシをおちょくれば気がすむのよ!
「本当はその3個先にある店」
「どれよ?」
「アレ」
エリアスが指を指した先には『オークタロウ丸』という悪そうなオークの絵が書かれた看板のある店があった。
「あの店でいいの?」
「うん」
「じゃあ、入りましょっか」
さっそく店の中を覗くとカウンター席とテーブルに分かれていて、客のほとんどが男性客だった。
「店の名前通りオーク肉を使った料理ばかりね」
メニュー表には『オーク肉のすき焼き定食』や『オーク・オーク・やっぱりオーク』とかいう肉が山盛りになっているメニューが書かれていた。
「ここは『オーク丼』が名物で美味しいんだよ」
「じゃあアタシはそれにしようかな」
この店には初めてくるし、せっかくなので名物商品を食べることにした。
「じゃあ俺は『オーク・オーク・やっぱりオーク』にしようかな」
「本当にそのよく分からない名前のメニューを頼むの!?」
「うん、前に来た時から気になってんだよね」
「というか、そのメニュー凄いボリュームだけどアンタ1人で食べられるの?」
「余裕」
本当に?
本当にアンタ1人で食べきれるの?
この男は騎士にしては体の線が細くボリューミーな料理を1人で食べられるようにはとても見えない。
「本当に平気?」
「平気。食べれなかったら団長にあげるから」
「アタシに食べさせるつもり! 食べないわよ!」
「冗談だよ。じゃあ、注文するね」
「ええ、余計なこと言ってないで早く注文して」
そう言ってエリアスは本当にあの謎メニューを注文した。
「アンタってこういう店に来るのね」
もっとお上品な店に行っているイメージだったから意外だ。
「たまに来るぐらい」
「そうなの?」
「団長が肉食いたいって顔してたから」
「どんな顔よ!?」
アタシはそんな凶暴そうな顔は断じてしてないはずだ……え? してないよね?
「だって肉好きでしょ?」
「好きだけど…」
なんでアンタがそんなこと知ってんのよ…
「ねぇ?」
「どうかした?」
実はこの店に入ってからずっと気になっている事がある。
「アタシたち他の客からすごく見られてない?」
「ああ」
「やっぱり女性客が珍しいのかしら?」
まあ、アタシだけでなくコイツの雰囲気もこの店に合ってないけど。
「見ての通り男性客ばかりだからね。それにカップルは帰れって顔してるよねー」
「か、カップルって!? え、アタシたちそんな風に周りから見られてるの!?」
「男女が一緒に食事してたらカップルだと思う人もいるんじゃない」
確かにそうかもしれないけど…
「でもアタシよ?」
「団長は美人だしかわいいよ」
「は…?」
「服だってイメージと違ってお洒落だし」
「そ、それは…」
「もしかして片想いの相手のために努力したの?」
「う…」
「図星じゃん」
「悪いか! 好きな相手には少しでもよく見られたいじゃない!?」
「ムカつく…」
「何が!?」
ムカつくって何よ…アタシがお洒落したら悪いのか!
こっちは先輩の気をひくために頑張って勉強したんだから!
「だいたい今回こそアンタには関係のない話しでしょ!」
「あるよ」
「どこが?」
「だって俺、団長のこと好きだから」
「え…?」