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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第3章 風の里
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長老たち

彼等は、自分達の事を六十年前の日本からこの世界に来た人間だと言って紹介した。

トキト達と同じように竜の穴の底で気が付いたのだそうだ。

しかし、そこには竜は居らず代わりに十頭ほどからなるサンビの群れがいたという。


サンビとは以前険しい山道でリーナを載せてくれた風の民の守り神だという大ヤギの事で、ほとんど垂直に見える崖でも普通に上り下りする事が出来るという珍しい動物だ。

そのサンビに乗る事で穴から抜け出せたという事のようなのだ。

レンドローブがこの事を知らなかったのは、彼らの姿を見ていなかったからだろう。

レンドローブが戻ってきた時には彼らはサンビに乗って穴から抜け出し、もう穴の中にはいなかったのだ。


穴から出た彼らは元の世界に戻る方法を探して世界中を飛び回ったらしい。

定住しなかったのは同じ場所にずっと留まっていても新しい情報はほとんど入ってこないと思ったからだ。

それにじっとしていられなかったという事もあったのだろう。

それほど帰りたい思いが強かったのだ。

その気持ちは今でも持っている。


その為、彼ら風の民が元の世界、つまり日本に帰るために守っている掟がある。

それが許嫁の制度だ。

この世界の他の民族との間に血が混じると、髪や目、肌の色の事で、戻った時に奇異の目にさらされるだろうと考え、生まれてすぐに一族の中から結婚相手を決める制度が出来上がった。

ちなみにソウゴの許嫁はアイカで、トーゴやユウリにも許嫁はいるらしい。


一通り長老たちの話を聞き終わった所でトキトは言った。

「皆さんが元の世界に戻りたがっているという強い気持ちは十分伝わってきましたので、大変言いにくいのですが…」

先を述べる事に少し躊躇したトキトだったが、意を決して続けた。


「我々が三千年以上生きているというあの竜から聞いた話では、元の世界に戻る方法はないという事です。そんな噂すら耳にしたことがないと言っていました。実は僕たちもまだ完全に元の世界に戻る事を諦めきれたわけではありませんが、それにこだわらずここで暮らしていく事も考えなければいけないと思っています。諦めろとは言いませんが、皆さんもここでの暮らしをもっと充実させてみてはいかがでしょう」


トキトはソウゴの言っていた事に共感していた。

存在しないという帰る方法を一生探し続けるだけの人生なんて寂しすぎる。

これは自分の為と言う訳ではなくシオリとイチカの為なのだが、トキト自身、元の世界へ帰る方法を見つける事を諦めたわけではない。

けれど、それに全てを賭けるのには賛成できない。


長老達は最初は互いに顔を見合わせていたようだったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべ、口々に言ってくる。

「ほっほっほ。まあ、わしらもこれだけ探して見つからないもんがすぐに見つかるとは思っておらん。ましてや来たばかりの者がそんな事わかるわけがないじゃろう」

「心配するな。その件は息子達や孫達があちこちに散って探しているからのう。遠からず分かる時が来るはずじゃ」

「そんな事より、日本国は今どうなっているのか教えてほしいのじゃが」

「そうそう、あんた達を見た感じじゃ少なくとも悪い世界にはなっておらんようには思えるのじゃが…」

「わしらの想像通り発展しているのではないかえ」

其々が言いたい事を言っている。


初めはわかってくれたのかと思ったトキトだったが、良く聞くとそうでもない事がわかってくる。

どうやら彼等に今までのスタイルを変えるつもりはないらしい。


それでも同じ日本人であるという事で二人は皆に歓迎された。

「いやあ、黒い瞳と黒髪を見ると落ち着くのう。一族以外で同じ民族の人と会えるなんて…」

「しかもこんなべっぴんさんじゃよ。長生きした甲斐があったというもんじゃ」

ここでもシオリの人気は高い。

シオリは美人なので、ある意味それは当然の事かもしれないが…。


「何ゆうとるか。あたしだって昔はこの娘さんくらいべっぴんじゃったぞ」

「そうじゃったか? だいぶ昔ん事じゃから忘れてしもうた」


長老たちは、皆で笑い合い何やら盛り上がっている。

彼らには内輪の人間と話し合っているような気安さがある。

それもなんとなくわからないではない。

トキトも昔、海外で偶然日本人に会った時、何故だかテンションが上がった事を覚えている。

きっとそれと同じような気持ちなのだろう。


それからしばらくの間、トキトは長老たちと会談、というか歓談した。

まあほとんどが雑談の類のものではあるのだが。

最近の日本の状況なども話題にはなったのだが、それはろくに通じていない印象しかなかった。


スマホはもちろん、携帯電話などと言っても黒電話を持ち歩いているようなイメージしか湧かないようだし、というか、そこから電話の思い出話に変わってしまい、何の話をしていたのか分からなくなるというパターンで話が続いた。


やたらとちやほやされた事もあってか、初めは積極的に話に参加しているように見えたシオリにも疲の色が見え始めた頃、それまでずっと長老達の後ろに立っていたアイカが口を開いた。

「じじ様、ばば様、お二人もここまでの旅でだいぶ疲れておりますし、今日の会合はこの辺で終わりにしてはいかがでしょうか?」

アイカの視線はシオリに向けられている。

助け舟を出したつもりなのだ。


「おお、そうじゃな。エイゴ達とも面通しせんといかんしな。すまんすまん」

そう言って長老の一人、ソウゴ達の父方の祖父であり前の里長でもあるゲンゴが立ち上がった。

ゲンゴが立ち上がると、それに続いて他の長老たちも立ち上がった。

自己紹介は話の流れの中でしただけで、特別かしこまってはしていないが、四人しかいないのでトキトもさすがに覚えている。


「ついつい懐かしくてしゃべり続けてしもうた」

優しい笑顔を浮かべているのがゲンゴの妻であるチカ婆さんだ。

「トキトさんもシオリさんもしばらくここに居るんじゃろう。また明日話せばいいさね」

同じく笑みを浮かべているのがミツコ婆さん。

優しい笑顔なのだがどこか凛とした雰囲気も持っている。

「エイゴもサナエも首を長くしているやもしれんわ。我々はそろそろ退散時じゃろ」

タケジ爺さんはソウゴ達の母方の祖父にあたる。

ゲンゴよりもだいぶがっちりとした体格で、昔筋肉質だったことがうかがえる。

ミツコ婆さんとは夫婦の間柄だ。


四人はトキト達に軽く頭を下げ、ゆっくりした動きでその部屋から出て行った。

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