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虫けらは半死半生で彷徨う  作者: 米中毒
主人公がボコボコにされる章
5/55

5話 デザートイーグル

今の状況を簡潔にまとめよう。

美女が右腕に跨り、そして、いわゆる恋人つなぎというものをされている。

結構、前かがみになっているので傍から見れば非常にまずい状況だ。

しかし、本当にまずい状態なのだ。

なぜなら………

「マジで!痛いんで!ちょっと止めてくださいッ!」

「なにさ。私が『重い』って言いたいのかよ」

「ちゃいますから!そっちじゃないっスからぁ!」

………別に、彼女とイチャイチャしていたわけでは無い。

生き残るために彼女からの施しを受けていたのだ。

ありがたいことに、餞別として三つのものを受け取った。

一つ目は、お古のリュックサックとか水筒とかの普通にありがたいもの達だ。

昼食を一緒に取ったのと、携帯食料を詰めてもらった分を含め、三食分もお世話になった。

契約が絡まないのなら、思ったより気前がいいらしい。本当にありがたい。

「そら、終わったよ」

二つ目は、今しがた入れてもらった入れ墨だ。

最近、彼女が仕入れた技術らしい。

右手首に刻んだ呪文に左手で触れ魔力を加えれば、詠唱なしで魔法を出せるそうだ。

最近は走ってばっかりで詠唱の暇もなかったのでこれもまたありがたい。

ただすごい痛いうえに施術後、三日はひりひりするらしい。

………………………三日も。

最後の一つは本だった。

「魔界を彷徨うなら地図は必要だな」

そう言って小さいが、分厚い、緑色の本を取り出した。

てっきり地図を見せてくれるのかと思ったが、違うらしい。

ページの余白に手書きの地図を書いてくれた。

立派な本と見比べれば、というより……………まあ、普通に雑な地図なのだが、贅沢は言えないし顔にも出せるわけがない。普通にありがたいしね。

「はい。」

「はい?」

そのまま本ごと渡してきた。

「いやいや、いただけませんよ?」

「リュックまだ余裕あるでしょ?」

そうじゃなくて、受け取れないほど立派なものじゃないか。

「ちがう、ちがう、地図はおまけで、本を受け取ってほしいのよ」

本の前半を見てみると、魔法陣や何らかの解説、魔物の挿絵まである。

著者はミロという人物らしい。

「これはね、私の本」

一瞬、意味が分からなかった。

「布教用に用意して貰ったものでね、私の召喚方法や、契約の内容、正しい生贄の捧げ方とか載ってる」

そう言われて本の後半も見てみると、前半とは打って変わって、おぞましく歪んだ字で、狂信的なほどの彼女への賛美の言葉が端から端までビッシリと綴られている。

表紙も見てみると『腐老の主との邂逅書』と書かれている。

これ、学校で習ったけど禁書じゃないの?



「じゃあ、次は私と契約持ちかけられるくらいには成長しておいてね」

「お世話になりました」

彼女についていくのは不可能だった。というのも、彼女はこの荒野の奥地に住まう化け物を倒すよう依頼されているらしい。つまりここよりも危険地帯に突っ込んでいくらしい。やっぱりこの人結構すごい人なのかもしれない。

彼女は振り返らず、スタスタ歩いて行った。

しばらくの間見送ってから、僕も目的地を目指す。

彼女の母国であり、帰還用のゲートがある魔界の大国、『魔装国家フェル』を。




オアシスを離れてからは、自然が少なくなっていった。寒冷砂漠に近づいているためか、肌寒かった気温がさらに冷え込んでくる。一度、ワイバーンに連れられていた例の角のある草食魔物が草を食っていたが、交戦するのはやめておいた。生物というのは無駄なパーツを持たないという。

そして、この辺りの捕食者はワイバーン。ということはワイバーン相手にある程度の自衛できるというわけだ。勝ち目はやはりないだろう。今の僕は生態系にすら組み込まれていない。

歩いている最中はひたすら魔法を唱え続けた。魔法は使えば使うほど、魔力の許容量が増え、強い魔法を使うと、魔法の出力が増加する。

魔法の威力は、唱える呪文の長さと出力の大きさの掛け算。

魔法の使える回数は持っている魔力量に依存する。

だから練習しておくのは大切なのだ。

魔力は水分のようなものとはよくいったもので、周りにいくら魔力が漂っていてもに身体に吸収されるのには何分かかかる。こんな危険地帯では魔力枯渇するのは致命的。

なので軽い魔法を連続的に使うことにした。

ありがたいことに、試してみたい魔法はこの禁書に大量に書いている。

胸に鈍い痛みが走った。

突然の痛みの正体は鷲だった。音もなく、見えもしない、その超高速の体当たりは、試していた防御魔法がかかりっぱなしでなければ即死していただろうと確信できる。

砂漠であったことも幸運だった。

岩場なら背中をすりおろされていただろう。

血を吐きながら、揺らぐ視界で、襲撃者を探す。

その捕食者は困惑する獲物をジロリとみると、羽を広げ、砂をまき散らせたと思った瞬間、僕の視界から消えた。空を見上げると何かが数度、視界を横切っているのだろうということしか分からない。

防御の上だというのに、あばら骨を砕き、内臓へもダメージがある。

防御を固めていても数回やられれば、死ぬだろう。

そもそも、魔力が枯渇するから防御魔法をかけ続けることはできない。

肺の傷も大きい。魔法の詠唱ができるかも怪しい。

砂漠の猛鳥は静かに羽を閉じ、攻撃を再開する……………。






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