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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第3章 風の里
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急襲

ちょうどトキトが着替え終わった時、今度はアイカが飛びこんできた。


「二人とも急いでここから出る準備を……、って、もうしているみたいだな」

「ああ、トーゴが血相を変えて走ってきて、逃げろって言うからとにかく準備だけはしておいたんだ。けど、何があったんだ?」


「どうやらここが見つかったらしい。今、軍隊がここを目指して近づいてきているという事だ。ソウゴが心配していた事が起こってしまったのかもしれない。ところで、シオリはどうした?」


「ここに居るわ。もうちょっとだけ待って」

襖の向こうからシオリが答えるのが聞こえてくる。

ごそごそと音をたてている所を見るとまだ着替えが終わっていないようだ。


「どこの軍が来たんだ?」

「ヴァルパネスの軍みたいだな。あそこにはタケジ爺と親交の深い人もたくさんいるはずなんだが、そんな事、関係ないみたいだ」


「アイカはあまり驚いてない感じに見えるけど…」

「私は個人的に、ここを攻めて来る所があるならそれはヴァルパネスなんじゃないかと思っていたからな。最近はあそこには近づかないように注意していたし…、悪い噂は周辺の国まで聞こえていたしな。だが、こんなに早く事を起こすとは思っていなかった」


「で、これからどうするつもりなんだ?」

「今、トーゴが長老たちの指示をもらっているところだが…、恐らく逃げるしかない」

「どこへ?」

「わからない。今、ソウゴとエイジが様子を見に行っているはずだ」


トキトとアイカがそんなやり取りをしていると、ようやく襖が開けられた。

どうやらシオリの着替えも完了したようだ。

「行くぞ」

シオリが出てくるのを確認し、アイカはすぐに家を出た。

二人でその後を追いかける。


「行くって、どこに?」

既にアイカは里の入口に向かって走っている。

まずは里の外に出ようと考えているようだ。

確かにこの里の奥側は崖になっているので逃げようがない。

逃げるのならまずは里を出なくてはならない造りになっている。


トキトがシオリとともにアイカを追って走って行くと、里の入口では既にエイゴとトーゴが待っていた。

振り向くと後ろからは長老達が軽い駆け足で駆けて来る。


トキトが門の前まで来た時、外からソウゴとエイジが飛びこんできた。

「かなりの規模だ。楽に百人はいる」

「もうすぐそこまで来ている。姿を隠す気配がない所を見ると秘密裡に進めるつもりはないみたいだ」


トーゴが来てから偵察に出たはずの二人がもう戻ってきたという事は、本当に近くまで敵は迫ってきているという事だろう。

この場所が見つけづらい場所である事は確かだが、ひとたび場所がわかってしまえば、ここへ来るまでの間には身を隠すような場所などほとんどない為、逃げるには時を失した感が否めない。


「結界はどうしたんだ? 効いていないのか?」

ゲンゴがようやく追いつき聞いてくる。


柵沿いを駆けて来たクミがそれに答えた。

「確認してきたけど魔力石に異常はなかったわ。だから、少なくとも遠くからはここは見えないはず」

魔力石がどう機能していたのか、トキトにはわかりようもなかったが、クミが確認してきたと言うのだからきっと確認できたのだろう。


「なら、どうしてここがばれたんだ? あの感じじゃ間違いなく奴らはここを目指して来ているぞ」

エイジが声を荒げている。


そして、トキトを睨み、凄んでくる。

「まさか、お前たちが知らせたんじゃないだろうな」


「それはありません。私、今日はずっとここに居いましたけれど二人とも畑からこっち側には一回も来ませんでしたし、狼煙や合図の様なものが里から発信された事もありませんでした」

すぐにクミがエイジの疑念を否定した。

「じゃあなんで…」


「そんな話は後だ。まずはこの場をどう切り抜けるか考えるの方が先だ」

皆の視線がゲンゴに集まった。


この時になって、ようやくタケジがその輪に加わった。

まだ酔いが醒めきっていないものと思われるタケジは、ミツコとサナエに支えられるようにして歩いてきた。

一応鎧姿に着替えているのは、恐らく着替えさせられたものだろう。

これで里にいる風の民全員がそろった事になる。


タケジが合流したのを見計らったようにゲンゴが宣した。

「里は捨てる。皆、それぞれ散開しユルのユーゴの所に集まるのじゃ」


対してエイジとアイカの父でもあるエイゴが皆を代表して質問する。

「集まるったって、もう奴らとすれ違わずにここから出る事はできませんよ。どうするんですか」


「あまり事を荒立てるのは我々の望む所ではないのじゃがやむを得ん。ヴァルパネスとは友好関係を破棄し、戦闘態勢を取る。各々戦って活路を見出すんじゃ。なに、敵を殲滅する必要など無いのじゃ。各自ただ逃げ切る事だけに専念すればよい。そんなに大変な事でもあるまい」


ゲンゴはやけに簡単に言っているようだが、相手は百人以上いるという事だ。

この余裕はいったいどこから来るのだろう。

等と考えていたトキトは、そんな事を呑気に考えている場合ではなかった事に気が付いた。

よく考えれば自分達も既に巻き込まれてしまっている。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺達はどうすればいいんだ?」

「どうすればって、こうなってしまったからには戦わないわけにはいかんじゃろう。お主らの持っている剣や鎧なら、心配する事もないじゃろうしな」

そういう意味で言っていた訳ではないのだが、トキトは何故か反論する事ができなかった。

ソウゴ達が長老達に反論できないと言うのもわからないではない。

妙な威厳を感じるのだ。


「なんじゃ。戦うのか?相手はどこじゃ」

依然酔いがさめない様子のタケジが的の外れた事を言っている。

そう言えばこの酔っぱらいの事はどうするつもりなのだろうか。


「タケ爺しっかりしてくれ。ヴァルパネスが攻めて来たんだ。タケ爺にも働いてもらわなければならないんだからな!」

エイジは怒鳴っているが、タケジは気にしていない。


「ヴァルパネスが攻めて来たじゃと? そんな事ある訳あんめえ。わしはついさっきまでヴァルパネスの酒場でノフラル将軍やベレツの餓鬼と飲んでいたんじゃ。奴らわしにたらふく奢ってくれたぞ。ノフラルは長い付き合いのある将軍だし、ベレツだってどこぞの部隊の隊長だとか言っておった。ベレツなどはわしの事を尊敬しておるとも言っておったんじゃ。そんな奴らがわしの里を襲ってくるわけがないじゃろ」

トキトがソウゴの事を見ると、ソウゴは頭を抱えている。

いや、ソウゴだけではない。エイジもエイゴも微妙な表情だ。


「どういう事?」

シオリが小声で尋ねてくるので、トキトは小声で答えた。

「この感じだと、タケ爺が敵にいいように乗せられて酔わされたあげく、尾行られたっていう事なんだろうな」


ゲンゴはいまだふらふらしているタケジの後ろに回り込むと、押さえつけるように跪かせ、両腕を脇の下から差し込むと、巻き込むように肩を掴んで一気に引き上げた。

その機敏な動きはとてもそれまでの老人と同じ人物の動きとは思えないもので、こんな動きができるのかと驚かされる。


「いつまでも酔っぱらっている場合か。いい加減正気に戻らんか」

タケジは大きく一回息を吹き出し、頭を振りながら立ち上がった。


そんなタケジにゲンゴが言い渡す。

「お前とワシで前線に立つぞ。皆を逃がさにゃならん。どうやらお前のせいの様じゃからな、お前にも手伝ってもらわにゃならん」


するとタケジはもう一度大きく息を吐き出した後、

「アイツら、わしの事を(たばか)ったというのか。ただじゃおかんぞ」

と言って、意外に機敏な動作で腰の剣を引き抜いた。

そして、ゲンゴと共にゆっくりと門をくぐっていく。

その後に婆さん達が続いた。


言葉の勢いと実際の行動とのギャップにびっくりしてただ黙ってその様子を見ていたトキトは、少しして不意に我に返った。

「おい、爺さん達出て行ったぞ。いいのか?」

「長老達なら心配ないと思うが、俺達もここでじっとしているわけにはいかない。ゲン爺の言葉のとおり、皆、ユルで合流だ。捕まれば奴隷にされるという話もあるらしいから捕まらないよう気を付ける様に。では、解散!」


エイゴの号令で残った者達も其々門から外へと散らばって行った。

皆がバラバラに動きだした所を見ると、どうやら組織立った行動は苦手な様だ。


呆然と突っ立っているトキトにソウゴが近づいて来る。

「面倒に巻き込んでしまってすまない。二人は俺達と一緒に来てくれ」

ソウゴはそう言うと、アイカと共にトキトとシオリを門の外へと促した。


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