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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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事後の王都

結局、トキトとシオリはベルリアス王の強い要望もありエルファール城にしばらく滞在する事になった。

当初は二人とも断ったのだがリーナやルーにも執拗に勧められ押し切られてしまった格好だ。


そこでトキトはシオリとルーが王都エルファールまで来るまでの話を聞いた。

それによるとレンドローブがソウゴの家に現れたのは二日前の事だったらしい。

トキトの声を聞いた後、何らかの手を打った上でイチハとシオリの気配を探しあてたのだそうだ。


トキトが念話を試みたのは魔物の群れに足止めをくらっていた時だけなので、その時の言葉がレンドローブに届いていたものと思われる。

もしかしたら、白天狼が助けてくれたこととも何か関係があるのかもしれない。


ソウゴの家でレンドローブがトキトの所へ行くつもりだと知ったシオリは、同行する事を申し出た。怪我はもうほぼ完全に治っていたからだ。

本来、レンドローブが完調ならソウゴの家のすぐ裏のラウール山脈を越えてくればすぐに王都まで来ることができる。

しかし、レンドローブはまだ標高の高い山脈は超える事はできない状態だった為、トキトが行った道と同様にファロンデルム方面に迂回するしかなかったらしい。


ところが、それを聞いたイチハが自分たちもファロンデルムまで送ってくれと言いだした。ユウリと一緒にウルオスに行く事にしたのらしいのだが、途中まで送って欲しいと頼んで来たのだそうだ。

そのせいでレンドローブは一晩待たされることになったらしい。

もっと早くレンドローブが来ていればあんなに苦労しないで済んだと思うと少し思う所もない事はないが、結局うまくいったのだからそれはそれでよかったと思う事にする。


ところが、イチハを待つ時間を待てなかったのがシオリだった。

レンドローブから新しく覚えた魔法の力が有れば王都に送る事が出来る、と聞いたシオリは、それを志願した。

実は着地以外にも高速で高高度の空を飛ばされる為、かなり危険度が高かったらしいのだが強行するよう願い出たらしい。

そして、トキト達が王都に着く直前に王都近くの森のはずれに着地したという。

その際、樹に接触したせいでかなり痛い目にあった事は言わずにいれなかったようで、トキトは何度もその話を聞かされた。


その後、レンドローブはイチハとユウリをファロンデルム郊外に降ろし、ルーだけを載せてはるばる王都まで来たという事だ。

ルーの話によればレンドローブは本気になればもっと早く飛べるらしいのだが、そうすると今は体が持たないと言っていたらしいのでやはり無理を押してきてくれたのだろう。



「トキト、こんな所にいたんだ。街には行かないの?」

買い物から帰ってきたシオリがトキトの事を見つけて聞いてきた。

シオリにしてみれば初めての大都市でしかも大手を振って買い物ができる状況も初めてなのだから買い物が楽しくて仕方がないらしい。


「トキトさんも一緒に来ればよかったのに…」

「そうですよ。気分転換になりますよ」

どうやらリーナとルーも一緒だったらしい。

だが、トキトが同行すれば店で散々待たされたあげく、荷物持ちになる事が間違いないので、あまり行きたいとは思えなかった。


「それは…、また今度にするよ」

なので、それは丁重にお断りして、リーナに話しかける。

「リーナ、ごめんな。国外に出られなくなっちまって…」


リーナは命の危機は逃れる事は出来たのだが、掟から完全に解放されることにはならなかった。

考えてみれば当たり前である。

どこか知らない場所でリーナが死ねば生贄が復活してしまうのである。

そんな危険な事を国王は許可することができなかったのだ。

国内を自由に移動できる権利を与えるのが精いっぱいで、リーナは城下に専用の屋敷を新しく設け、新しい侍女や護衛の騎士と共にそこにを拠点に暮らす事に決まった。

ルーは侍従長、ディンブルは護衛の騎士長として同居する予定だそうだ。


「またその話ですか? 大丈夫です。兄様には国内を自由に動けるよう配慮していただきましたから。エルファールは広い国ですし、まだまだ国内にも知らない場所はたくさんあります。特に東の辺境辺りにはまだまだ未知の地域もたくさんあると聞いています。トーレのキティエラ様にもまた会いたいですし、国内を回るだけでもかなり大変でしょうから…」


「はは…、あまり危ない処には行かないように。ディンブルが大変になるからね」

リーナ一人の実力では、国外はおろか国内でも誰かに守られなければいけないだろう。そう考えると、国内だけで留まる事になって良かったのかもしれない。


トキトがそんな風に思っていると、何か察したのだろうかリーナがすっとトキトの隣に来てトキトだけに聞こえるような小さな声で囁いた。

「私、きっと強くなりますから、その時はよろしく…」


リーナはそのまま何気ないそぶりでトキトの脇を通り過ぎると、三歩ほど歩いて振り返った。

トキトがその意味を測りかねていた所にシオリが近寄り微笑みかけてくる。


「そう言えば、トキト。リーナと夫婦の身分証明書持ってるんだって? 返しなさいよ」

笑顔の割に目は笑っていない。

確かに、新しい大国エルファール発行の身分証明書をベルリアス王に発行してもらった今となっては、逃亡時に使っていた風の民発行の仮のしかも嘘の身分証明など必要ない。


「良く知ってるな」

トキトがそれを出すと、シオリがひったくるようにして奪っていった。

「ほんとだ。夫婦になってる。いやらしい」

言いつつ証明書をびりびりに破る。

いらないものとはいえそうされるとなぜかむっとしてしまう。


「破らなくてもいいじゃないか」

「あれ、ひょっとして何か良からぬことでも考えていたのかしら。でも残念。もうそんなチャンスは二度と来ないわよ」

そう言われてみると、確かにあんなチャンスは二度とないのかもしれなかった。

せっかくあんなに綺麗な人と一緒にいたのだからうまくやればもっといいことも…。

などと考えを巡らせていたトキトにシオリの冷たい視線が突き刺さる。


「べ、別にそんなこと考えてないよ」

慌てて否定するものの、実際考えていたのではあまり説得力はない。

心なしかリーナが寂しそうにしているように見える…ような気がする。


その時ルーがすうーと近づいてきて小声でささやいた。

「トキト様、お気になさらずに。シオリ様もいろいろありましたので八つ当たりをしているだけなのですから」


「八つ当たり?」

そういえば、やけに絡む時がある、とはトキトも思っていた。

「はい、ソウゴ様の家でお世話になっているときにソウゴ様…」

「ルー! それ以上言うとただじゃ済まさないわよ」

シオリが、ある意味衛士達に囲まれた時に発した殺気よりも強いオーラを発している。

ルーは完全に縮こまってしまった。


このままでは、せっかくの楽しい雰囲気が壊れてしまいそうだ。

トキトはルーへの助け舟も兼ねて話題を変える事にした。


「そういえば、戴冠式の時、風の民の使者って居なかったよな」

「な、何よ。いまさらそんな事」

急な話題にシオリは少し戸惑ったような表情を見せたが、興奮状態からは冷めてくれたようだった。


「いや、ファロンデルムで戴冠式には風の民の使者も来るって聞いてたからさ」

「風の民って結構有名みたいだけど、数は相当少ないみたいよ。そこまで手が回らなかったんじゃないの」

確かに、六十年前の閃界人がルーツなら子孫はそんなにたくさんはいないかもしれない。

自分達のように何人か同時に来たのだとしてもあまり大人数で来たとは考えにくい。


「まあ数が少ないからこそ結束は強いのかもしれないけど、他の国とのつながりを考えるとある程度の人数は必要だろうからいろいろと難しい事があるのかもね」

人を送ろうとしてもいないのなら、送る事が出来なかったのかもしれない。


「私達も他人事じゃあないかも…」

シオリがボソッと呟いた。

考えてみれば、風の民どころか自分たちは三人だけしかいない。

三人が固まって生活しなければいけない訳ではないが、少なくともこの三人はかけがいの無い仲間だ。大切にしたい。

そう考えると無性にイチハの事が気になりだした。


「シオリ、そろそろ俺はここを出ようかと思うんだが…」

唐突な提案にさほど驚かなかったのは、シオリも同じことを考えていたからかもしれない。


「そ、そうね。もう少し買い物したい気もするけど…、イチハもほっとけないしね」

シオリもイチハの事を気にかけていた事は間違いなさそうだ。


「買い物ならこの先どこででもできるさ、もう、隠れる必要もない訳だし」

「これからは奥さんはいなくなっちゃうけどね」

話が戻りそうなのでこの手の煽りについてはトキトは無視することにした。


「じゃあ、明日発とうか。準備しとけよ。俺はベルリアス王の所へ行ってくる」

そして、まだ何か言いたげなシオリを残し、王の元へと向って歩き出した。

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