第二章_一
煌良と怜は約束を交わし、二人は別れて各々の家に帰り、眠りについた。
窓から差し込む朝日が瞼に差し込み、
すっかり聞きなれたこの村に居る鳥の
鳴き声で煌良は目覚めた。
冷たい水で顔を洗い朝食を作りに
キッチンへ向かう。パンを温め、
油を敷いて熱くなったフライパンに
卵とベーコンを乗せると温めているパンから小麦とバターのいい匂いが漂ってきた。
食器を洗い、身なりを整えてから
煌良のいつもの少しずつ変化していく一日が始まる。
この村での魔物の調査、討伐任務を終え、
煌良は魔術協会に帰還することを伝える為に村長の迅臣がいる役場へと向かう。
役場へと続く道で煌良は一週間くらいの
ほんのわずかな期間に起きた出来事、
怜と迅臣との出会い、猪型魔物との戦闘
とその後に出現した大型トラック程の大きさの猪型魔物との死闘、四日程の入院生活、
昨日やったばかりのとても賑やかな祝勝会。それぞれの出来事に想いを馳せながら
ゆっくりと村との別れを惜しみながら歩き続ける。
煌良(この村とも、もう少しでお別れかな。)
役場へと続く道、その途中の広場で子供達がキャッキャとはしゃぎながら走って遊び、
子供の母親らしき人達が木陰の中で話している。
煌良は広場のベンチに座り、しばらくの間
その微笑ましい平和な光景を見ていた。
座っていると、八から十歳くらいの子供が
走りながら近づいて、息を切らしながら
煌良に声を掛ける。
子供「おねぇちゃん、一緒にあそぼ!」
子供が元気な大きい声で遊びに誘う。
煌良「いいよ。」
子供「いいの!みんな〜おねぇちゃん
遊んでくれるって!」
煌良が次の言葉を発する前に子供は
嬉しそうにして、少し離れた所で休んでいる子供達に呼び掛ける。
広場の中央にある大きな木の木陰で
休んでいた四人の子供が駆け寄ってくる。
煌良「なにして遊ぶの?」
子供「かくれんぼがいい!おねぇちゃんが鬼でいいよね!僕達が隠れるから、
おねぇちゃんは三十秒目をつぶっててね。」
煌良「わかった、三十秒だね。」
煌良はそう言ってベンチから立ち上がり、
準備運動を始めた。
子供「じゃあ、よーいドンって僕が言ったら
目をつぶってね!」
煌良は子供達が居る方向と
反対の方向を向いて、準備を整える。
子供「よーいドン!」
煌良は目をつぶり数を数え始めると、
子供達は一斉に走り出して隠れ始めた。
煌良「いーち、にーい…………さんじゅっ!」
煌良は広場を少しの間見渡し、
子供達が隠れて居そうな場所へと向かう。
煌良は低木や茂みの中、広場にある小屋の中や陰を探している内に隠れている子供は最後の一人になった。
煌良「う〜ん…最後の一人、
なかなか見つからないなぁ。」
かくれんぼを始めてから十分程経過し、
最後の一人がなかなか見つからずに
途方に暮れていた煌良は広場の中心にある
大きな木に寄りかかった。
数枚の葉が落ちて、煌良の鼻先に乗る。
煌良が木を見上げると…。
煌良「あっ!いた〜!」
大木の太い枝に子供が乗っているのを
見つけた。
子供「あーあ、見つかっ…」
子供が木から降りようとした時、
足を滑らせて落っこちてしまう。
突然の出来事に反応が遅れてしまった煌良は子供を受け止めようと飛び込むが
間に合わずに子供の頭が地面と
衝突しようとするまであと数ミリという時…
「ザッザザー」と雑音が煌良の頭の中で響く。
それと同時に子供が一瞬ふわりと浮かび、
落下の勢いを殺した。
煌良「大丈夫!?」
煌良がすぐに子供に駆け寄り、
子供が怪我をしていないかを確認する。
子供は何事もなかったかのように立ち上がる。
子供「いまの…おねぇちゃんがやったの!?」
子供は目を輝かせながら興奮して
煌良に質問する。
煌良「いまの?私は…なんにもやってない…と思う。」
煌良は頭に響いた謎の雑音と
落下の勢いを殺した謎の現象に
混乱しながらゆっくりと
頭を整理しながら話す。
子供「ぶつかりそうになった時にふわって
浮いたじゃん!おねぇちゃんが
やってくれたんじゃないの?」
興奮冷めやらずに、
首を傾げながら質問を続ける。
煌良「浮いた…ふわっと…?」
煌良(浮いた…?誰が…私が?
いや、準備もなしに魔術を発動するのは…少なくともさっきの状況での発動は
私には無理だし…。)
子供「あっ、わかったよ!
秘密の魔術なんでしょ!
誰にも言わないから安心していいよ!」
小声で耳打ちしてから見つけられた子供達が休んでいるベンチへと走って行った。
子供「じゃあ、ベンチの所にみんなといるからおねぇちゃんも早く来てね!」
煌良も子供に続いてベンチへと小走りで向かう。
煌良「おまたせ〜。」
子供「もー、おねぇちゃん見つけるの上手すぎ!こんな早く終わっちゃうなんて…。」
子供が肩を落とし、少し残念そうな声で言う。
子供「ねぇ〜、もう一回やろ〜よ〜。」
煌良「ごめ〜ん…迅臣さんに用事があるから
もう行かなきゃなんだよね。」
申し訳無さそうに煌良は手を合わせ、謝る。
子供「迅臣に用があるなら、
しょうがないかぁ…。」
子供「じゃあ、またね!
遊んでくれてありがとう!」
口惜しそうにしながら子供達は走り出し、
遊びを再開した。
煌良は迅臣に会うために役場へと歩き出す。
しばらく歩いていると、いつもの様に花壇に水やりをしている迅臣がいた。
煌良「迅臣さん、こんにちは!」
水やりをしている迅臣のすぐ横に位置取り、元気そうに煌良は挨拶をする。
迅臣「あぁ…こんにちは。」
どこか体調が悪そうにしながら
気怠げに挨拶を返す。
煌良「どうしたんですか!?もしかして…。」
いつもの豪快に笑う迅臣とは正反対の様子に驚愕し、重大な病気や深刻な事態が迅臣の
身に降りかかっていると邪推をしてしまう。
その考えを口に出す前に迅臣が言葉を発する。
迅臣「昨日飲みすぎてしまってな…
二日酔いなんだ…。」
お通夜の様なしんみりとした雰囲気を纏って、迅臣はゆっくりとそう言った。
煌良「はぁ……?それだけ?二日酔いなだけなんですか?」
ポカンとしながら煌良は迅臣に問い掛ける。
迅臣「二日酔いを舐めるな…酷い頭痛やめまい、吐き気も…酷いったらありゃしない。」
水やりを中断して、近くにあったベンチに
ぐったりと寄りかかりながら話し続ける。
迅臣「俺は…酷い二日酔いより辛い事は殆ど知らない…。」
煌良「はぁ…そんな辛いんですね。」
煌良はぐったりとベンチに寄りかかっている迅臣の苦しそうな顔を覗き込んでから隣に座る。
煌良「…それより、もう任務もおわりましたしそろそろ協会に帰還する事を伝えに来たんですよ!」
少しの間気まずい静寂が流れ、煌良が本題を入ろうと話し始めた。
迅臣「帰るって、今日か?」
煌良「はい、今日の夕方頃に。」
迅臣「どうやって?」
ニヤニヤと笑いながら質問する。
煌良「どうやってって、来た時みたいに馬車で帰るつもりですけど。」
煌良は迅臣の質問の意図とニヤニヤと
笑っている意味が分からず、
訝しげに質問に答える。
迅臣「今日はもう馬車は来ない、
なんせここはド田舎だからな!」
ベンチに寄りかかっていた体を起こして
迅臣は、予想通りの言葉が返ってきたことに笑い、何故か誇るように答えた。
煌良「えぇ…まだお昼ですよ。」
疑う様な目で煌良は迅臣を見つつ、うわずった声で会話を続ける。
煌良「本当…本当に今日は…。」
迅臣「あぁ来ないぞ、本当にな。」
迅臣は軽口を叩く様な口調で返す。
煌良「じゃあ明日になっちゃうのか…。」
煌良は残念そうに肩を落として
ため息をつく。
迅臣「………。」
意味深な沈黙が迅臣によって作り出される。
煌良「明日くる…んですよね?くるんですよね!?」
迅臣「ハハッ!大丈夫だ、明日の九時前に馬車乗り場で待っていれば乗れるさ。」
笑いながら少し目尻に涙を浮かべ、
楽しそうに話す。
煌良「も~ぅ、ちょっと意地悪じゃないですか〜?」
今度は煌良がベンチにぐったりと寄りかかる。
迅臣「悪い、揶揄い過ぎちまったな。俺はそろそろ仕事に戻る、じゃあまたな。」
ベンチから立ち上がり、
怠そうに伸びをしながら迅臣は煌良に別れを告げて役場へと入っていった。
煌良「あーあ、次からはちゃんと馬車の時間調べとくようにしないと。」(しばらく暇になったし、怜にお別れの挨拶に行かないと。それにしても今日はいい天気だな〜。)
煌良はぐったりとベンチに寄りかかったまま空を見上げてぼーっとしていた。
そうしている内に太陽が沈み始め、辺りが暖かい金色に染まる頃、煌良は温い砂に包まれているかのような陽気に大きな欠伸をかいていた。
煌良「くぁ〜ぁ…ねむ…。」
怜「まだ寝るには早いんじゃないか。」
大欠伸をかいていた煌良の隣に怜が音も無く現れた。
煌良「おはよー、今からお別れを伝えに行こうと思ってたんだよね。そっちから来てくれるなんて嬉しいよ。」
今にも眠ってしまいそうな声と夕日の眩しさに目を細めながらはにかんだ笑顔で答える。
怜「もう行くのか、寂しくなっちゃうな。」
少しだけ下を向いて、怜は自分の胸の内を少しずつ明かし始める。
怜「ここを離れたらどこに行くつもりなんだ?」
煌良「馬車でおっきい町に行って、そこで馬車を乗り換えて魔術協会に帰るつもり。そっから先は…やれれば研究の続きをしたいな。怜はどうするとかあるの?」
怜「僕はまだ迅臣さんに教えてもらわなくちゃいけない事がいっぱいある、それが終わったら僕も村から少しの間離れてみようかな。」
煌良「じゃあ、しばらくはお別れかな。」
怜「そうなるな…。」
二人の間にしんみりとした空気が流れ、無言のまま空にくっきりと星が写るまで一緒にすごした。
その後二人は別れ、お互いの家に帰って眠りについた。
そして夜が明け、煌良は馬車乗り場へと向かった。
しばらく馬車を待っていると…
怜と迅臣が煌良を見送る為に来た。
煌良「来てくれたんだ。」
晴れ渡る晴天の中、ふさふさの草原に寝転がっている煌良。
怜「当たり前だ、一週間ちょっとの付き合いだけどそれなりに仲良くなった気がしてたのは僕だけなのか?」
太陽光を塞ぐようにして怜が煌良の上半身に影を作り、上から顔を覗き込む形で話しかける。
煌良「そんな事ないって、私もいっぱい仲良くなったつもりだよ?二人だけの秘密もあるしね。」
迅臣「秘密?」
少し離れた所にいた迅臣が会話に加わる。
煌良「ひみつですよ、二人だけの。ねっ!怜。」
にんまりとした笑みを浮かべながらリラックスした様子で煌良は怜を見つめる。
怜「…あぁ、秘密だ、二人だけの。」
一秒にも満たないほんの僅かな間二人は見つめ合い、少しの恥ずかしさを孕んだ声で答えた。
迅臣「いいな〜、若人二人が秘密を共有なんてまるで恋愛小説だな〜。俺も昔は…。」
二人を揶揄う様に喋りながら迅臣は自分の昔話を始める。
怜「昔話はやめてください、迅臣さんの昔話は一時間じゃ全く足りない様なものばっかりじゃないですか。馬車が来るまでに終わりっこないですよ。」
呆れた声で言い慣れたかのように迅臣に言葉を放つ。
迅臣「ハハッ!確かにそうだ、全くこの歳になると昔話をしたくなってしょうがない。」
迅臣はいつもの豪快な笑い声を響かせる。
怜「あっ、馬車の姿が見え始めたよ。」
煌良「この村とも本当にお別れか〜。」
寝そべっていた身体をゆっくりと起こして、馬車に乗る為に荷物などを背負い始める。
馬車がガタガタと音を立てながら煌良の元へと近づいて来る。
煌良「怜くん迅臣さん、カル村に滞在している間に沢山お世話して頂いてありがとうございました!」
怜と迅臣に向かって深く頭を下げて煌良はこれまでの感情を伝える。
迅臣「なぁに、礼を言われる程の事じゃないさ。煌良さんは俺達の村を守る為に尽力してくれた恩人だからな!こちらこそありがとうってもんだ。」
怜「僕からもお礼を言おう。この一週間、命の危機もあったけど煌良さんのおかげでとても楽しかったし…これからの目標もできた。」
そう言ってから迅臣と怜も煌良に向かって頭を下げて感謝を伝える。
全員が頭を上げてから少し経ち、馬車乗り場に馬車が到着する。
御者「久しぶりだな、迅臣さん。今日は三人でお出かけかい?」
迅臣「いいや、今日は嬢ちゃんだけだ、ちゃんと送ってやってくれよ。」
御者「あいよ。」
迅臣と御者との会話が終わってから煌良は馬車の中に入って行く。
煌良「迅臣さん怜くん、またどこかで!」
馬車の中からひょっこりと顔だけを出して最後の別れを告げる。
迅臣「あぁ、またどこかでな!」
怜「そのうち会いに行くよ、まぁ…いつになるか分からないけど気長に待っていてくれ。」
二人が言葉を言い終わると馬車はゆっくりと走り出した。
煌良は怜達が見えなくなるまで手を大きく振り続け、それに応えるように怜達も手を振り続けた。
この作品を読んでくださり、ありがとうございます。
至らない点も多いと思いますが、温かく見守っていただけると嬉しいです。
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更新は不定期になりますが、これからも読んでいただけたら嬉しいです。
次の話もぜひお楽しみに!




