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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第3章 風の里
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兆候

三人は宿を確保すると、夜は少し湖を見に行ったくらいで後はすぐに寝てしまった。


宿は三部屋ある大きな部屋を取り三人で一緒に泊まった。

もちろん寝るのはトキトと後の二人は別の部屋なのだが、その方が今後の打ち合わせも楽にできるとアイカがそうする様決めたのだ。

さすがにそれができるくらいの信頼はトキトも得ていると言っていいのだろう。

自分達の寝る部屋に二人が入っていく時にシオリが「寝てる間に入ってきたら殺すからね」と、なんだかお決まりの様なセリフを言ったくらいでそれ以上の事は何もなかった。


翌朝、なぜか朝早く目覚めたトキトは早々に寝室から居間へと移動した。

部屋の作りは真ん中に居間、左右に二つの寝室があるという造りで、そのうちの一つをトキトが使い、居間を挟んで反対側の部屋をシオリとアイカで使っている。

二人はまだ寝ているのか、居間には誰もいない。


トキトは新しい空気を部屋に入れるべく窓を左右に大きく開いた。

昨夜はもう暗かったので気が付かなかったが目の前には湖が悠然と横たわっている。

この宿は海岸の分厚い城壁を見下ろすほどの高台に位置していたようだ。

湖面に朝日が反射しキラキラと光っていて美しい。


しばしその光景に見惚れていたトキトだったが、ふと沖合に黒い点がたくさん浮かんでいる事に気が付いた。

よく見るとその黒い点はどうやらその一つ一つが船であるらしいとわかる。

点はざっと二十個ほどはみられるので、それが全て船だとするとかなりの数の船団という事になる。


あの船は何処かの国の軍艦で、船団を組んでここ、ポートワーズに攻めてくるのではないだろうか、と思ったトキトは、じっとその船の動きを監視してみたのだが、それはとんだ見当違いだったようで、船団は岸に近づいて来る事も無く、沖合をファロファロのある右側からトラスデロスやベイオングのある左の方へと進んで、いつしか見えなくなってしまった。


そうなると、あの船は少なくともこのポートワーズを攻めようとした船ではなかったという事になる。

そもそも船は遠くに見えただけでその形までは良く見えなかったので、あれは軍艦などではなかったのかもしれない。

ひょっとしたら何かを大量に運んでいる商船か、漁船の船団だった可能性もある。

けれども整然と進んで行ったその姿は軍の統率によるものと考えるのが一番しっくりするものだった。


トキトは何か釈然としないものを感じながらも、とりあえず今いる場所が危険にさらされる事はなさそうだと思い、大きく一つ息を吐きだした。


その後、しばらくしてようやく起きてきた二人と、賑やかめの朝食を済ませたトキトは、二人と一緒に馬で滝を目指して出発した。

宿は余裕も考えてあと三泊分とって、荷物は部屋に置かせてもらう事にしたので、昨日までと比べれば大分身軽な道のりとなる。


ポートワーズの東門を出た一行は、湖沿いに東へと向かった。

この辺りは国が整備した街道ではないため道幅は狭く、路面もガタガタだ。

けれども道の左側はすぐに湖になっているため遠くまで見渡す事が出来てとても気持ちがいい。

しかもこの方面に出かける人は少ないようで、すれ違う人もほとんどなく、絶景を独り占めしているような気分になってくる。


「こんなにいい景色なのに、誰も見ていないなんてなんだかもったいないわ」

シオリが馬上で伸びをするようにして遠く対岸のビオイオル山を望みながら言ってくる。

さすがに昨日よりはだいぶ霞んではいるものの、かの山は微かに望む事ができている。


アイカも湖越しに微かに見えるその山を確認し、シオリに応じた。

「この辺りで生活している者にとってはこの風景は日常だ。普通に毎日見ているのだからな」


「まあそれはそうなんだろうけど、初めてこの景色を見た者からすると確かにもったいない感じがするのも事実だな」

トキトが速度を落として近場の湖を見渡していると、アイカとシオリもゆっくりと馬を走らせトキトの馬が追いつくのを待った。


「湖もきれいだけど、滝もなかなかのものの様だぞ。宿の主人がそう言っていた」

アイカがそう言って先を促す。


その言葉がきっかけで、トキトは朝の出来事を思い出した。

「きれいと言えば、シオリ、朝食の時隣の旅人からキレイだって言われてたよな」


朝食を終え部屋に帰る時、男のテーブルの横を通るとき、シオリは声を掛けられたのだ。

別にナンパなどではないようではあったのだが、シオリの事を見てきれいな女性だと言ったのは事実だ。

声を掛けていたのはなかなかいい男だったように思う。


「なに、なんか文句あるの?」

たちまちシオリの口調が変わり機嫌が悪くなる。


「いや、そう言う訳じゃなくて、このままだとあちこちでこうやって声を掛けられそうだから何か対策を打った方がいいかもしれないと思ってさ」

「どういう意味よ」


シオリがトキトに喰ってかかろうとしているのをみて、アイカがそこに割って入った。

「私も昨日は少し心配したんだが、シオリならどうやら大丈夫そうだ。その時もうまくあしらっていたしな。逆に少しずつ慣れていった方がいいのかもしれん。周囲の者はひどい男にだまされないようにだけ注意してやればいい」


確かに、急ぐ旅でもないのだから、シオリがこの世界で生きていくために必要な事ならそうした方が良いともいえる。

リーナがそうであったのと同様シオリだってその容姿を隠しきれるものではない。

それならば自分が近くにいる間に慣れてもらった方がいいというのも一つの考え方だ。


なぜだか心の内にざらざらしたものが残るが恐らくこれは妹を持つ兄の気持ちと通じるものだろう。

かわいい妹のためと思えば我慢できないものではないはずだ。

トキトはそう思う事に決めアイカの意見に同意する事にした。


「そうだな。余計な事を言ってしまったようだ。すまなかった。シオリは今のままでいい」

トキトはそんな風に言いながらも、興奮したシオリに罵倒される事も覚悟していたのだが、意外な事にシオリは落ち着いていた。


「当たり前でしょ。私は私なんだから。でも、心配してくれた事にはお礼を言うわ。ありがとう」

そして逃げるように馬を走らせあっという間に遠くまで行ってしまった。


アイカがにやにやしながらトキトの方を見ている。

トキトはアイカに「行こう」と一言かけるとシオリを追って駆け出した。

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