20話 フレイ
「……分かった。アテナ…」
「特に制裁はしないが、城壁が直るまではこの町にいろ。ダン、お前にディアナを任せていいんだな?」
「それくらいはしておきましょう。」
僕が後悔をしている間にも話は進む。他の人はもう動いている。
シアだって、今は落ち込んでいるだろうがきっと立ち直るのだろう。
分かっていても…動けない。
平気な顔をして恩人に敵意を向けていたという事実に、愚かな行為に、心が荒む。
今この場所にいるのが申し訳ない。息をすることすら苦しい。
「お前は本当に気に食わない奴だな」
顔をあげずとも分かる。一番の功労者で、僕よりずっと辛いはずの人の声。
「死に急ぐ馬鹿のくせに、心が折れたら何もできないか?気に食わないな…」
何も返す言葉が思いつかないし、思いついたとしても、ほざく権利なんてない。
余裕だってない……。
「……ダン!後は頼むぞ?魔力を消耗しすぎたからな……。」
「はい。」
去っていく彼女の思いは計り知れない。それほどまでに僕は浅い。
「正直さ、やる気も目標もない子に興味もないから、もう手を貸してあげるつもりないよね」
ダンさんのは最初にあった時のような、ぶっきらぼうな態度に戻っていた。
いや、あの時よりも、もう少し冷たい視線だったかもしれない。
……分からない。
後悔に侵された頭では、相手の感情を推し量るなんて、とてもとても……
「だけど、義務は果たさないといけないよね~」
「はい。」
そう言って何かを渡してきた。情けないが、申し訳ないが、読む気力すら…
「あなたと別れてから、地上の村で召喚されてね。契約は渡すとこまでで、読み聞かせはしないよ。」
村…?村だって?どこの……?
まだ立ち上がろうとしない僕に、もう少し説明をしてくれた。
「あなたの幼馴染だって?あのそこそこかわいい女の子。帰ってあげたら?」
鈍感な僕にだって分かる。立ち上がる理由をくれている。
「それと、こっちはお願いなんだけど、」
振り返らずそのまま歩き始める。でも、前よりも小股で歩いてくれている。僕に立つ時間をくれている。
そこまで助けられてようやく立ち上がれた。
歩いて直ぐに目的地についた。隣の部屋のドアの前。
シアは僕よりもっと立派だ。涙をぬぐって自分で立って来た。
「さっきも言ったけど、ローディアは『記憶』を捧げた。」
「だから、ここに居るのは決してローディアじゃない。」
「この町には残しておけないんだ。」
「名前は、私の友人から取って”ディアナ”とすることにした。」
扉を代わりに開けてくれる。中にいるのは長身で長髪、緑髪の女性。
「彼女を連れて出て行ってくれない?」
あぁ本当に僕は運がいい。
こんなにも恵まれている。
こんなにも気にかけてもらえている。
こんなにもチャンスが与えられている。
これからは、もっと他人を知ろうとしよう。警戒することと、疑うことは違うと分かった。
後悔はずっと心に残るだろう。だったら直ぐに動き始めた方が何倍もいいと思う。
さて、こんなに早く立ち直る僕はさぞ図々しいのだろうが、第一印象は大事だとも教わった。
無表情で見つめる彼女から、感情を読み解く事は出来ない。
これから徐々に理解できれば上々、理解できなくても、理解しようとすれば今よりずっとましだろう。
精一杯の笑顔を浮かべて、後悔を心の奥にしまってから、手を伸ばした。
「僕はフレイ。一緒に旅をしてみない?」




