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ノアの思い出

「茶番は必要ないわ。私がノアかノアでないのかの証明なんていらないはずよ。そうでしょ?肝心なのはあなた達一人一人が信じるかどうか、それだけよ!」


 最初に会ったあの時、ノアはキレた。色に例えるなら真っ赤に焼けて液体みたいになった鉄みたい。鍛冶屋が炉の中で鉄を焼いている時のあの赤。オレンジ色と、ゆらめく赤。真夏の太陽のような熱と激しさ。ちょっと細めの目をこれでもかと吊り上げて、唾をとばして。その姿は救世主というよりテレビドラマの青春の1ペエジみたいだった。恥ずかしくなるくらいまっすぐにぶつかってこられては、こっちは赤面するしかなかった。


 ノアが怒ったのは当然だった。


 この世の終わりを告げている時に信じてもらえない本物の救世主なんてみじめすぎる。無理もない。私ならその瞬間「ノア」を辞めるだろう。


「やってられない、ノアなんて。バカらしいわ」

 それで打ち切り。


 ノアは、自分がノアであることをこんなに信じなかったのは私たちが初めてだと言ってた。やっぱり私たちはおかしかったに違いない。ノアが嘘など言っていない事を一瞬で見分ける事が出来なかったのだから。ノアを信じた他の人たちのように。でも、これもノアが言った事だけど、信じなかった私たちの方が正常なのかもしれなかった。どっちにしろ私たちには分からなかったし、私にはさっぱり分からなかった。  



 私は後悔している。どうしてもしたかったあの質問をしなかった事を。聞けばよかった。ノアに付いていかなかったのも大失敗だった。私は一緒に行きたくてたまらなかったのに。あの時はその事に気がついてさえいなかったけれど。私っていつもそうなんだ。大事な事は後から気がつく。それどころか気がつかない事も多い。私がノアになれなかったのは当然だ。ノアがノアになったのも。


 ノア、今はどこにいますか。


 あなたの進路にはまだ誰かいるのでしょうか。今から追いかけてもあなたに追いつく事はできますか?


 ノア、あなたのあのまっすぐな使命が私にもあればいいのに。自分で決めたのではなくて、大いなるものから与えられた仕事が、私にも。充実ってそこにあると思うよ。


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