第八話
今回、少し短いです。
兄達が現れた翌日。
「今日から特攻隊に加わるシズカだ」
「よろしくお願いします」
私の所属する隊も決まった。ウィルさんに言われ、集まっていた男達は野太い声を上げる。うわぁ…ほぼ男だ。お辞儀をした私に視線が集まる。めっちゃ不審がられてる。そりゃ、そうだよね。女が特攻隊とかビックリしますよね。私もしたから。どうやら、この白露も注目を集めている原因のようだね。団長さんの話では、特攻隊は隊の中で一番訓練が厳しいそうだ。しかし、ウィルさんが面倒を見ることになった。うん。静なら大丈夫だって兄さんが言ったせいで、決定したんだ。いいんだけどね。
「じゃあ、いつもどおり訓練を始めるぞー。静香。適当なところに混ざっておけ」
「了解しました」
そう言って男どもをぐるっと見渡す。…なんだその目は。どいつもこいつも、ワクワクしたようなキラキラしたような目をしている。…まさか、これか?団長が言ってたやつ。この隊に入ることが決まった時、団長に一言「はじめはなにかと大変だが、頑張れよ」と言われた。これか?これなのか?
そんな事を思いながら、取り敢えず様子見のために一番後ろに付いていくことにする。
「それでは、始め」
ウィルさんの声と共に、一斉に男達が走り出す。一通り、ウィルさんから訓練内容の説明は受けていた。まず、訓練の頭にやるのがランニング。ランニングと言っても、普通ではない。走行の邪魔をする罠が沢山仕掛けられており、それを避けながら10週、城の周りを走る。大変きついそうだ。で、今、初めての罠に遭遇しているわけだが…
「まさかの魔獣?」
私の前に現れたのは全長3mの熊っぽい魔獣。まぁ武器があれば楽勝で行ける相手だ。しかし、この隊の基本は。
「これを素手とかマジか」
素手なのだ。隊の人達はあっさり倒して行ってるので、私もあっさり倒していかなければいけない。ちょっと考えてから、足を肩幅に開き、右足を一歩後ろに下げかがむ。取り敢えず、右足を全力で熊に叩き込む。
「グェ!?」
悲鳴を上げながら倒れた熊を確認して走る。取り敢えず、なんとなく感じは掴めた。ペースが分かった私は、どんどん進んでいく。罠は最小限の動きで避け、避けきれなかったものは叩き潰す。これが効率的だ。こうして、ラスト一周になり、スピードをあげる。
「よー新人」
そんな時、話しかけてきた一人の男がいた。この体では少ない部類の細くて赤髪緑眼のイケメン。なんだと思いながら、一応先輩なので敬語で丁寧な対応をする。
「なんでしょうか」
「お前、なかなかやるな」
「どうもありがとうございます」
褒められたので素直に礼を言う。爽やかな笑顔を向けた先輩は、私の横について走る。正直、物凄いやりにくい。私は、先輩に向かっていう。
「お先にどうぞ?」
私がそう言うと、ニコッと笑って先にいく先輩。…何だったんだ、あの人。首を傾げながらも無事完走した私は、息を整えていた。順位的に言えば中間くらいだった。いやー思ってたよりきついです。流石、騎士団一訓練が厳しい隊。そんな事を思もいながら、じーっと次々に完走するマッチョ軍団を見て、私は感心する。
あの筋肉量で、凄い素早い動きをする。普通の人よりも早いんじゃないかな…流石だ。
「シズカ。どうだ?」
私がマッチョ軍団を観察していると、ウィルさんが話しかけて来た。どうだ、とは訓練の事かな?私は笑顔で言った。
「なかなか、凄い事をしているんですね。ロッジが出て来た時には、ビックリしました」
ロッジとは、あの熊型の魔獣。私がそう言うと、ウィルさんは満足そうに言った。
「そりゃあ、俺が全て考えたからな。特攻隊ともなると、これくらい楽々とこなしてくれなきゃな」
そうは言うけどウィルさん。流石に皆さんキツそうだよ。嬉しそうだから言わないけど。最後の人が完走すると、次の訓練に移る。次は…
「いくぞー。始め」
その声と共にマッチョな男二人がぶつかり合う。いわゆる、体術とかいうやつかな。取り敢えず、体当たりが凄い。ラグビーしてる人とかのタックルみたい。ぶつかり合った時の音が凄いんですよ。試合形式で進んでいくので、勿論私にも当たるわけで。
「ちょ、隊長。あれは流石に」
「仕方ねーだろ。残ってんの奴しかいねーんだ」
先程の先輩が少し焦った表情でウィルさんに問う。私の目の前には、私の身長の倍はあるマッチョな男。まだ、少ない方の細マッチョの方がマシなはずだ。そんな思いを込め視線を向けるとちょっと挑戦的ににやっと笑うウィルさん。…まさか、試されてる?ウィルさんの表情を見て溜息をついた。仕方ない。やるしかない。
「それでは始め」
そう言われて、相手に軽く頭を下げる。あー…その余裕って顔、ムカつくなぁ。相手からすれば、私は女で小さくて、楽勝に勝てる相手ってところだろう。私は相手の男を観察するように見る。そうしているうちに、私が動かないからか、相手から動く。その巨体からは想像できないような動きで私に近づく。
近づいてくる拳に、当たったら痛いだろうなぁと思いながら避けた。ぶんっとバットを振りかぶった時に出来る空気を裂くような音がして目を見張る。こっわ!
「ちっ」
どうやら避けたことが気に障ったのか、苛立ち始める。うぉう。苛立っても、その威力は変わらない。むしろ悪くなる一方。そこで私は考えた。一瞬で決着をつけるのは無理だろう。どうやら彼は、バランスが悪いらしい。それじゃあ、そのバランスを壊すまでで。
「っ!」
取り敢えず、全力で足払いをしてみた。しかし、流石マッチョ。ちょっと動いただけでダメージは少ないみたい。私の足へのダメージは大だけどね!痛みをこらえ、少しの隙をついて攻撃していく。と、そんな中で、一箇所だけマッチョ男が苦しそうな声を出した。
「膝?」
マッチョ男が図星のような顔をする。…そりゃあ、膝に負担はかかるだろうけど、もうちょっと鍛えておきましょうよ。というか、だからこの人、足で攻撃してこなかったんだ。それに気づいた私は、膝を中心に攻撃をしていく。私の目標は、こいつを投げることだから。
「ぐっ!」
ついでにお腹にも攻撃しながら、腕を掴む。うわぁふっといな!両手で掴んでも掴みきれない太い腕を精一杯、引っ張って投げた。
「いっ!?」
自分の足が、手が、身体中が軋む音がする。だが、私の目標はコイツを投げる事だ。ギリっと歯を食い縛り、体を前へと倒す。
「っ!!!」
巨体が浮く。それと同時に踏ん張る。ダァンッと物凄い音が響き、シーンとなった。私はウィルさんの方を振り向き、Vサインをしてにぃっと笑った。どーだ、とでも言うように。その瞬間、どかっと野太い声が響く。うるさいなー。ウィルさんの驚いた表情を見ながら、ざまーみろと心の中で呟いた。
「シズカ!?」
グラっと視界が傾いて、地面が近づく。その時のウィルさんの表情は、とても印象的だった。普段、俺様なのに、必死な表情で駆け寄って来るウィルさんの姿に、この人お人好しなんだとのんきな事を考えながら、私は意識を飛ばした。




