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炭焼き研修開始

----- 第1期炭焼き研修 -----

 正式に薪問屋に所属することになったので、宿屋の方は退職することになる。

 炭焼きを始めたあたりから事情は伝わっていたので、円満に退職ができた。

 求職時の条件に「長く勤められる人」とあったのに

 半年も持たずに辞めることを謝罪した。


 辞めるにあたっていくつかの点で、薪問屋に助力してもらった。


 まず現在、俺が荷担ぎ出来なくなったことで、薪問屋が人手の肩代わりを

 しているのを、新しい人が見つかるまで続けてもらうことになった。

 また木炭について、半年後の薪ギルドからの正式発売までは

 特例として、薪ギルドから供給することにしてもらった。



 薪問屋での俺の仕事のひとつの炭焼き職人の育成だが

 カハートの炭焼き工場が建つまでは、中州で行うことになった。


 中州には現在、土饅頭型の中型の窯が2基

 露頭を掘りぬいた大型の窯が1基ある。

 いずれ川の氾濫の季節になったら、中州もこの窯も水没するのだろうが

 そうなるか、カハートの工場が建つまではここを利用する。


 人数は12人。予定は10人だったが、予想より多くの人数が集まった。

 メンバーは20代が3人、30代が5人、40代が4人。


 よく見ると最初に勤めたホテルの同僚というか荷担ぎが、1人混じっていた。

 あとで話を聞いてみると、そいつはお試しで、うまくいくようなら

 他の2人も参加するとのこと。


 研修生の募集は薪ギルドが行った。

 研修の費用は金貨2枚、本人持ち。

 高いようだが、その費用で6か月の研修期間の最低限の寝食が保証される。

 それを考えれば薪問屋の持ち出しと言えた。

 研修費用の一部は、出来高給として俺の懐に入る。



 炭焼き窯の前に集合させて「研修の予定と日程」を説明した。


 これから1か月程度は、俺の炭焼きを手伝って基本的な知識をつける。

 2か月目以降は、俺の指導のもとに交代で炭を焼いてもらう。


 覚えのいい者から試験を受けて

 早い者は3か月、遅くとも6か月で終了する。


 合格した者には資格証が与えられ

 薪ギルドの契約職員として仕事を保証される。

 合格できなかった者は、何も与えられない。


 炭焼きの技術は薪ギルドの専有物なので

 他に漏らすようなことがあれば「厳罰」が与えられる。

 これは、研修期間で資格を取れなかった者にも適用される。



 さらに、「研修の心構え」として、こんなことを述べた。


 だいたい4、5か月で普通に頑張れば資格は取れると思う。

 薪ギルドには、この中の3分の2以上を合格させるように要請されている。

 逆にいうと、3分の1までは落第させて構わないことになる。


 やる気がない者、態度が悪い者は、期間内でも落第させることが有る。

 金貨2枚と6か月という時間は決して無駄に出来る物ではない。


 優秀なものは、賃金で優遇されることもある...だろう。

 研修期間中はどんな質問にも答えるので、必ず資格を勝ち取って欲しい。



 説明を終えて、急に不安になった。

 研修生たちの反応があまりにも様々だからだ。


 これが日本だったら、メモを取るとか、少なくとも全員が傾聴している。

 ここではメモを取っているのは、若手の2、3人。恐らく薪問屋の職員だ。


 他は、隣の奴と無駄話するの、まわりをキョロキョロ見回すの

 わけもわからない風でボーっとしてるの、まるで小学校の低学年だ。


 この国では文盲率が60%くらいだと感じているので

 募集は最低限の読み書きが出来る者に限定した。

 それでも教育や社会経験でかなり人材のバラツキが有るのだろう。


 3分の2の合格率...。

 楽勝に思っていたが、かなり苦戦するかもしれない。


 後半の「研修の心構え」で、6か月以内というのを強調したのはそのためだ。

 正直、だいぶ弱気になってしまった俺は

 ナカエイ会頭と密に連絡を取って、教育を進めることにした。


----- やってみせ -----

 1回目の炭焼きは、おおよその流れを把握させるために、まず俺だけで

 通しの作業を実演することにした。

 説明は、実演の各工程の間に行うことにする。


 そもそも、こいつらは木炭というモノ自体を見たことがない。

 何を作るために、何をするのか、という処を把握してもらわねばならない。


 最初は露頭の大型窯を使って、窯の形状の説明から始めた。

 各部の名称と何のためかを説明した。


 次に原料と燃料の説明を行う。

 どちらも薪で同じ山の中から仕分ける形になる。

 原料に向くのは、広葉樹で樹皮がなく、密で、曲がりがない物。

 太さは5ムンから10ムン(≒cm)、長さは15ムンか30ムン(≒cm)。

 それ以外を燃料に振り向けることになる。割合は1:4。


 樹皮付きは質が下がってしまうので、原料はすべて剥がすほうがいいのだが

 手間がかかりすぎるなら、そこは匙加減となる。


----- 言って聞かせて -----

 ここまでの説明が終わって、実演となる。

 薪を仕分け、樹皮を剥がし、太さ長さを揃え、窯詰めを行う。

 俺一人では時間がかかるので、研修生に手伝ってもらう。


 が、ここで一つ問題が発生した。

 3人いる若手薪問屋職員のうち1人が、手伝いを完全に拒否したのだ。


 3人いる職員は下級貴族出身で、研修に合格して技術を身につけ

 その後の実績によっては、薪問屋の木炭関連の管理職を任されることに

 なっていたらしい。


 ナカエイ会頭の薪問屋では事務職・管理職候補であっても

 現場の実務を体験しなければ、本採用されない。

 日本伝統の現場主義という奴だ。


 ナカエイ会頭としては、薪問屋の採用の際にも、この研修開始前にも、

 その点は本人に充分了解をとっているそうだが

 本人はどうにかなると思っていたらしい。


 そして、賤民といっていい流れ者に混じって肉体労働を行うというのは

 下級とはいえ貴族の矜持が許さないらしい。


 なるほど。認識に重大な相違があるようだ。


 こんなことに時間をかけるわけにもいかないので

 ナカエイ会頭直々に間に入ってもらい

 研修料金を全額返金して、研修には元から参加しなかった扱いにして

 退出させた。

 薪問屋自体も、試用期間中不採用扱いとなったらしい。



 実演に戻って、薪の詰め込みまで終わらせ、火入れを行った。


 窯を燃焼させている間、煙の色と炎の色の説明をおこなった。

 乾燥・炭化・焼き締め・冷却のそれぞれの工程の意味を説明した。


 一人抜けたあとは、比較的順調に進んだ。

 それまでは今一つで、全体的に何をやらなきゃならないのか

 判らない感じがあったのだが。

 とにかく資格試験に合格しなければならないことは、判ったようだ。


 冷却工程の最後、人肌以下に窯の外壁温度が下がったのを、各人に確認させ、

 水を少しかけてしばらく待ち、外壁温度がもとに戻らないことを

 各人に確認させて、窯出しの判断とした。


 閉鎖していた窯口を開いて、中身をかき出した。

 俺自身の炭焼きはすでに十回を超えているので、慣れたものだ。

 「販売できる木炭」「ふるいにかけた灰」「それ以外の販売できない物」

 に3分別して、全員で閲覧した。


 もともとの材料・燃料の目方の合計と、販売できる炭の目方を

 今後必ず記録するように指示した。

 そして、「販売できる炭の目方が20%以上」に出来ることが

 資格試験の要件になると明言した。


----- 夕食会 -----

 製造した炭を二束、研修の教材として使うことをナカエイ会頭に申し入れた。

 ナカエイ会頭は、快く了承してくれた。

 その炭を持って前職の宿屋へ行き、宴会の予約を取った。

 炭の使われ方を、一度見学してもらう必要があると考えたからだ。


 この宿屋は酒を出さないのが素晴らしい。

 業務の延長として、堂々と使える。

 主人の得意料理の鶏の炙り焼きが、炭火であぶられるのを見学し

 夕食会とした。


 このころには薪問屋の給料を貰っており、11人分の食事を奢るのに

 負担は感じなかった。


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