母親と父親と
どんなに毎日が辛くても今日も日が昇る。
日が昇り目覚まし時計が鳴るより少し早く
灯は自然と目を覚ます。
昨日はよく眠れなかった事もあり、
鳴る前の目覚まし時計のアラームを停止させ
少し気だるそうにベッドを出る。
昨日、灯は自称霊能力者が帰宅後すぐ眠ってしまい、
夜中に空腹に襲われ目を覚ましてしまっていた。
何か食事を取らないとと、
上着を羽織り自室を出て暗い階段を1階に降りると、
リビングの明かりがまだ点いていた。
灯が音をたてない様に慎重にリビングのドアを開けると、
そこには、ダイニングテーブルに突っぷすようにで母が寝ていた。
灯は気配を消して母に近づく、
ダイニングテーブルには茜の生まれてから今までの写真が広げてあるのが見え、母の寝顔には、くっきりと涙の跡が見えた。
灯は自分の羽織っている上着を母を起こさない様に掛けると、
先ほどと同じく音をたてない様に自室へと戻り、
念のためにと取ってあった菓子で空腹を無理矢理に凌いだのだった。
灯は登校の準備をしてリビングに向かう。
リビングのドアを開けながら母に挨拶をした。
「おはよう…お母さ…」
言い終わるより灯は先に母がいない事に気づいた。
昨日写真が広げてあったテーブルの上には
五百円玉が一枚、ポツンと置かれているだけ。
朝食はこれで摂るようにであろう事はすぐに理解できる。
このような事は茜が入院してからは特に珍しい事ではなかった
茜が入院してから暫くすると母は怪しい宗教へ入会をし
今では熱心な信者の一人である。
あの夜、
茜が行方不明になった一晩以降、
この家庭は確実に崩壊への一途をたどっている、
その事は灯にも何となく理解ができていた。
ただ、父も母も根は決して悪人ではない。
それぞれが茜の事を一番に考え、行動しているだけなのだ。
それが理解出来るからこそ、灯は両親を嫌いになれないでいた。
嫌いになれたなら、どんなに楽だろうか
何度だって考えたものだ
灯はテーブルから五百円玉をとると、
自室に戻り机の中の財布に入れ、
代わりに二百円取り出すとポケットにしまった。
何かあった時の為にと、多めに貰うと節約を心掛けている為だ。
もちろん、これ以上何もない事を願っている。
しかし、全ての物事に絶対などない。
それは、
あれほど温かく笑いの絶えない家庭が壊れていくのを見てきた灯には、痛いほど分かる事だった。
それから灯は外行きのコートを羽織りランドセルを背負うと玄関に向かう。
靴を履き鍵をとり玄関のドアを開けると外へ出る。
そして振り返り
「…いってきます……」
もちろん誰もいない家の中からの返事はない。
灯は俯きドアの施錠をすると、トボトボと学校へ向けて歩き出すのだった。




