第1話 プロローグ 愛し児の祈り
ここは辺境の地にある、それなりに大きな神殿である。
国の中枢である王都から遠く離れたこの地は、他国との接点としても重要な地とされていた。
この地には、王都に向かう街道があるのだが、魔物が昼夜問わず出現するため、怪我人が絶えない。だからこそ神殿は、『聖女』や『聖女見習い』を王都から呼び寄せ、治療を行うための拠点となっていた。
そんな神殿では、10人の『聖女』と、50人の『聖女見習い』が共に生活していた。
聖なる力が発現する者は、そのほとんどが貴族の令嬢であり、平民から聖女になれた者はこれまで一人もいなかった。
だからこそ、『セレナ』という少女は理不尽な扱いを受けていた。
両親を事故で亡くし、孤児院で10歳まで育ったセレナは、『聖女見習い』がやるべき雑用を全て押し付けられ、夜中の巡回も毎日やらされていた。
セレナは運よく魔力量が多かったため、魔力を体力へ変換して何とか過ごしてきたが、栄養不足と過酷な労働のせいで、身体は10歳の頃から成長していない。今年で15歳になるというのに、彼女の年齢を気にする者は誰もいなかった。
ただ、彼女の本質はとても優しく、決して誰も傷つけない。
自分よりも怪我人を優先し、いつも寝不足だった。
「痛みを取って差し上げることしかできないのです。ごめんなさい」
彼女の口癖を、他の『聖女見習い』たちがこぞって馬鹿にしていた。自分たちは、その痛みを取ることすらできないというのに——
今日もあの子は、自分のことなど後回しにしていた。
自分の食事を怪我をした子どもへ譲り、治療で疲弊した身体を引きずりながら、洗濯物を抱えて歩く。
痛みに顔を歪める者がいれば駆け寄り、冷たくあしらわれても、ただ静かに頭を下げる。
そんな姿を、私はずっと見守ってきた。
あの子は、自分の優しさに価値があるかを知らない。
だからこそ、私は願わずにはいられなかった。
どうか、あの子が幸せになりますように、と。
……まあ、運命を司る神である私が願うのも、おかしな話なのだが。
なぜなら――。
あの子は、私の愛し児なのだから。




