第8話
仕事やプライベートといったいつも通りの差し障りのない会話で盛り上がっていたら、いつの間にか日が落ちようとしていた。
そろそろ夕飯時だし、別のところに移動しようということになりカフェを出た。
日が暮れても、まだまだ気温は高かった。
あっという間に湿り気を帯びる肌に、眞美は内心うんざりする。
夕焼け色に染まった道を歩きながら、眞美の視線は自然と下に下がっていく。
このままじゃいけないと分かっているつもりでも、眞美の体は思うように動いてくれなかった。
自分の望みは、彩芽と「友達」になって「平和」を手にすることだけなのに、どうしてこんなにも上手くいかないのだろう。
ふいに彩芽がカバンの中からスマホを取り出す。
「あ、お母さんからだ」
彩芽の声で我に返った眞美の視線が、意図せず彩芽が手にするスマホの画面に吸い寄せられる。
内容なんて見るつもりはなかった。
しかし、見えてしまった。
次の瞬間には、眞美の口からその言葉がこぼれ出ていた。
「彩芽、あのときは本当にごめん……」
「ちょっと、急にどうしたの?」
母親からの「今日の夕飯どうするの?」という質問に対して、彩芽の答えは「友達と食べるからいらない」だった。
友達と食べる。
中学生の頃、あれほど利用し裏切ってきた相手を、彩芽は友達だと思ってくれている。
胸がしめつけられるように苦しい。
自分はなんてことをしたんだろう……。
「……本当にごめんね」
しゃがみ込んで嗚咽を漏らす眞美の背中に、彩芽の手が置かれる。
どこかいたわるように優しくさすられる感触に、再び涙が止まらなくなる。
心の中を覆っていた霧がやっと晴れる。
私は彩芽と「対等」になりたかった。
彩芽と友達になりたかった。
だから会い続けた。
加害者でありながらも、裏切り者でありながらも、叶わない思いを夢見続けた。
自分の罪としっかり向き合わない限りは何も始まらないのに、それすらも気付かないまま。
眞美は溢れ続ける熱い水滴を払い、一つ深呼吸をする。
過去は変えられない。
失った信頼は取り戻せない。
それでも。
努力しよう。
もう一度彩芽と友達としてやり直し、今度こそ本当の平和を手に入れる。
気付けば胸の痛みは消えていた。
眞美は心配そうにこちらを見つめる彩芽に向き直る。
「私、彩芽と友達になりたい」
思わず目を瞠った彩芽は、次の瞬間にはこぼれるような笑みを浮かべる。
「何言ってるの。私たちもう友達でしょ?」
オレンジ色の光が二人を愛おしげに包む。
それぞれの瞳に浮かんだきらめきが、いつまでも優しげに輝いていた。




