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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第3章 風の里
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思惑

その後、しばらくその場に留まり、皆で英気を養った。

しばらくして、エイゴとの交代で見張りに立っていたトキトが遠くに人影がある事に気が付いた。


一瞬緊張が走ったものの、すぐにそれはソウゴ達であるとわかった。

草原を黒髪の男女が三人だけで歩いているのがわかれば、そうとしか考えられない。

すぐにエイジが迎えに出向き、彼等との合流に成功する。


「トキト、無事だったか。良かった」

「やっぱり皆を助けてくれたんだな。ありがとう」

ソウゴとアイカが代わる代わるトキトに握手を求めてくる。


最後にトーゴも握手を交わし、と同時に皆に注意を促してくる。

「だが、安心するのはまだ早いようだ。奴らヴァルパネスからさらに兵を呼び寄せているようなんだ」

「そこまでして俺達を狙うというのか」

エイジが怒りの感情を込めて言う。


対してトーゴはあくまでも落ち着いている。

「恐らく、我らの里を狙った事が他国に漏れる前に、片を付けてしまいたいのだろう」

「どういう事だ?」

トキトが聞くと、トーゴはトキトの方に向き直った。


「我らは少ないながらも各国と何らかのパイプを持っている。あくまでも個人的な付き合いではあるのだが、それ故その相手がどう動くのかは読みずらいはずなんだ。もし周辺諸国が我らの味方に付く事があればたちまちヴァルパネスは孤立する。そうなればあの国はお終いだ。だからそうなる前に事を終らせる必要があるのさ」


「国? ヴァルパネスは自治都市じゃなかったか?」

トキトの記憶では、前に見せてもらった地図にはヴァルパネスは自治都市として記載されていたように覚えている。


「どうやらそれが今回の風の里襲撃の理由でも有るようなんだ。クライオール大公が国王を宣言する事で、ヴァルパネスは国家としても名乗りを上げた事になる」

「クライオール?」


「そうだ。クライオールは奴隷貿易で力をつけた男だ。もともとヴァルパネスは奴隷の量や質を競う風潮があったからな。奴は奴隷の売買で大儲けをしたその豊富な資金を背景にヴァルパネスでの地位も確保していったのさ。だが周りの国々に比べればヴァルパネスは小さな都市だ。周辺諸国の顔色を見なければ生きてはいけない。だから今まで奴は自らの野望を抑え込んでいたんだ。ところが最近、奴に何らかの後ろ盾ができたらしい。それがどこかまではわからなかったが、恐らくそのせいでタガが外れたようだ。国力をつけるためだと言ってあちこちで奴隷狩りをしているらしい。俺達を狙ったのもその一環だ。俺達を戦力に組み込めば大幅な戦力増強になると考えたようだ」


「じゃあ、目的は里じゃなく私達自身だっていう事?」

クミの口調には怒りが込められている。

実際執拗に狙われた訳なので思う所もあるのだろう。


しかし、トーゴはそれを知らない事もあって、話のトーンは変わらない。

「いや、実際領地を増やしたいのも事実らしい。あちこちで奴隷狩りをしたせいで人口は増えたが、それを養うべき土地は圧倒的に不足しているんだ」

「でも、あんな場所押さえたって大したものは採れないわ。いくら農地に適していると言ってもあんなに小さな場所じゃあ…」


「彼らはあそこを農地にしようと思っている訳ではないらしい。あそこを中継点に街道を整備すればユルとポートワーズを今よりも短時間で結ぶことができると睨んでいるんだ。それに、どうやってそうするつもりかは知らないが、裏の山を超えてエルファールとの交易の拠点にしようという考えもあるらしい」


エイゴがそこに加わってくる。

「おいおい、あの山は簡単には超えられる代物じゃあないぞ。里をあの場所に選んだのだって、あの場所は少なくとも後ろからの憂いはないという事で決めたんじゃないか」

実際、里の先はそう簡単に越えられる場所ではない。

里の裏は切り立った崖が壁のようにそそり立っていて、その先は山頂に常に雪を頂く急峻な峰々が連なっているからだ。

恐らくその思いは皆同じだろう。


しかしトーゴはあくまでも冷静だ。

「詳しい事はわからないが、奴らは何らかの秘策を持っている節があるんだ。その関係で俺達の里をどうしても手に入れたかったらしいのさ」

「迷惑な話だな。俺達には関係のない話じゃないか」

トーゴの口調の影響か、エイゴもだいぶ落ち着きを取り戻したようだった。


ソウゴが話しを引き継いで言う。

「まあそれは抜きにしても、里とヴァルパネスの間にはたくさん獣の出る狩場がある。里がヴァルパネスの領地なら必然的にそこもヴァルパネスのものだという事になるからな。それだけでも里を襲う意味はあるんだろうさ」


「結局、里も私達も両方手に入れるのが彼らの最終目標だっていう事?」

「そういう事になるな」

クミの発した質問にソウゴがため息まじりに答えると、エイジは拳を堅く握りしめた。

「そう簡単に事を運ばせてたまるか」


エイゴが顔を上げて言う。

「だが、今はユルで他の皆と合流するのが先だ。とにかくユルへ向かおう。連中はまだ街道にいるんだろう? だったら俺達は山沿いに逃げるしかない。山道を行きゃあ奴らは追いつけないはずだ」


「それなんだが、奴らの中に魔法が使える者がいるという噂がある」

高い山の山沿いに行くとなると注意されれば遠くからでも見つかってしまう事は覚悟しなくてはならない。

高山にはろくに樹など生えていないからだ。

それでも普通の兵士なら近づかない限りは戦いにはならないが、魔法を使えば弓などよりかなり遠方からでも攻撃する事ができたりする。

それを考えるとさらに距離を取らなければならなくなる。


「でも魔法って言ったってそんなに強い魔法を使う訳ではないのだろう? ある程度ならクミだって使えるし、シオリだって…」

エイゴもエイジと共にシオリの魔法は目の当たりにしている。

同程度の魔法なら防ぐ事も可能ではないかと言いたいのだ。


「いや、噂ではかなりの術者がいるという話だ」

「まさか、ヴァルパネスには高位の魔法どころか中位の魔法すら使えるものはいなかったはずだぞ」


「それはそうなんだが…」

ソウゴもその辺はあまり自信がなさそうにしている。


「聞き間違えじゃあないのか?」

「ああ、確かに遠くて少し聞き取り辛かったからな。そうかもしれない。が、警戒はしておいた方がいいだろう」

「どっちにしたって街道に出る訳にはいかないんだ。俺達は俺達の得意な道を行くしかない。来たばかりの所悪いのだが、少し距離を稼いでおこう。行けるか?」


「もちろんだ。まだまだ行ける」

エイゴの問いかけにソウゴがそう答えると、その隣で、トーゴとアイカも頷いた。

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