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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第3章 風の里
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無人の村

岸にたどり着いた直後に、もう一度ワニの襲撃があったが、それもシオリの魔法であっさりと撃退した。

陸上だったので水上よりも狙いがつけやすかった事もあるらしい。

当初はまだ別の気配もあったように思うのだが、そのワニを撃退して以降、気配は消えて無くなった。


「この道が一般的にならないのはあんなのが待ち伏せしているからなのね」

三頭ほどのワニを退けたシオリが一息ついた様子で言ってくる。

三頭とも一撃で倒した腕前は見事としか言いようがない。


「そうだな。我々もシオリがいなければ危ない所だった」

ワニにしろオオサンショウウオにしろ大して強い獣ではない。

しかし水中で襲われれば、多少剣術に覚えのある者でも彼等にはとても敵わない。

シオリのように獣を倒すほどの魔法の使える者は、一般的にはほとんどいないのだ。


「本当にそうだな。俺達が無事川を渡れたのはシオリのおかげだ。ありがとう。それと、さっきは悪かった。大人げなかった。申し訳ない」

トキトは馬を止め、頭を下げた。

シオリはトキトのいる方には視線を向けていない。


真っ直ぐ前を見つめたまま、言ってくる。

「なに? そんな事でいちいち謝らないでよ。お互い様でしょ。それに、トキトの言うとおり私がもっと早くに魔法の事を思い出していれば、トキトも危ない目に合わずに済んだはずなんだから、謝る必要なんてないわ」


あさっての方向を向いたままなので正確にはわからないが、口調からシオリの逡巡が伝わってくる。

少なくとも謝ってほしいとは思っていなかったらしい。


そんなやり取りをしていた二人の馬が急に立ち止まった。

前を歩いていたアイカの馬が止まったからだ。

「どうしたの?」

シオリがアイカの背中に声をかける。


「道だ」

アイカはそう短く答えた。


「それなら、この道をたどっていけばどこかの村に着くんじゃない?」

道が見つかったのならすぐにでも最寄りの村へと向かえるはずだ。

しかし、何故だかアイカの表情は硬い。


「いや、これは馬の足跡だ。しかも一頭や二頭じゃない。何十頭もの馬が通った後だ」

「どういう事だ?」

トキトも馬をアイカの横へと寄せた。

確かに向こう岸で歩いてきた道と比べると、随分と地面がしっかりしている。

大量の馬の往来があったと言われればそう思えない事もない。


「という事は…」

トキトがゆっくりそう言うと、アイカがその先を続けた。


「奴隷狩りがあったとするなら、もう襲われた後なのだろうな」

要するに、何者かが大挙して村を襲った後の可能性が高いという事だ。


「とにかく行ける所まで行ってみましょうよ。何かわかる事があるかもしれないし」

「そ、そうだな。とにかく村へ行ってみよう。良いにしろ悪いにしろ何かしらわかるはずだ」

トキトは心配そうに先を見つめるシオリの肩を軽く叩いて宥めつつ、そこかしこに荒らされた跡のあるその道を上流に向かって進み始めた。


道はずっと同じような状態が続いていた。

道の両側は所々踏み荒らされ、小さな樹などは折られたりしている。

また、大きな樹がある所ではその樹を回り込むよう二つに別れ、その後また合流したりもしていた。


しばらく進むと少し大きめの沼に行き当たった。

その水際にちょっとした集落が見える。

ここがこの辺りに住む人たちの村なのだろう。


三人で村の入口のすぐ前まで無言で馬を進め、そこでトキトが恐る恐る声を掛けてみた。

「すいませーん。だれかいませんかー」

しかし何の反応も返って来ない。


村は十軒ほどの小さなもので、村というより小さな集落と言った方がいいレベルの村だ。

一見何の異常もないように見えるが、良く見ると何軒かの家の入口付近が壊れている。

斧のような刃物で抉られたものの様で、似たような痕は村の入口の門にもある。


アイカは馬を降り、手綱をシオリに預けると、失礼します、と一言言ってから、そのまま悠然と一軒の家の中へと入って行ってしまった。

トキトも馬を降り、近くの樹に馬をつないだ。

それを見たシオリもトキトに追従する。


アイカの馬も樹に繋いであげながら、シオリは大きく息を吐いた。

「誰もいないみたいね」

「ああ、こうなると奴隷狩りの信ぴょう性が高くなってくるな」

言いつつもう一度辺りを見回して見るのだが、動くモノは何も見当たらない。


「誰か一人だけでも残っていてくれればいいんだけれど…」

シオリが祈るようにそう言った直後、アイカが家から出てきて首を左右に振った。

「ダメだ。誰もいない」

口調も心持ち重くなっている。


「手分けして他の家も見て見よう」

可能性は低いのかもしれないが、確認しないわけにもいかない。

トキトは隣の家へと向かった。


玄関の前で、失礼します、と一声かけてから中に入る。

しかし、それに対して何の反応もなく、部屋に入ると案の定あちこちが荒らされていた。


元はきれいに置いてあったと思われるテーブルや椅子は、無残にもバラバラにされていて、壁際の農具共々あちらこちらに散乱している。

壁にも幾筋もの刀傷が残されていた。

トキトがそんな荒らされた部屋の中をさらに奥へと進んでいくと、次の部屋は靴跡で覆い尽くされていた。

この小さな家の中にいったい何人の人が入ったのだろう、と思うくらいの大量の靴跡だ。


その先の一番奥の部屋は、食堂の様だった。

この部屋も他の部屋同様荒らされていて、部屋中に食器などが散乱していた。

が、人の気配はやはりどこにもなかった。


結局、トキトはその後も二軒ほど他の家を見て回ったのが、どの家も同じような有様で、同じく人の姿も全くなかった。

この集落には総じて人の気配が感じられない。


「しかし、殺された人が見当たらないのが不幸中の幸いだな」

トキトが思わず呟いてしまった言葉に、すぐ後ろにいたシオリが同意する。

「本当、誰か殺されていたらどうしよう、って思っていたんだけど、死んでいる人がいなかった事は良かったわ。多少は人道的な所もあるのかな」


そこへ、別の家を見て回っていたアイカが前方から戻ってくる。

「いや、そんな事はないだろう。恐らくなるべく痕跡を残さないようにしているだけだ。老人や病人など使えそうもない奴はこの後何処かで殺されたかもしれない」


そして二人の状況を聞いて来る。

「何か奴らの手掛かりになるものなど無かったか?」

「俺の方は特に…。部屋は荒らされていたが、奴らのものと思われるものはなかった」

「私の方も何もなかったわ。家畜の小屋もからだったし…」


「家畜まで持って行ったっていう事か?」

トキトの疑問にシオリは自分なりの解釈を言う。

「ううん。違うと思う。小屋の戸が開いていたから、きっと誰かが逃がしたんだと思う」


「…そうか、こっちも収穫なしだ。特におかしな所も見あたらなかった」

アイカは二人のすぐ側まで来た所で立ち止まり、それで三人は三角形に向かい合うような形になった。


しばらくの無言の後、トキトが口を開いた。

「これは…、何者かに襲われた後だって考えてよさそうだな。たぶん周辺の村も同じような状況だろう。俺達にできる事も無さそうだし、残念だけど戻ろうか」

帰りもあの川を渡らなくてはならない訳だし、襲われた後の村なんてどこもそんなに変わるものでもないはずだ。

無理してまで見に行く必要はない。


が、シオリがそれに異を唱えた。

「でも、せっかく苦労してここまで来たんだから、もう一つくらい別の村を探してみた方がいいんじゃないの? 手がかりだってまだ何も見つかっていないんだし、時間だってまだたくさん残っているじゃない。一度向こうに戻ったら、もうそう簡単にこの辺りには来れないわ。できる時にできる事をやっておくべきよ」


アイカもシオリに賛同する。

「私もシオリの意見に賛成だ。今戻ったらわざわざここへ来た意味がない。せめて襲った奴らの当たりをつける事くらいはした方がいい。でないと被害を食い止める事も難しい」


こうなるとトキトの方が分が悪い。

そもそもトキトが戻ろうと考えたのは、二人の身を案じた事がベースにあったのだ。

トキト自身、行きたいという気持ちが無かった訳ではない。

「そうだな。もともと俺の悪い予感に従ってここに来たんだし、その結果やはり予感通りに悪い事が起こっていましたっていうだけじゃ、ここまで来た意味がないもんな。…ごめん、二人とも。悪いけどもう少し付き合ってくれ」

なので、トキトがそう言うと、誰からともなく手が伸びて来て、結果、三人で手を取り合う事となった。

が、こんな行為一つで随分と結束が強くなったような気になってくる。


「そんなに時間があるわけでもないわ。すぐに行きましょう」

さっそく馬を取りに戻るシオリの後ろをトキトが追いかけ走り出す。

「行くって言っても、どこに行くんだ?」


アイカがトキトの横に並びかける。

「村の反対側にも道が続いている。大量の馬の足跡も続いているようだから先の村もここと同じようなものかもしれないが、まあ、とにかく行ってみよう」


アイカはトキトを追い越して自分の馬に跨ると、道案内をするように先頭に立ち、そのまま村の奥へと走り出した。

その後ろにシオリも続いていく。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ」

あっという間に馬に跨り走り出した二人を追いかけ、トキトも慌てて馬を走らせた。

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