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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第3章 風の里
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口論

魔獣の徘徊する森の中を交代で休みを取りながら二日程進んでいくと、ようやく森を抜ける事が出来た。

街道の通っている低地は避け、森の中でも高地寄りを進んだ甲斐があったのか、この間、トキト達がヴァルパネスの軍隊と出くわす事はなかった。


ここからしばらくは山腹の斜面に草地が続いている。

草地では近づく者があれば遠くからでも見えるので、常にピリピリしている必要はなくなり少し楽になった。

ただし自分達の様子も相手にわかってしまうので、最低限の注意は相変わらず必要だ。


エイゴが斜面にちょっとした窪みを見つけ、一行はそこで一息入れる事となった。

シオリが窪地の草の上に身を投げ出して倒れ込む。

「あー疲れた」


「すみませんシオリさん。私だけ楽をしちゃって…」

ここまでクミはエイゴとエイジに交互に背負われてきた。

思ったよりもあちこちに傷を受けている上、精神的にもかなり参っていたからだ。

しかし、そろそろそれも解消して来ている。


クミは寝転がるシオリの前に立った。

「もう大丈夫なので、これからは歩きます」

そんなクミの肩を叩いてトキトも草地に座り込む。


「ここまで歩き詰めだったんだ。まあ、とりあえず休もうよ」

「ソウゴのお客様だっていうのにすっかり巻き込んじまったな」

エイジもトキトの隣に腰を下ろした。


「ホント、私達お客様なんだからもっと丁重に扱ってよね…って、そう言えばソウゴ達何処へ行ったのかしら。全然見当たらないし、まさか殺られた訳じゃないわよね」

半身を起こして言うシオリに対して、エイゴは逆に伸びをするようにして寝転がる。

「アイツらなら多分大丈夫だ。奴らの行った方向には敵兵は少なかった事だしな」


「じゃあ、何で合流できないんだ? あの時、そう遠くない位置にいたはずだから、いくらなんでももう合流してもいい頃合のはずだろ」

それはトキトもずっと気になっていた事だ。


「二日間も合流できないっていう事は、恐らく敵の動向を探りに行ったのだろう。ヴァルパネスの連中がなぜ急に襲ってきたのかも今の所よくわからない訳だしな。情報は必要だろう?」

「敵の急襲を何とか躱したかと思ったらもう次の動きをしているっていうのかよ。それが本当なら随分とご苦労なことだな」


トキトとしてはある意味敬意を込めて言ったつもりだったのだが、言葉通りに受け取ったらしいシオリが突っ込んでくる。

「何言ってんのよ、トキト。情報は大事よ」


「奴らの全員がそうなのかはわからないけど、ベレツとか言う奴はクミの事を自分の奴隷にしたかったみたいだけどな」

トキトとしては知っている事を言っただけのつもりだったのだが、それを聞いたシオリの目の色が変わった。

「なにそれ、気持ち悪い! そんな奴ぶっ殺してきたんでしょうね!」

「あっ…ああ、まあ…、っな……」

あまりの剣幕に思わずたじろいでしまったトキトを救ったのはエイジだった。

「そんな事より、これからの事だ。奴らの真意も知りたいところだが、俺達がこれからどうするのかも決めておかないといけないだろう」


そこへエイゴも近づいてくる。

「そうだな。でもまずはユルの兄貴の所へ行くしかないだろう」

「いや、そう言う事じゃない。本当に里を捨てるつもりなのかって言っているんだ」

エイジがエイゴに食って掛かり、親子喧嘩が始まった。


「そりゃあ……、あそこはもうヴァルパネスの連中に見つかっちまったんだから、捨てるしかないだろ」

「じゃあこれからどこに住もうっていうんだよ」

「新しい場所をまた探すしかあるまい」

もう気持ちを切り替えている様子のエイゴに対しエイジはまだ納得できない様子でいる。


「そんな事簡単にできるもんか。大体、ずっと隠れて暮らそうって言うのが無理な話なんだ。初めから俺達はここに住むぞって周辺の国々に認めてもらっておけばこんな事にはならなかったはずだ」

「仕方が無かろう、長老達が決めた事だ」

「いくら長老達が決めたからと言ったって、長老達は必ず俺達よりも早く寿命が来るんだ。その後俺達はどうやって生きていけばいいんだよ」

まだ若いエイジにとって先の見えない状態は苦しいのだろう。

言わずにはいられなかったのだ。


しかしエイゴは落ち着いている。

「その前に長老達が俺達を閃界の向こうに連れて行ってくれるはずだ。心配するな」

「そうやってもう何十年も閃界への入口を探しているのに見つからないんだ。少なくとも爺さん達が生きている間に見つかるとは思えない。爺さん達がいなくなってからそれが見つかったとしたって俺達にとっては知らない世界だ。何もできやしない」


「まあまあまあ、二人とも落ち着いて」

ここでトキトが止めに入ると、サナエがそれに続けて言う。

「とにかく長老達の指示を仰ぎましょう。風の民は長老達が作った集団なのだから…」

サナエとしては事を落ち着かせるつもりで話に入ってきたのだろうが、しかしこれは逆効果だった。エイジの息が荒くなる。


「今のリーダーは親父の兄貴、ユーゴ伯父さんじゃないか。これからの事は親父たちの代が決めるべきなんじゃないのか」

また勢いをぶり返してきたエイジにトキトはとりあえずこの場を取り繕おうと試みた。

「エイジ、まだいつ敵が現れるかわからない状態なんだ、ここで喧嘩をしている場合じゃないだろ。だいたい、長老達にしろユーゴさんにしろここにはいないんだ。どっちみち結論が出る訳がない」


エイジが振り上げた拳をゆっくりと降ろしていく。

ところが、何とかエイジが矛を収めたかと思った所で意外にもシオリが炊きつけてくる。

「いいじゃない。言いたい事は全部言った方がいいわ。遠慮なんかしない方がいい。だってみんな血の繋がりのある家族なんでしょ。喧嘩したって最後にはわかり合えるはずよ」


シオリの目はどこか遠くを見つめているように見える。

その様子からシオリにも何か思う所があるのかもしれないとは思うのだが、しかし、今ここでそれを聞いても仕方がない。

今はエイジたちの話の方が優先だ。


しかし、ここで言いたい事を言い合っても、ユーゴや長老達と合流した後でもう一度そのやり取りをしなければならなくなる。

なるべくなら一度で済ました方がいいに違いない。


「なら、せめてユーゴさんの居る所で…」

「トキトは黙ってて!」

だが、シオリはにべもない。

トキトは黙るより仕方が無かった。


エイゴがその後を引き取って言う。

「いや、トキトの言うとおりだ。ここはまだ安全とは言えない。少なくとももっと安全な場所に着いてから議論すべきだろう。ここで奴らに襲われたりしてみろ、せっかくクミを助けた意味もなくなる」


「だが、その間に里が奪われてしまう」

エイジはエイゴの目を睨みつけている。

その肩にサナエが優しく手を乗せた。

「落ち着いてエイジ、今ここに居るメンバーだけで里に戻っても戦いにならない。殺られるだけだわ。いいえ、殺されるのならまだいい。もし捕まったりしたらここにいない他の者達まで窮地に陥れてしまう。ここは我慢して」


サナエの説得に応じたのかエイジはそれ以上言い返すのを止めた。

「俺が見張りに立つから皆はとにかく休んでくれ。いざという時力を出し切れないで殺られてしまっては悔やみきれない」


エイゴが見張りに立つと、皆思い思いに休憩を取り始めた。

そこには不自然なまでの静けさが広がっていた。

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