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大好きだった幼馴染に『あんなデブで醜い奴、好きじゃない』と言われもう誰も信じる事ができそうにないです。   作者: ニャン吉


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第7話 『林間学校』

林間学校が始まり、蓮は美咲や凛、高橋たちと二泊三日を過ごす。ハイキングで凛の大切なぬいぐるみを探し、カレー作りでは美咲と昔のように笑い合う。様々な出来事を通して、蓮は初めて学校行事を「楽しい」と感じる。

林間学校当日。


「……眠い」


 学校の前に停まった大型バスを見上げながら、僕は小さく欠伸をした。


 時刻は午前七時過ぎ。


 校門前には大きな鞄を持った生徒たちが集まり、朝とは思えないくらい騒がしい。


「月島!」


「朝からうるさいな……」


「林間学校だぞ! テンション上げろよ!」


 後ろから肩を叩いてきたのは高橋だった。短い茶髪は朝から綺麗に整えられている。


「まだ七時だよ」


「七時だからなんだ!」


「眠い」


「二泊三日だぞ!?」


「知ってる」


「山だぞ!」


「知ってる」


「女子とお泊まりだぞ!」


「先生ー、高橋が――」


「待て待て待て!」


 高橋が慌てて僕の口を塞ごうとする。


「冗談だろ!?」


「朝から元気だね」


「楽しみすぎて昨日三時間しか寝てない」


「バカじゃん」


「なんだと?」


「蓮」


 聞き慣れた声に振り返る。


「美咲」


「おはよ」


「おはよう」


 美咲はいつもより少しラフな格好だった。白いパーカーに動きやすそうな黒のパンツ、肩に掛けた鞄は二泊三日にしては少し大きい。


「荷物多くない?」


「女子は色々あるの」


「ふーん」


「……何その反応」


「いや、別に」


「月島君」


「ん?」


 今度は凛。


 肩ほどまで伸びた黒髪を今日は後ろで軽くまとめている。


「おはよう」


「おはよう、黒崎」


「……朝から高橋君うるさいね」


「黒崎さん!?」


「僕もそう思う」


「班員からの扱い酷くない!?」


 そんな話をしていると、


「蓮」


「ん?」


 また呼ばれた。


「おはよ」


「桜庭」


 陽菜だった。


「陽菜!」


「はいはい」


 もう慣れた。


「おはよう、陽菜」


「うん、おはよ」


 陽菜が満足そうに笑う。


「楽しみだね、林間学校」


「そうだね」


「班違うの残念だけど」


「くじだから仕方ないでしょ」


「まあね」


 陽菜がちらりと美咲と凛を見る。


「……楽しそうな班だしね」


「?」


「なんでもない」


「おーい! そろそろバス乗れー!」


 先生の声が響いた。


「席は自由! ただし走るなよ!」


 自由席。


 その言葉を聞いた瞬間。


「月島!」


「蓮」


「月島君」


「蓮」


「…………」


 なぜ全員僕を見る。


「月島!」


 高橋が僕の腕を掴む。


「行くぞ!」


「ちょっと待って」


「早い者勝ちだ!」


「何が!?」


「隣!」


「なんで!?」


「いいから!」


「ちょ、引っ張るなって!」


 そのままバスへ連行される。


「あ」


 後ろから美咲の声がした。


「……高橋君」


 凛の低い声。


「高橋君、やるじゃん」


 陽菜の楽しそうな声。


 なんなんだ。


     ーー


「っしゃ!」


「何がそんなに嬉しいの?」


 結局僕の隣は高橋になった。窓側が僕で通路側が高橋、そしてすぐ後ろには美咲と凛が座っている。陽菜は自分の班の女子と少し離れた席だった。


「完璧なポジションだ」


「何が?」


「前にイケメン、後ろに美女二人」


「僕いる?」


「イケメンがお前だよ!」


「ああ」


「反応薄っ!」


「蓮」


 後ろから美咲が顔を出す。


「何?」


「お菓子食べる?」


「もう?」


「いいじゃん」


 差し出された袋を見る。


「じゃあ一個」


「はい」


「ありがとう」


「黒崎も食べる?」


「もらう」


「高橋は?」


「俺も!」


「高橋はいいや」


「なんで!?」


「冗談」


「白石まで俺の扱い酷くない!?」


 バスの中に笑い声が響く。


 しばらくして出発。


 最初こそ騒がしかった車内も、時間が経つにつれて落ち着いていった。


 外の景色も。


 ビル。


 住宅街。


 田畑。


 そして。


 少しずつ山が増えていく。


「おお……」


 高橋が窓の外を見る。


「めっちゃ山じゃん」


「林間学校だからね」


「熊とか出ないよな?」


「出たら高橋置いて逃げる」


「親友だろ!?」


「候補から一回降格してるけど」


「まだ引きずってんの!?」


 後ろから美咲の笑い声が聞こえた。


「ふふっ」


「黒崎さんまで笑わないで!?」


「ごめん」


「絶対思ってない!」


 なんだか。


 楽しいな。


 そんなことを考えながら、僕は流れていく景色を眺めた。


     ーー


 二時間ほどして。


「着いたぞー!」


 バスを降りた瞬間。


「……すご」


 思わず声が漏れた。


 目の前に広がっていたのは、都会とはまるで違う景色だった。周囲を囲む深い緑の山々、少し離れた場所からは川の流れる音が聞こえる。空気も少し冷たい。


「気持ちいい……」


 美咲が大きく息を吸う。


「空気美味しいね」


「空気って味する?」


「そういう意味じゃない!」


「月島君」


 凛が山を見上げる。


「綺麗」


「うん」


「写真撮ろうぜ!」


 高橋がスマホを取り出す。


「先生に怒られるよ」


「あ」


「早速か」


「まだ何もしてない!」


 荷物を宿泊施設へ置き、全体説明を受ける。


 そして昼食を済ませたあと、一日目のメインイベントが始まった。


「これより班ごとにハイキングを開始する!」


 先生が地図を掲げる。


「途中にチェックポイントがある。必ず四人で行動すること。勝手にコースを外れるなよ!」


「はーい!」


「それじゃあ三班、出発!」


「よっしゃ!」


 高橋が先頭へ飛び出す。


「行くぞお前ら!」


「元気だね」


「最初だけだと思う」


 凛が淡々と言った。


「同感」


「聞こえてるぞ!」


     ーー


 三十分後。


「月島……」


「何?」


「休もう」


「まだそんな歩いてないけど」


「山舐めてた」


「だから言ったじゃん」


「黒崎さん……水……」


「自分の持ってるでしょ」


「白石……」


「無理」


「冷たくない!?」


 案の定だった。


「さっきまで先頭走ってたじゃん」


「過去の俺を殴りたい」


「勝手に殴って」


「月島今日辛辣じゃない?」


「普通だよ」


「これが普通!?」


 そんな馬鹿な話をしながら歩いた。途中で写真を撮ったり。川の近くで少し休憩したり、高橋が虫を見つけて騒いだり。


「うわ! デカい虫!」


「うるさっ!」


「白石も逃げてんじゃん!」


「虫は無理!」


「黒崎さん助けて!」


「嫌」


「月島!」


「自分でなんとかして」


「この班俺に冷たすぎるだろ!」


 気づけばゴールまであと少し、そんな時だった。


「…………」


 凛が突然立ち止まった。


「黒崎?」


「……ない」


「何が?」


 凛が鞄の中を探す。


 いつも冷静な凛が明らかに焦っていた。


「ない……」


「黒崎さん?」


 美咲も異変に気づく。


「どうしたの?」


「……ぬいぐるみ」


「ぬいぐるみ?」


「小さい……手作りの」


 凛が何度も鞄を確認する。


「ここに付けてたはずなのに……」


 見ると、鞄の横に小さなストラップだけが残っていた。


「落とした?」


「……多分」


「どんなやつ?」


「小さい、ウサギ」


「探そう」


 僕が言うと、高橋と美咲も頷いた。


「来た道見ようぜ」


「うん」


 四人で周辺を探す。


 道の端。


 草の中。


 休憩した場所。


 少し戻って探してみたけれど。


「……ないな」


 高橋が呟く。


「もう少し戻る?」


 美咲が尋ねる。


「…………」


 凛は黙っていた。


「黒崎?」


「……もういい」


「え?」


「これ以上戻ったら、集合時間に遅れる」


「でも」


「みんなに迷惑かけたくないから」


 凛はそう言って。


 少しだけ笑った。


「大丈夫」


「…………」


 全然。


 大丈夫そうじゃなかった。


「そんなに大事なものなの?」


 僕が聞く。


 凛は少し黙ってから。


「……おばあちゃんが作ってくれたの」


「おばあちゃん?」


「うん」


 凛が残ったストラップを握る。


「小さい頃に作ってくれた。裁縫が好きな人だったから」


「…………」


「でも、もう亡くなってる」


 いつもの凛よりずっと小さな声だった。


「だから……ずっと大事にしてた」


「…………」


「でも」


 凛が顔を上げる。


「仕方ないよ」


 その言葉を聞いて。


「美咲」


「え?」


「高橋」


「おう」


「黒崎連れて先に行ってて」


「月島君?」


「ちょっと戻ってくる」


「待って」


 凛が僕の腕を掴んだ。


「いいって言ったでしょ」


「でも大事なんでしょ?」


「……大事だけど」


「だったら探す」


「集合時間」


「走れば間に合う」


「でも」


「僕だったら」


 凛を見る。


「そんな顔してる人置いていけないよ」


「…………」


「先行ってて」


 僕は来た道を引き返した。


「蓮!」


「大丈夫!」


 後ろから美咲の声が聞こえた。


     ーー


「……ない」


 歩いてきた道を戻る。


 さっき休んだ川。


 ない。


 虫が出た場所。


 ない。


 最初のチェックポイント。


 ない。


「どこだ……?」


 地面を見ながら進んだ、時間だけが過ぎる。


「……くそ」


 汗が額を伝う、かなり戻ってきた。正直もう見つからないかもしれない、それでも頭に浮かぶのはさっきの凛の顔。


『仕方ないよ』


 仕方ないわけないだろ大切な人が、自分のために作ってくれた。もう二度と同じものは手に入らない。


「…………」


 さらに戻る。


 草を掻き分ける。


 ない。


「どこだよ……」


 その時。


「……ん?」


 道の少し外。


 低い草の間に白いものが見えた。


「…………!」


 駆け寄る。


 泥が少し付いている。


 小さな手作りのウサギ。


「……あった」


 思わず息を吐いた。


「よかった……」


 僕はそれを握って。来た道を走った。


     ーー


「月島君……」


 ゴール近く、三人が待っていた。


「なんで待ってるの?」


「置いていけるわけないじゃん!」


 美咲が言う。


「先生には事情説明した」


 高橋も答える。


「それより月島!」


「うん」


 僕は凛の前へ行く。


「黒崎」


「……何?」


 握っていた手を開く。


「これでしょ?」


「…………」


 凛の目が大きく見開かれた。


「……なんで」


「かなり戻ったところに落ちてた」


「…………」


「ちょっと汚れちゃってるけど」


 凛が両手でぬいぐるみを受け取る大切なものを確かめるようにぎゅっと握った。


「……ありがとう」


「うん」


「本当に……」


 凛が顔を上げる。


「ありがとう、月島君」


 その目は少し潤んでいた。


「見つかってよかった」


 僕が笑う。


「…………」


 凛が固まった。


「黒崎?」


「……なんでもない」


「そう?」


「うん」


 凛は胸元にぬいぐるみを抱える。

 

 心臓が。


 うるさい。


 信じられないくらい。


 速い。


 今まで、月島蓮という人を気になると思ったことはあった。一緒にいると落ち着ついてもっと話したいと思ってもいた。隣にいると、少しだけ嬉しいという印象だった。

 

 でも、この感情が何なのか、凛はまだはっきりとは分かっていなかった、だけどけど今分かってしまった。


「…………」


 自分のために汗だくになって大切なものを探してくれた。そして見つけた本人より嬉しそうに笑っている。そんな人を見て、胸が苦しいくらいに高鳴って。


 嬉しくて。もっと近くにいたいと思ってしまう。これをきっと。


 ――好きって言うんだ。


「黒崎?」


「……何?」


「本当に大丈夫?」


「大丈夫」


「顔赤いけど」


「暑いだけ」


「山結構涼しいけど」


「…………」


「黒崎?」


「うるさい」


「なんで!?」


 凛は顔を逸らした。見られたくなかった。


 今。自分がどんな顔をしているのか分かってしまっていたから。


     ーー


 その日の夜。


「…………」


 消灯後女子部屋。


 凛は布団の中で横になっていた。手元には。あのウサギのぬいぐるみ。


「…………」


『そんな顔してる人置いていけないよ』


「…………」


『これでしょ?』


「…………」


『見つかってよかった』


「…………」


 口元が勝手に緩む。


「……ふふ」


 小さな笑い声が漏れた。


「…………!」


 凛は慌てて布団を顔まで被った。何をしているんだろう、思い出すたびに胸が高鳴る。


「……寝よう」


 目を閉じる。


 十秒。


 二十秒。


 三十秒。


「…………」


『見つかってよかった』


「…………」


 また。


 口元が緩む。


「……もう」


 結局その夜黒崎凛は。なかなか眠ることができなかった。


     ーー


 二日目。


「おはよう……」


「おはよ、蓮」


「おはよう、月島君」


「おう月島……」


「高橋顔死んでるけど」


「枕変わると寝れないタイプ」


「意外と繊細なんだね」


「意外とはなんだ」


 朝食を済ませた僕たちは、班ごとに施設周辺を散歩することになった。


「…………」


「黒崎?」


「何?」


「今日機嫌いい?」


「普通だけど」


「そう?」


「うん」


「…………」


 なんだろういつもと変わらないはずなんだけど、少しだけ、柔らかい気がする。


「…………」


 美咲も凛を見る。


「……?」


「白石さん?」


「ううん、なんでもない」


     ーー


 散歩を終えた後、昼食作り。


「今日の昼は班ごとにカレーを作ってもらう!」


「よっしゃ!」


 高橋が腕まくりする。


「俺料理得意だぞ!」


「本当に?」


「カップ麺作れる」


「戦力外」


「黒崎さん!?」


 役割を決めた結果。


 僕と美咲が食材担当。


 凛と高橋が火の準備をすることになった。


「蓮」


「何?」


「ニンジンお願い」


「分かった」


「ちゃんと小さく切ってね」


「それ僕の台詞じゃない?」


「え?」


「覚えてない?」


「何が?」


「昔、一緒にカレー作った時」


「…………」


 美咲が止まる。


「あ」


「思い出した?」


「……小学生の時?」


「うん」


「蓮、玉ねぎ切るのめちゃくちゃ遅かったやつ」


「違う。美咲のニンジンがデカすぎた話」


「えー!」


「カレーに入れるサイズじゃなかったよ」


「子供だったんだから仕方ないじゃん!」


「僕も子供だったけど」


「蓮だって玉ねぎ一個に十分くらいかかってた!」


「慎重だったんだよ」


「遅いだけでしょ」


「美咲が雑だっただけ」


「雑じゃないし!」


「じゃあ切ってみて」


「いいよ!」


 美咲が包丁を持つ。


「見てて」


「うん」


 トン。


 トン。


 トン。


「…………」


「どう?」


「普通」


「普通!?」


「何期待してたの?」


「上手くなったねとか!」


「昔よりは」


「素直じゃないなぁ」


「事実でしょ」


「ふふっ」


「?」


 美咲が笑う。


「何?」


「いや」


 美咲が切ったニンジンを見る。


「なんか懐かしいね」


「…………」


 その言葉に僕も手を止めた。


「……そうだね」


 昔。


 こうやって二人で何かをすることは珍しくなかった。くだらないことで言い合って。笑ってまた言い合っていつの間にか仲直りしている。

 

 あの頃僕は美咲の隣にいることが、当たり前だと思っていた。


「蓮?」


「ん?」


「どうしたの?」


「……なんでもない」


「そう?」


「うん」


 楽しい。


 懐かしい。


 でも昔と同じかと言われればきっと違う、あの日の言葉はまだ僕の中に残っている。

 

 それでも。


「美咲」


「何?」


「それ大きくない?」


「え?」


「ニンジン」


「…………」


「やっぱり変わってないじゃん」


「うるさい!」


 美咲が笑う。


 僕も。


 笑った。


     ◇


 夜。


 大きな炎が夜空へ向かって燃え上がっていた。


「おお……」


「すごい!」


 キャンプファイヤー。


 薪が弾ける音。火の粉が夜空へ舞う。


 周囲から生徒たちの楽しそうな声が聞こえる。


「月島!」


「何?」


「俺ちょっと向こう行ってくる!」


「どこ?」


「秘密!」


「どうせ女子でしょ」


「なぜ分かった!?」


「顔」


「行ってきます!」


「はいはい」


 高橋が走っていく。


「蓮」


「ん?」


 気づけば。


 隣に美咲がいた。


「綺麗だね」


「うん」


 二人で。


 炎を見る。


「…………」


「…………」


 不思議と沈黙は気まずくなかった。


 朝一緒に学校へ行った時はあんなに気まずかったのに。


「……蓮」


「何?」


「今日」


「うん」


「楽しかった」


「カレー?」


「それも」


 美咲が炎を見る。


「全部」


「…………」


「蓮と久しぶりにああやって話せたから」


「……そっか」


「うん」


 炎に照らされた美咲の横顔。


 昔と変わらないようで少しだけ違って見えた。


「僕も」


「え?」


「カレー作るのは楽しかったよ」


「…………!」


「何?」


「ううん」


 美咲が嬉しそうに笑った。


「そっか」


「うん」


「……そっか」


    ーー


 そして。


 二日目最後のイベント。


「肝試しをやるぞー!」


「…………」


 先生の言葉に僕たちの班は見事に反応が分かれた。


「楽しそう」


 凛。


「まあ面白そうだね」


 僕。


「…………」


 美咲。


「…………」


 高橋。


「二人ともどうしたの?」


「別に?」


 美咲が答える。


「怖いの?」


「怖くない!」


「高橋は?」


「俺が?」


「うん」


「月島」


「何?」


「俺を誰だと思ってる?」


「高橋悠斗」


「そうじゃねえ!」


「じゃあ誰?」


「こういうの全然平気な男だよ!」


「へえ」


 三十分後。


「月島あああああ!!」


「うるさい!」


「今なんかいたって!」


「ただの人形だよ!」


「動いた!」


「仕掛けだから!」


「蓮!」


「今度は何!?」


「待って!」


 美咲が僕の服を掴んでいる。


「怖くないんじゃなかったの?」


「怖くない!」


「じゃあ離して」


「嫌!」


「怖いじゃん」


「怖くない!」


「矛盾してるよ」


「月島君」


 前を歩いていた凛が振り返る。


「二人置いていく?」


「黒崎さん!?」


「賛成」


「蓮!?」


「冗談だよ」


 その後も。


 木の陰から突然人形が落ちてきたり、スピーカーから叫び声が流れたり、足元から音が鳴ったり。


 そのたび。


「うわあああ!」


「きゃあああ!」


 高橋と美咲が叫ぶ。


「……元気だね」


 凛が呟く。


「ある意味ね」


 そして。


 コース終盤。


「そろそろ終わりかな」


「早く終われ……」


 高橋が僕の後ろから言う。


「怖くないんじゃなかった?」


「怖くない」


「声震えてるけど」


「寒いだけ」


「美咲と同じ言い訳じゃん」


「蓮……」


「何?」


 美咲が。


 前を指差していた。


「……あれ」


「ん?」


 見る。


「…………」


 少し離れた場所。


 木々の間。


 白っぽい服を着た女の人が立っていた。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 顔は暗くてよく見えない。


 ただこちらを向いている。


「……仕掛け?」


 高橋が呟く。


「多分」


 僕が答える。


 その時。


 女の人がゆっくり右手を上げた。そしてこちらへ手招きをした。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 次の瞬間。


「うわああああああああ!!」


「いやああああああ!!」


 高橋と美咲が走り出した。


「ちょっと!」


「待って!」


 僕と凛も追いかける。


「高橋! 美咲!」


「無理無理無理!」


「絶対ヤバいやつ!」


「仕掛けでしょ!」


「分かってても怖いんだよ!」


 そのまま。


 四人揃ってゴールへ飛び込んだ。


「はぁ……はぁ……」


 高橋が地面に座り込む。


「死ぬかと思った……」


「大袈裟」


「月島お前怖くなかったの!?」


「ちょっと怖かった」


「黒崎さんは!?」


「少し」


「なんで二人とも平気なんだよ……」


「蓮!」


 声がした。


「桜庭」


 別班だった陽菜がこちらへやってくる。


「どうだった?」


「結構怖かった」


「だよね」


「最後の女の人とか特に」


「…………」


 陽菜が止まった。


「女の人?」


「うん」


「何それ?」


「最後にいたでしょ」


「……いなかったよ?」


「え?」


「白い服着て、手招きしてた人」


「…………」


 陽菜が僕を見る。


「私たち、人が出てくる仕掛けなんてなかったけど」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 高橋が。


 ゆっくり先生を見る。


「せ、先生」


「ん?」


「確認なんですけど」


「なんだ?」


「最後に女の人配置してます?」


「女の人?」


「白い服着て……こうやって手招きする」


「…………」


 先生が首を傾げる。


「人が直接脅かす仕掛けなんてないぞ」


「…………」


「全部人形と音と照明だけだ」


「…………」


 沈黙。


 高橋。


 美咲。


 凛。


 そして僕。


 四人で顔を見合わせる。


「月島」


「何?」


「部屋戻ろう」


「うん」


「蓮」


「何?」


「絶対一人にしないで」


「部屋別だけど」


「じゃあ入口まで!」


「分かったから」


「月島君」


「黒崎まで?」


「……早く戻ろう」


「うん」


 その日の夜。


 高橋は。


「月島、トイレついてきて」


 と言った。


「嫌だよ」


「親友だろ!?」


「こういう時だけ親友に戻すな!」


     ーー


 三日目。


 二泊三日の林間学校は驚くほどあっという間に終わった。


 朝食、部屋の片付け、閉校式。


 そして。


 帰りのバス。


「…………」


 静かだった、あんなに騒がしかった行きとは別のバスみたいにみんな寝ている。


「すぅ……」


 高橋も。


 美咲も。


 凛も。


 少し離れた席では陽菜も。


 みんな疲れ切って。


 でもどこか満足そうな顔をして眠っていた。


「…………」


 僕は窓の外を見る。


 山が少しずつ遠ざかっていく。


 二泊三日色々あった。


 高橋と馬鹿なことを言い合った。


 凛の大切なものを探した。


 美咲と久しぶりに昔みたいに笑った。


 陽菜とも話した。


 肝試しでは。


 ……あれは忘れよう。


「…………」


 一年前の僕ならこんな林間学校は想像すらできなかった。班決めで余って、誰かの隣に座れば嫌な顔をされて、自由時間になれば。


 一人


 早く帰りたいと思っていた。


 でも今回は。


「…………」


 もう終わりか。

  

 そう思っている自分がいた。


 窓から差し込む暖かな光。


 バスの揺れ。


 眠気が少しずつやってくる。


「……楽しかったな」


 誰にも聞こえないくらいの声で僕は呟いた。


 そして。


 ゆっくり目を閉じる。


 林間学校。


 二泊三日。


 僕にとって初めてだった。早く終わってほしいと思わなかった学校行事は。


 こうして。


 静かに幕を閉じた。


 第8話 終

8話更新です。僕の林間学校はキャンプファイヤーが大雨の影響で中止になり代わりにキャンドルファイヤーになりました。

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