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第2話:押し付けられた家督

「バルト様、大変です! 本国より超空間通信が入っております! クリフ大公閣下直々のご連絡です!」 


大気プラントへ向かおうとしたその時、ハンスが血相を変えて通信室へと飛び込んできた。


 クリフ・フォン・アウグストゥス大公。この身体の父親であり、帝国の権力闘争の渦中にいる男だ。 


通信室のホログラム投影機が起動し、青白い光の中に一人の男が浮かび上がる。  


金糸の刺繍が施された豪奢な軍服をまとい、冷酷そうな目を向けた中年の男――それが実の父親だった。   


しかし、その目には息子への愛情など微塵もない。『息災のようだな、バルト』 


「……はい、父上」


 俺は5歳の幼い声を努めて冷静に保ち、頭を下げ た。



『挨拶はいい。単刀直入に本題へ入る。今、お前の手元にある端末へ、帝国貴族院の公認書類を送付した。今すぐ認証の魔力サインコードを入力しろ』 


ピッ、と手元の端末が電子音を鳴らす。


画面に表示されたのは、帝国法に基づいた【全権利譲渡契約書】だった。

   



「これは……?」


『言葉通りのものだ。アウグストゥス家が所有する、惑星レムスにおけるすべての爵位、領地、民の統治権、およびそれに付随する一切の権利と「債務」を、お前へ完全に譲渡するものだ。本日を以て、お前がアウグストゥス辺境伯の当主となる』


 横で画面を盗み見たハンスが、あっと息を呑んで絶望の表情を浮かべた。


無理もない。


これは実の親が5歳の子供へ贈る、事実上の「死刑宣告」だ。 


帝国の権力闘争で敗色濃厚となったクリフは、敗戦処理の責任をすべてこの最果ての惑星『レムス』と、邪魔な前妻の子供である俺に押し付けようとしているのだ。


 もしこの地が宇宙海賊に滅ぼされようが、借金で破産しようが、書類上は「すべて5歳の新当主バルトの責任」となり、実家の本家は無傷で逃げ切れるという算段。


(なるほどな。前世の相棒と同じだ。泥舟の責任を全部俺に押し付けて、自分だけ金を持ってトンズラか)





29歳の精神を持つ俺は、父親のあからさまな邪悪さを瞬時に理解した。


 だが、俺の心にあるのは絶望ではなく、むしろ冷徹な計算だった。


『不満か? だが拒否権は――』  


「いえ。謹んでお受けいたします、父上」


 俺は小さな人差し指に魔力を込め、迷わず承認のサインを端末に叩き込んだ。


『……ほう。聞き分けが良いのは助かる。せいぜい、宇宙の藻屑にならぬよう励むがいい』 


 用は済んだと言わんばかりに、父親のホログラムが一瞬で消え去る。 


「ば、バルト様! なんということを……! これでは閣下の借金も、迫り来る海賊への防衛義務も、すべて貴方様お一人の肩に――!」


 ハンスが床に崩れ落ちんばかりに嘆き悲しむ。  


しかし、俺はクスクスと声を出して笑った。

5歳児の可愛い声で。


「ハンス、何を泣いているんだ? これでこの星のすべては、名実ともに『僕のもの』になったんだよ?」


「え……?」




「もう本国からの命令を聞く必要も、あの男に税金を納める必要もない。これからは、僕の好きなようにさせてもらう」


 実の父親から向けられた明確な「害意」と「裏切り」。  


その瞬間、俺の脳内に心地よい電子音が鳴り響いた。


『――ピンポン。実父クリフからの不条理な害意(搾取・放棄)を検知。因果システムがこれを莫大な不条理エネルギーとして回収しました。……善行ポイントが【1,000,000】加算されます』


(おいおい、親の悪意までポイントに換算されるのかよ! 最高だな!)


 前世の未回収分に加え、今世で受けた理不尽すらも俺の力に変わる。  


これで軍資金ポイントは十分にチャージされた。


「さあ、ハンス。僕たちの領地を守りに行こう。まずは、止まりかけたあの大気プラントからだ」 


5歳の小さな身体に、銀河を揺るがすチート能力を秘めて。



俺は、俺だけの我が儘な帝国を作り上げるために歩き出した

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