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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第九章 消えゆくモノ、金色の輝き
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第百四十七話 失われた輝き

 目の前で、崩れ落ちていく。


 思い出の場所が。


 大切な場所が。


 俺の居場所が。


 心の中にどす黒い『何か』が渦巻き、頭に痛みが走ったところで――――瓦礫の山と化したギルドホームの中心から炎のドームが燃え上がっているのが見えた。


「姉さん!」


 炎のドームの中心にはエリカさんがいて、周りには気を失ったクラリッサ達が集まっている。


 彼女がみんなを助けてくれたと分かったことでホッとし、心の中に渦巻いていた何かがスッと消え、頭痛も収まる。


「エリカ・ソレイユか」


「こうして間近でお目にかかるのは初めてね。ラヴァルスード」


「フッ。そうだな。だが、随分と都合の良いタイミングで現れたな」


「自分がわざわざ転移してきた場所ぐらい考えなさい。ここは七色星団が作り出した結界の中よ。アンタが入ってくれば、この学園の生徒会長である私に感じることぐらいは出来るように作られているわ」


「なるほどな。いやはや、貴様に会えて嬉しいぞ。嘘までついて妹の正体を隠そうと必死になっているお前は、傍から見れば滑稽だった」


「黙りなさい」


 エリカさんは淀みのない手つきで薬を腕に打ち込み、右手で炎剣を掴み取ると、ラヴァルスードに向けて飛び掛かる。


「アンタさえここで倒してしまえば、無駄な嘘をつかずに済む!」


 爆発を思わせるほどの凄まじい衝撃と音が炸裂する。


「薬を使って無理やり魔力を白と同質のものに置き換えているのか。下等生物の考えそうなことだ」


「無理やりでも、ダメージさえ入ればアンタと戦える!」


「『戦える』?」


「ッ!」


 黒い魔力の壁が、エリカさんの炎と刃を完全にシャットアウトしていた。


「勘違いするなよエリカ・ソレイユ。今のオレは『巫女』の力を吸収し、より高位の存在へと進化を果たした。もはや貴様如きが『戦える』存在じゃァないんだよ」


 黒い魔力は金色のスパークを帯びると、一瞬でエリカさんの炎をかき消した。


 加えてラヴァルスードは素手でエリカさんの剣を掴み取ると、一気に握り潰す。


 魔力で編まれ、鍛えられたはずの剣が粉々に砕けてしまった。


「なっ……!?」


「もはや『星眷魔法』など、進化したオレには通用しない」


 それでも、エリカさんは諦めていなかった。


 薬で体を蝕まれながらも魔力を体中に集めて突撃を仕掛けようとするが、


「無駄だ」


 ラヴァルスードが発動させた重力の魔法によって地面に叩きつけられてしまった。


「ぐッ……あああああああああああああああああああああああ!?」


「姉さんッ!」


 フェリスが叫ぶ。


 聞いたこともないようなエリカさんの悲鳴を聞き、体を震わせている。


「ッ……! まだ、まだ…………!」


 それでも。


 重力によって体を無理やり押さえつけられながらも、体中からミシミシと骨や内臓が軋むような不吉な音を発しながらも。


 エリカさんの目はまだ死んでいなかった。


 少しずつ、少しずつ手を伸ばしていく。


 既に剣を砕かれながらも。


 力を無駄だと切り捨てられながらも。


「フェリスは……私が…………絶対に……守って、みせ……る…………!」


「無様だな。エリカ・ソレイユ」


 だが、そんな彼女すらをも魔王は冷たく見下している。


「オレは貴様を多少なりとも評価している。人間にしては凄まじい強さだ。いずれはあの七色星団にも匹敵する力を得るだろう。だが、今の貴様はあまりにも無様だ。見てられん。いっそのこと、一思いに首を刎ねてやろうか」


 魔王は呟くと、右手に剣を生み出す。


 視線を地面に這いつくばる形になっているエリカさんに向けると、更に重力を強めてエリカさんの体に負荷をかけていく。


「う……あ……! かはっ………………!」


 とうとう身動きすら取れなくなってしまっただけでなく、エリカさんの体中から血が噴き出し始めた。


 まるで、傷口が無理やり広げられているような。


「逃げて! 逃げてください、姉さんっ!」


 フェリスの悲痛な叫びに対してラヴァルスードは笑みを浮かべると、黒刃をエリカさんの首に向けて振り下ろし――――、


「『スクトゥム・デヴィル』ッ!」


 間一髪のところで、俺が転移魔法で駆けつけてラヴァルスードの刃を白銀の剣で受け止めることに成功する。


「ようやくお出ましか。ソウジ・ボーウェン」


 ニタリと冷たい笑みを浮かべるラヴァルスードは気に食わなかったが、俺はまずエリカさんを転移魔法で重力魔法の圏内から移動させる。


「あれからまだ間もないが、それでもオレにとっては長い時だったぞ」


「そんなに俺達に負けたのが悔しかったのか?」


「『悔しい』か。違うな。これは『悔しい』という感情ではなく、『復讐心』というやつだ」


 ゾッとするような冷たい魔力がラヴァルスードを包み込む。


 以前とは明らかに違う不気味さ。


「貴様への復讐心があればこそ――――オレは以前より力を求めるようになった。故にこの進化へとたどり着けた」


「進化? お前が攫った『巫女』達のことか!」


「そうだ。『巫女』の力を取り込むことでオレは進化した。だがまだ足りない。あと三人。三人の巫女の力を取り込めばオレは究極の存在へと進化を果たす。ただの蘇りではない。完全復活を遂げることが出来る」


「そんなことさせるか!」


 力任せに剣を押し付け、弾き、距離をとる。


 魔力を練り、瞬間的に爆発させるように開放していく。


最輝オーバー――――」


「ソウジくん、それは……!」


 背後からフェリスが心配するような声が聞こえてくる。


 言われて、彼女は俺の消えていく記憶のことを心配してくれているのが分かる。


 ああ、分かっている。


 分かっているんだ。


 最輝星オーバードライブを使えばより前世の『勇者』という存在へと近づいてしまうこと。


 それによって今世での記憶が消えてしまうことも。


 それでも、『最輝星オーバードライブ』を使わなければ魔王には勝てない。


「――――『最輝星オーバードライブ』!」


 白銀の嵐を切り裂き、翼を広げて拳を握る。


 かつて魔王を倒したこの姿を見ても、ラヴァルスードは笑みを崩さない。


「ソレには二度の敗北を喫した。だが、今のオレにとっては脅威にすらならん」


「試してみるか」


「いいだろう」


 俺は翼を広げ、ラヴァルスードへと突き進み、拳をラヴァルスードの胸に向けて打ち込もうとする。が、それよりも早くラヴァルスードの手が俺の拳を受け止めた。


 触れただけで分かる。否、分かってしまった。


 奴の中に眠る、強大な力を。


「どうした。その程度か」


「ッ、まだまだ!」


 怯んでいる暇はない。


 俺の後ろには守らなければならないものがある。


 負けるわけにはいかない!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 拳や脚を何度も何度も打ち込んでいく。


 一発一発に魔力を込めているが、ラヴァルスードは涼しい顔をして受け止めている。


 攻撃が効いていないのは明らかだった。


「それなら!」


 背中の翼を分離させて刃として扱い、周囲に展開させて一斉にラヴァルスードへと打ち込む。


「無駄だ」


 ラヴァルスードの体から黄金のスパークをまとった黒い魔力が一斉に放出された。


 俺が放った翼の刃は瞬く間に吹き飛ばされてしまう。


「くっ…………!」


 明らかに以前とは違う。


 俺も強くなったはずなのだが、ラヴァルスードの進化はそれ以上だ。


 奴との間に見えない大きな壁を感じる。


 一生努力しても追いつけないような、見えない壁を……。


 勝てるのか。俺は、こいつに勝つことが出来るのか?


 敗北のイメージが頭を過る。


「勝てない、と思ったか?」


 まるで見透かしたようなタイミングで言葉の刃を突き立ててくる。


「それが、それこそが恐怖だ。ソウジ・ボーウェン」


「ッ…………!」


 ラヴァルスードの冷たい目に思わず後ずさりそうになるが、寸前で堪える。


 後ろにある俺の大切なモノを思い出した。


 そうだ。


 逃げるわけにはいかない。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 叫ぶ。


 恐怖を追い払うかのように。


 翼刃を腕の周囲に集約させ、魔力を爆発させる。


「『魔龍星拳ブレイヴストライク』!」


 今の俺が放つことが出来る最大最強の一撃を、魔王に向けて叩き込む。


 白銀の煌めきが魔王の黒を飲み込まんとする、その刹那。


「『魔王邪龍デヴィルストライク』」


「なっ――――!?」


 俺の使っている魔法と同じ詠唱の魔法。


 しかし、威力は俺のものよりも圧倒的なソレは、白銀の煌めきを一瞬にして黒く染め上げ、砕いた。


 それだけじゃない。


 魔法もろとも、今度は俺のまとっている白銀の鎧を飲み込んでいく。


「がああああああああああああああああああああああッッッ!?」


 轟音。


 爆発。


 全てが収まった頃、俺はかろうじて地面に立っているのがやっとの状態だった。


 変身はとうに解けてしまっている。


 唯一良かったといえるのが、背後にいるみんなが無事だったことだろう。


 ギリギリのところで、爆発を俺の周囲に抑えることが出来た。


 だが……それだけだ。


 魔王の力に飲み込まれ、敗北したも当然の状態。


 対するラヴァルスードは、傷一つない状態で笑っている。


「こんなものか。呆気ないものだな。復讐というのは」


 つまらん、と吐き捨てると、魔王は俺の方へと視線を向ける。


「さて。あとは『巫女』を回収することだけだが……その前に」


 見えないほど速く、ラヴァルスードの体から放たれた鎖が俺の体に深く突き刺さる。


「がはっ……!」


 ずぶりと刺さった鎖は奥深く……魔力の眠る魂とも呼べる世界にまで浸食した。


 そして、何かを探り当てた後に『それ』を捕まえ、ずるりと鎖を引き抜く。


 鎖の先端には黒く光る魔力の塊が収まっていた。


「懐かしいだろう? 貴様の師から力を奪った魔法だ」


「お……前…………!」


「喜べソウジ・ボーウェン。貴様の師と同じように、貴様の魔法を奪ってやったぞ。……いや返してもらったというべきか。貴様が『スクトゥム・デヴィル』と呼んでいる星眷魔法。元々は我ら魔王の一族の持つ『鎧』の力を」


 体から力が抜けていく。


 魔法を奪われたせいか。


 膝が折れ、地面に倒れ伏す。


「させません!」


 ここで飛び出してきたのは――――フェリスだ。


 『最輝星オーバードライブ』を発動させて炎をまとい、ラヴァルスードに斬りかかっていく。


「よせ、フェリス……逃げろ……!」


「逃げません! だって、だって……! あの魔法は、ソウジくんがやっと掴んだ魔法なんです! だから、絶対に奪わせません!」


 ソウジ・ボーウェンとしての俺がまだ幼少の頃、俺はまともに魔法が使えなかった。


 フェリスはそれを間近で見て、知っているからこそこうして動いてくれている。

 

 その気持ちはうれしかった。けれど、ダメだ。あいつには勝てない。


 俺の嫌な予感を表すかの如くラヴァルスードはフェリスの炎をかき消し、剣を砕いた。


 だが、それでフェリスは止まらない。


 全身から炎を発して『最輝星オーバードライブ』の力を解き放とうと魔力を上げるが、それすらラヴァルスードの力によって強制的に抑え込まれてしまった。


 更に首を素手で掴み取られ、締め上げられていく。


「う……ぁ…………!」


「あァ、そういえばこいつだけ覚醒はまだだったな。どれ、殺す寸前まで追い詰めれば力を見せるかな?」


「やめろ……! ラヴァルスード…………!」


 必死に叫ぶが、今の俺が何を言おうとも奴は止まらない。


「ぁっ………そ、う……じ、くん…………!」


 今の俺は、フェリスの首が徐々に締め上げられていくのを眺めていることしか出来なかった。


「やめろ……やめろ、やめろ! やめろォおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 俺の悲鳴に似た叫びにすら、魔王は嬉々とした表情を浮かべている。


「っ…………!」


 より一層、魔王の手に力が籠った瞬間。


 フェリスが金色の輝きを発した。


 あれは紛れもない。


 ルナやユーフィア様が発していたものと同じ、巫女の輝き。


「まずは一人、だ」


 薄気味悪い笑みを浮かべたラヴァルスードは鎖を放ち、一瞬にしてフェリスを拘束してしまう。


 するとフェリスから発せられた金色の輝きが消失してしまった。


 それだけじゃない。


 ギルドホームの辺りで気を失っているルナとユーフィア様までもを鎖で拘束し、引き寄せている。


「ハハハハハハハ! これで三人! 全員が揃う!」


 勝ち誇った笑みを浮かべたラヴァルスードは再び空間に亀裂を生み出し、入っていく。


「フェリス……!」


「ソウジくん……!」


 俺達は互いに手を伸ばす。


 その距離は一向に縮まることがなく……広がっていく。


「じゃァなソウジ・ボーウェン。」


 魔王が空間の中に消えていく。


 フェリスの体も、少しずつ、闇に飲まれていく。


 伸ばした手は何も掴めぬまま、俺の意識はそこで途絶えた。








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