2(sideアル)
「ティアとついに運命の再会をした。」
「一般的にタイミングを見計らってわざとぶつかることを運命の再会とは言わないぞ、アルバート。」
「そうですわよ、アルバート様。女の子の夢をなんだと思ってるのかしら。」
嬉しさを噛みしめながら報告をした俺に呆れながら反論したのは、
ハルクオン侯爵令息のスタンリーとルーラント公爵令嬢のパトリシア。
2人とも幼馴染で、スタンリーは俺の側近でもある。
ここは王城の自室で、お茶会もとい作戦会議のために二人を招いた。
「ティアにとっては11年ぶりの運命の再会だ。なんも問題ない。姿絵で毎日見ていたとはいえ、本物のティアはかわいすぎた。ミルクティー色のフワフワの髪に純粋な心を表すようにキラキラでぱっちりとした瞳、華奢な体、なんだかいい香りもした。倒れそうなティアの腕を取ったあの瞬間はやばかった、そのまま抱きしめてしまいそうだった。驚いて目を見開いてる顔もかわいかったなぁ。11年ぶりの再会を堪能したかったけど、あそこでは次の約束をして去るのがシナリオだからな。我慢して立ち去るしかないのは悔しかった…。でもこれもティアの夢のため。そしてティアと結婚するため。このために11年ティアと会うのを我慢してきたんだ。我慢できず会いに行ってしまいそうだったから隣国に留学もした。長かった…。」
「パティ、このお菓子美味しいよ。食べてみて。」
「まぁ、本当美味しいわ!シェフの新作なのかしら?我が家でもぜひ食べたいわ。」
「気に入ってもらえて嬉しいよ、このお菓子は君のために用意したんだ。うちのシェフの新作だから食べたくなったら僕に言って、パティのためならいつだってすぐに用意させるよ。」
「スタン、私のために?嬉しいわ!さすがスタンね私の好みをわかってるわ。でもレシピは教えてくださらないの?」
「パティ、このお菓子を食べるときは僕と一緒にいるときにしてほしいんだ。パティが好きなお菓子を食べているときの顔は最高にかわいいからね。」
「スタン…」「パティ…」
「俺の前で、俺を無視していちゃつくな!!!」
「アルバート様、誰のおかげで婚約話に悩まされることなく動けてるとお思いですの?わたくしが婚約者だとほとんどの貴族の方々が思っているからでしょう。確かに、協力すると決めたのはわたくし自身ですけれど、まさか本当に11年も待つとは思いませんでしたわ。まぁ、最後まで協力はいたしますけれど、スタンとデートすることも二人で会うこともこうやってアルバート様もいるときじゃないとほぼ出来ませんのよ?感謝こそされど文句を言われる筋合いはございませんわ。」
「そうだぞ、アルバート。僕も君に協力はすると決めたからね、パティが君の婚約者だと噂されてるのは許してる。でもこういう時にいちゃつくくらいは認めてほしいね。」
「ぐぅ…二人には感謝してる。でも俺はティアといちゃつくことも出来ないのに…。」
「「自業自得だろ」ですわ」
こうなっているのには訳がある。
それは11年前、俺が7歳の夏のこと。
俺は幼馴染のスタンリーとパトリシアと共に王家の別荘へ訪れていた。
勉強も運動もなんでも簡単にこなしてしまうことのできる子供だった。
これでも第2王子、婚約者を決めるため同年代のご令嬢とお茶会で話をすることも多かった。
見目のいい俺に頬を染め、当たり障りのない話をするご令嬢たち。
そんなご令嬢たちにまた当たり障りのない返事をするだけの俺。
つまらない日々にうんざりしていた。
今思えばなんてかわいげのない子供なんだと思う。
そんなある日、別荘でずっと過ごすのも飽きてしまい俺はひとり別荘を抜け出した。
別荘の脇にあるそこまで大きくない森を抜ければ湖があったのをふと思い出したのだ。
なんでそれを思い出して行こうと思ったのかはわからない。
ただなんとなく行ってみたくなったのだ。
そして、森を抜けると湖はそこにあった。
―普通のなんともない湖だな。
そんなことを思いながら、湖を眺めていたそんな時だった。
「おにいちゃん、だぁれ?」
ミルクティー色の髪にまんまるの緑の瞳をした少女と出会った。
王子の仮面を被りつつ、身分は隠し、≪アル≫とだけ名乗った。
その少女の名前はティアナ。家族と別荘に遊びに来ていると言った。
婚約者候補として会う令嬢とは全く違う少女。
最初は新鮮な気分なだけだったんだろう。
それから何度か湖で会うようになった。
少女は本を読むのが好きらしい、恋愛ものを読むのが特に好きらしく、
目を輝かせながらくるくると表情を変えながら、
本の話をしてそんな本の世界に憧れる少女はとても眩しかった。
そうして気付けば、俺はその少女に恋をしていたんだ。
それから、ティアナがフリードル伯爵家の長女であること、婚約者はいないことは調べればすぐにわかった。
そして、陛下と王妃に結婚したいことを伝えると、すぐに了承を得られた。
フリードル伯爵家は特に目立った功績があるとかではないものの歴史は古く伯爵自身王家への忠義も厚いこと、国内の情勢が安定していたため他国の姫との政略結婚や国内の貴族のバランスを考える必要がなかったこと、そしてなにより日々を淡々とこなすだけだった俺が初めて心から望んだことが決め手だった。
本来ならすぐさま、婚約を結び発表するはずだったのだが、俺が待ったをかけた。
政略で結婚するのではなく、ティアナが夢見る恋愛結婚にしたかった。
ティアナが特に熱心に話してくれたとある1冊の本。
その本のような運命の恋を叶えたかった。
そのためには、ティアナが16歳になるまで会うわけにはいかなかったし、婚約をするわけにもいかなかった。
そんな懸命な俺にスタンリーもパトリシアも協力すると言ってくれた。
2人とも俺のことを心配していたらしい。
スタンリーとパトリシアがいてくれたからこのわがままが通ったようなものだ。
2人も一緒に親たちを説得してくれた。
スタンリーとパトリシアは婚約することが決まっていたが発表をせず、
俺とパトリシアが婚約するのではないかと噂を流し、だれもそれを否定も肯定もしなかった。
そうして、俺に対する婚約話を遠ざけた。
フリードル伯爵にも話は通しており、ティアナに来る婚約話を蹴るようにしてもらい、断りにくいものに関しては王家がほかの婚約話をその家に流しティアナへの婚約を取り下げるよう取り計らった。
今思えば、よくもここまで上手くいったものだと思う。
そしてその間、俺はティアナに会いたい衝動を我慢するため隣国に留学した、それでもティアナにはずっと王家が手配した護衛をつけさせていたし、1週間に1度はティアナのことを報告してもらい姿絵を1年に1回は送ってもらっていた。
なんだかんだで隣国の王太子や私以外に留学していた他国の王族などとも仲良くなったこともあり、
周辺諸国との繋がりを深くできたのは結果論よかったのではないかと思う。
そうして、めちゃくちゃな俺のわがままで始まった計画はどうにかこうにかうまく進み、
先日やっとティアナと再会を果たしたというわけだ。
「まぁ、ついに運命の再会も出来たしね、再来月の夜会までにはティアと婚約を結ぶよ。だからあと少し、協力してくれ。頼む。」
そう言って、俺は頭を下げた。
「アルバート、頭をあげろよ。俺たちは結局お前が好きだからな。こんな無茶な計画でもお前が楽しそうに過ごしてくれるならいくらだって協力するさ。だから、まぁ、お前の前でいちゃつくのは見逃せよ!」
「そうですわ、アルバート様。つまらなそうな顔をして、外では王子の仮面をかぶるだけだったあなたが必死になれるものが見つかったのですもの。友人として嬉しい限りでしたわ。そんなあなたに協力すると決めたのはわたくし自身です。もちろん最後まで協力いたしますわ。まぁスタンといちゃつける機会は逃しませんけども!」
俺はこれからティアとデートを重ねる。そうして二人は恋に落ちていくんだ。この本のふたりのように。