第七話
今回はちょっと短いです。
前半静香視点、後半第三者の視点です。
数十年前。
魔王が生まれ、人々が恐怖に怯えて暮らしていたある日、王様は最終手段として勇者召喚を行った。魔法陣から流れ出す光が収まると、そこには一人の少年が立っていた。
少年は黒髪黒目。
顔は整っているのに、睨むような目つきのせいで近寄り難い雰囲気が出ていた。やがて、仲間と共に魔王を倒した少年は、国民から慕われ、勇者様と呼ばれた。
「この時召喚されたのが親父で当時15歳。ちょうどその頃、荒れてたらしくてね。不良だったらしいよ」
「父さん…あの人は昔からガラ悪かったんだね」
何度、凶悪犯っぽい顔ってだけで逮捕されかけたか…その度に、何度私と母が引き取りに行ったか…警察の人も、だいぶ顔馴染みになってたっけ。
私が昔の苦労を思い出しているうちに、だいたいの話は終わったみたい。どうやら二人は、そんな父さんにこちらの世界へ送ってもらったようだ。
「まぁ普通は無理なんだけどね。どうやら、男にだけ受け継がれる力があるらしい。無事に来れたのはそれのおかげかな」
「父さんが異様なのは分かった。それで、五年たったのに、今頃なに?」
圭兄を見ながら言うと、苦笑して私の頭を撫でた。…しまった。圭兄に当たってしまった。バツの悪そうな顔をすると、圭兄は笑った言う。
「ゴメンな。兄ちゃん来るの遅くて」
「…ごめんなさい」
シュンとなって謝る私を、圭兄は頭を撫で続ける。…この人、これが癖だと思うんだな。なにかあるたびに、撫でられてる気がする。
「ほらほら静。俺にも甘えろよ」
「無理」
「無理ってなんだよ、無理って」
座りながら両腕を大きく広げた兄さんに、真顔で答えた。兄さんは残念な顔を作り、一瞬にして真剣な顔になる。その様子に、周りで見守って来た団長達も真剣な顔になった。静まり返る部屋の中で、兄さんは口を開いた。
「静。俺達は、お前を探しにきただけであって、連れ戻しにきたわけじゃない。勿論、帰ってきてほしいと望んでる。けど、それはあくまで俺達の願望。元の世界へ帰るか、この世界へ残るか、お前が自分で決めるんだ」
兄さんのあまりにも真剣すぎる表情に驚いてしまった。そして、可笑しくて声を出さずに笑う。この兄がこんな真剣な顔するなんて初めてだ。何をしても緊張感がなかったこの人が、今目の前で真剣な眼差しで私を見てる。その状況が、何故だか可笑しかった。十分笑ったあとに、兄達に微笑んで言う。私の気持ちが、きちんと伝わるように。
「私は、ここに残るよ。あっちの世界に何か残してるわけでもないし」
「そうか。流石静だな」
何が流石だ。この二人、絶対に私がどう返事するか分かってたはずだ。そうじゃないと、こんな余裕の笑みを浮かべてるはずがない。笑う兄達に溜息をつく。圭兄は、隊長達の方を向き、頭を下げて言った。…てか、思いっきり存在忘れてた。ゴメン。
「これからも、妹と仲良くしてやってください」
そう言って頭を下げた圭兄に、誰も何も言わなかったけど、皆、圭兄と同じように頭を下げた。それを見て、静かに笑った。
同時刻。
空は黒に、月は紫に染まっている。ここは魔国。昼のはずなのに夜みたいな風景。それが魔国の特徴だ。魔国。かつて、世界最強と言われた魔王が創り出した魔族、魔獣達の母国。魔王が倒されてからも、国民が魔王を尊敬するのは変わらなかった。魔国の中心に存在する魔王城。かつて魔王が住んでいた城は、当時のまま大切に残されていた。
「セシル様。準備が整いました」
「ああ。それでは始めよう。エーリ、扉を閉めてきてくれ」
そんな城のある一室で、何かが行われていた。その部屋には、セシルと呼ばれた人物とエーリと呼ばれた人物の二人しかいない。人間とほぼ同じ容姿の二人。ただ、耳の形が人間とは違い、尖っている。二人は床に書かれた陣のようなものの傍に立つ。紫の瞳に同じく紫の髪。濃さの違う二つの色をもつセシルは、陣を眺め呟いた。
「いよいよか…」
「はい。長かったですね」
セシルの呟きに、青い瞳に黒い髪を持つエーリが答えた。二人の顔には笑が浮かんでいる。セシルは、陣に触れながら、言った。
「新たなる主、新たなる王として降臨せよ」
セシルのその声に反応するかのように、陣が光る。それを少し離れて見守る二人。やがて眩しすぎる光がおさまると、陣の上には一人の少年が立っていた。黒目黒髪、長身の少年は、驚いたように目を見開かせ固まっている。それも様になるようなほど、彼の顔は整っていた。
「ようこそ、我主。新たなる魔王」
笑顔で言うセシルとエーリ。少年は、引きつった笑みを浮かべた。
この瞬間、黒目黒髪の新たな魔王が誕生した。
新しい魔王の誕生が、新たなる問題の引き金になるとは、誰もわからなかっただろう。
今回は、自分的には節目の話なので短くてもいいかなっと思って投稿しました。
無理矢理に兄たちを登場させたわけですが…
父親の話は後ほどゆっくりとすることにします。
それでは次回。