ピンクの小人(8)
二人を連れてきた場所。そこは白い建物。そう、美喜のところへ二人を連れてきたのだ。
「紹介するわ、彼女が美喜よ。」
私はみどりときーを美喜に紹介した後、美喜を皆に紹介した。みどりときーは美喜を観察している。あかは、ぶすっとした顔をしたまま私の隣にいるんだけど。
「小人って、たくさんいるのね。もも。」
「えぇ、まだまだいるわ。ねぇ、美喜。私が友達を連れてきたのは他でもない、美喜に三つ目の願い事をしてほしいの。」
私は、美喜に真剣に話を切り出した。あかもきーも、みどりでさえ今の私に何かを言うことはない。きっとわかってるんだと思う。私がこれからしようとしていることが。
「三つ目の願い事……。」
「そう。ここにいるみどりがね、美喜の目が治せる力を持ってるわ。三つ願い事を叶えたら、願い事を言った人に一回だけ魔法を使っても良いことになっている。って覚えてる?だから、三つ目の願い事を叶えたら美喜の目が見えるようにしてもらおうと思うの。」
美喜は私の話しに耳を傾けてくれている。けど、一向に嬉しそうに笑ってくれなくて……私はなんだか不安になっていく。
美喜は、眉を八の字にしたまま私に笑みを向けた。私はこの笑みを知っている。苦笑だということを。決して嬉しくて笑っている笑みじゃないことを、私は知っている。
「三つ目の願い事、考えてないんじゃねぇの?」
みどりが額に皺を寄せながら毒づいた。しかし、それにあかが首を横に振った。あかは美喜からきっと全てを教えてもらっていたの違いない。
「いや。美喜さんは考えてるよ、ちゃんと。」
「なら、言ってよ!美喜!!」
あかが美喜を見ながら呟いた言葉。私は美喜へと手を組んで懇願した。
貴方はいつ死んでしまうかわからないの。だから、せめてせめてこの世界をもう一度貴方に見て欲しい。私を、見て欲しい。
「もも……じゃあ、言うわ。三つ目の願い事。それは――」
私は、美喜の願い事に、言葉をなくした。
「え?」
「だから、――」
ひどくゆっくり動く美喜の口。一文字一文字が区切られるように私の瞳に映り込む。
三つ目の願い、それは
わたしが死んでも、笑っていて。
なんて……嘘でしょ?そんな、そんな願い事……。
「をい、それじゃあ、あんたが死ぬまで願い事が叶えられないぞ!?」
みどりが驚いた口調のまま美喜に疑問をぶつけた。そうだ、三つ目の願い事が叶えられなきゃ、美喜に魔法を使うことができない。なのに、なんでそんな……あんな願い事なんか……。
「いいの。目は見えなくてもいいの。目が見えないで触れていたももだからこそ私にはももなの。それを失くしたくない。ももがね、笑っていてくれたら、私は嬉しいの。だから、私が死んでも笑ってて、もも。」
美喜は私に諭すように優しく言い聞かせた。けれど、私は首を横に振る。嫌だ、絶対に嫌だ。私の目から何だが拒否反応を示してあふれ出してくる。
「おねがい……ね?もも……。」
美喜が笑って、私に手を差し出してきた。私の頬に、美喜の手が……触れなかった。触れずに、ベットへと彼女の手は落下していた。
美喜の口から、赤いものが滴り落ちる。私は、目を見開いて彼女を凝視するしかなくて、あかときーが私に近寄ってきて私の手を握った。
美喜の上体が後ろへ下がった。彼女は動かない。
「いや……やだっ!美喜!!」
「もも、落ち着いて!」
私が、美喜に走り寄ろうとするのを、あかとももの腕が引きとめた。けど、動かない美喜しか私の視界には入っていなくて、私は言葉にならない叫びを上げた。
美喜のところへ行かせて欲しいっ。なんで邪魔をするの?なんで?
「離して!離してよ!!」
私はただ必死に力任せに美喜へ近づこうとする。けれど、美喜のそばに大きな白い服を身に纏った人々がやってきて、彼女を台の上に乗せる。
「やだ、連れてかないで!美喜を連れてかないでぇ!!」
私は必死に叫んだ。叫んだけど、私の声が届くのは小人と、美喜だけ。だって、あかときーが私の手を握っているんだから。姿も見えなければ、声も届かない。だから、美喜を白い服を着た人たちがどこかへと連れ去ってしまう。
その間、必死にあかときーを振りほどこうとするけど、二人の力にかなう訳がなくて……結局、私は美喜に置いていかれてしまった。
置いてかれて……
しまったんだ。
あれから、美喜がこの世の人ではなくなったと知ったのは、あかからの口答だった。あの日からすでに一ヶ月が過ぎ去っていた。
私は、何もする気が起きずに自分の家に居た。気力を持たない私を、あかが手を引きどこかへと連れて行く。
あぁ、いったいどこへ行く気なのだろう?でも、今の私にはどうでもいいこと。美喜……。
私は引っ張られるがままに彼の後についていった。
行きついた場所は人間の世界だと思う。だって、ゆうとさんがそこの場所には居たから。石がたくさん並べられている場所。その石の中の一つにやってくると、あかとゆうとさんは足を止めた。
石の両脇に、綺麗なお花が飾られているのが視界に入った。石には、橋田と書かれている。
「美喜さんの……お墓だよ。」
あかが私に言った。私は、その場で立っていられなくて、泣き崩れてしまった。
美喜のお墓。これを目の前にするまで、私は心のどこかで彼女の死なんて受け入れてなかったのかもしれない。だって、美喜と別れたあの時よりも張り裂けそうなほど胸が痛いんだもの。
「もも……。」
泣く私の肩にあかが軽く手を置いた。あかのぬくもりが私の肩から伝わってくる。心配してくれているのがわかる。
私は、涙で濡れた顔を必死に拭って顔を上げる。涙は止まることを知らないけど、なんとか曇った視界に美喜の名前を入れる。享年11歳 美喜。
美喜。美喜との思い出が私の頭を駆け巡る。初めての出会い、いろいろ語り合った日々、一つ目の願いに、二つ目の願い。そして……あぁ、そうだ。最後の三つ目の願い。
「あか……小人が天国にいけますように。ってお願いしたら、神様聞いてくれるかな?」
「あぁ、きいてくれるんじゃないか。」
私の呟きに、あかは返答してくれた。そっか、神様きいてくれる。よね。それじゃあ、早く最後の願い事叶えなくっちゃ。叶えて、神様に美喜のことお願いするんだ。
天国にいけますように。そうお願いすることが、魔法になるはずだから。
「へへ。じゃあ、私。行くね。」
「え?」
私が立ち上がると、あかは驚いたように声をあげる。それもそうか、私は帰り道に背を向けているんだから。
「私、このままあかやゆうとさん、きーやみどりの優しさに頼ってたらいつまでも三つ目の願い事。叶えられないと思うの。だからね、」
私は途中で言葉を区切った。そして、大きく息を吸う。涙は未だに止まらないけど、凄くいい笑顔をあかとゆうとさんに向けられるように、笑顔で口を開いた。
「私、笑顔で美喜にお参りできるようになるまで、旅に出るわ。」
「ま、待てよ。お前、姿が人間に見えるんだぞ?」
あかが手を伸ばして私を引きとめようとする。私はあかの手をすっと避けた。
「いいじゃない。世界で一人だけ見える小人よ。きっと、いろんなことが見れるわ。私、たくさんのお土産話を皆に持ってくる。」
「……もも。」
あかは、手を下ろして私に笑顔を向けてくれた。行って来い。そう言ってくれてるのだと思う。ゆうとさんは、笑いながら私に手を振った。
「あか、私ね。あかのこと好きよ。大好き!だから、絶対戻ってくるよ。安心してね!」
それだけ言い残すと、返答を聞かずに私は走り出した。涙は拭っても拭っても溢れてくる。でも、なんだか気持ちは暖かい部分も少しあった。
あかが真っ赤になって抗議しているのと、ゆうとさんが笑いながら見送るのを背に受けて、私は旅に出る。
きっといつか、三つ目の願い事が叶えられる日がくるまで。
きっといつか、また好きな人と出会える日まで。
私は私なりに見てこよう。
世界でただ一人の見える小人として。
いろんな世界を。
完
終わりましたね…。
なんだかももの話はももの一人称だったので、ももが一人で暴走した感が否めない気がします(==。)
でも、彼女なりの少しの成長を見ていただけたらなと思う作品です。
まぁ、ももはそのうち一回りも二回りも大きくなって帰ってくると思います。
この話に付き合ってくださった方々、ありがとうございました。
またこの夢の住人シリーズはそのうちひょっこり書きたいと思いますので、見かけたらそちらもどうぞ。
今度はみどりあたりの話を書きたいです。




