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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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奸計

時折人気のない家の敷地に入り、しばしその場所を拝借して巡回の兵士の目を逃れながら、少しずつ入り組んだ路地を進み、ようやく城の入口が見える所まで来た時にはとっくに午後になっていた。


城へ入る入口は一か所しかなく、しかもその入り口は普段は分厚い扉で固く閉ざされているのだが、今日は王様や賓客が儀式の為に出入りするのと、王の不在中も頻繁に式典の準備のための馬車が通るので、扉は開いたままだった。

その代わり普段よりも警備兵の数は多く、荷物を積んだ馬車も一台一台いつもより入念に中を確かめてから通している。


「衛士が結構いるみたいだけど、でも、思ったほどではないな」

「いいえ、外からは見えませんが、門は三重になっています。恐らく中にも兵はたくさんいるんだと思います」


「シオリ、お前の魔法で入口の奴ら吹っ飛ばせないか?」

ふとシオリの魔法の事を思い出したトキトはそれを使えないか聞いてみた。

上手く使えば楽に通れるのではないかと思ったのだ。


それに対してシオリは少し怒った口調で言ってくる。

「何でトキトにお前って呼ばれなくちゃいけないのよ。…まあ、いいわ。……。今の私の力だと、何人もの人を一度に吹っ飛ばすのは無理ね。範囲を絞ればもっと威力は出るけど、絞り過ぎると当たり所が悪ければ死んじゃうかもしれないし…」

つまり範囲を大きくすれば威力は弱まるし、小さくすれば強まるという事のようだ。


「連発はどのくらいきくんだ?」

「試したことはないけど、十発くらいは打てるんじゃないかな」

「そんなに?連続でそんなに魔法が使えるんですか」

横で聞いていたリーナが驚きの声をあげている。

いくら弱い魔法でも、連続では使えないのが普通だからだ。


「たぶん、できると思うけど…」

シオリはリーナがあまり驚くので、自信が揺らいでいるようだった。


「それでも中にまで衛士がいるんじゃ、やはり魔法だけじゃ無理っぽいな」

ふと漏らしたトキトの呟きにシオリは敏感に反応した。

「なに? 私だけにやらせるつもりだったの?」

シオリは頬を膨らませてむくれている。


「それですむのならその方が早いだろ、もし危くなったら当然、盾になってやるよ」

いくら元気に見えようとも、シオリはまだ骨折が治ったばかりだ。

一人だけに負担を掛ける訳にもいかない事はわかっているし、シオリだけに任せるつもりもない。


トキトの言葉を聞いたシオリは、何故か言葉を失っている。

「そっ、そう、それならいいけど…」

何とかそれだけ言葉を絞り出したようだった。


そんな二人から少し離れた場所で城の入口を見ていたリーナは、そこに動きがある事に気が付いた。

「見て、誰か来たみたい」

リーナの指差す先を見ると、他の衛士に比べて胸と肩に付けた装飾が派手な衛士が、門の前で直立不動の態勢を取っていた別の衛士に近づき、何やら二人で話している。

そして、そこでしばらく話した後、二人は左右に分かれ、門の両脇に設置された詰所の中へとそれぞれ入って行ってしまった。


二人が何をする為に詰所に戻ったのかは気になるが、そのおかげで今現在は門の前に人は誰もいなくなっている。

この先にも衛士はいるはずなので決して楽観する事はできないが、今がチャンスだとも言えなくはない。

「どうする?」

シオリもチャンスだと思ったのか、トキトに判断を仰いでくる。


トキトは少し考え、どれだけ多くの戦力がこの先に待ち構えていようと結局は戦わなくてはいけない事に変わりがない、と思い、門に突入する覚悟を決めた。

が、その判断は少し遅かったようで、そう思った直後に、辺り一帯に男の声が響き渡った。


『逃亡者、リーナ元王女。近くにいる事は分かっています。隠れていないで出てきなさい』


思わず建物の屋根の辺りを見回すが、当然、拡声器の様な物がある訳ではない。

よく見ると門の右にある衛士の詰所でさっきの男に耳打ちされながらしゃべっている男の姿が見える。

同じく衛士のことを窺っていたシオリが小さな声で聞いてくる。


「なにこれ? 魔法?」

その問いに答えたのはリーナだった。

「そうです。おそらく詰所に伝声の魔法を使える人がいるのでしょう。その人を使って私に警告しているようです」

そんな話をしている間に、反対側の詰所から衛士が五名ほどバラバラとあらわれて等間隔に並び、城への入口を塞ぐ形に展開した。


魔法の声は続いている。

『我々はディンブル・ファフスデールの身柄を確保した。リーナ元王女が投降しないのであれば、即刻、この者を串刺しの刑に処すがよろしいか』

唐突な宣言に、リーナの肩が小刻みに震え出す。


トキトはリーナの肩に手を掛けた。

「リーナ、落ち着け!これは罠だ」

「で、でも、ディンブルが…」

リーナの顔は真っ青になっている。


「落ち着け、もし捕まったのならあそこに引き出されているはずだ」

トキトは門の前を指差した。

人質がいるのなら見える場所に連れ出した方が効果的なはずなのだ。


「でも…」

「それに、最悪捕まっていたとしてもすぐに殺されるわけがないだろう。そんな権限が一衛士になどあるものか」

いくら王女に手を貸したからと言って一貴族を衛士ごときが裁けるとは思えない。

その判断が誤っていたら、一大事になるはずだからだ。

もっと上の判断を仰ぐ規則になっていなければおかしい。


『出てこないのだな、ならば仕方がない。すぐに刑の準備に入る。猶予はあと十分(じゅっぷん)だ。それと、元王女は風の民に変装し、風の民と行動を共にしていると聞いた。ならば、我がエルファール王国は、今後風の民との一切の交流を絶ち、風の民の国内への立ち入りも禁ずる事になるだろう』

声に躊躇のようなものは感じられないが、言っている内容はますますおかしい。

そんな政治的な事を簡単に決められる訳がないのだ。


しかしシオリは風の民の事を心配したようだった。

「ねえ、あれって私たちは良いけどトーゴ達に迷惑がかかるんじゃない」

シオリはトキトに小さな声で聞いたのだが、リーナにも聞こえたようで体がビクッと震えるのが分かった。


トキトはシオリを軽く宥めておく事にした。

「そんな事ソウゴなら覚悟してたさ。けど、そうなる前にリーナにちゃんと王様と会ってもらって、王様にそんな事は辞めてもらうよう頼んでもらえばいい」

「ソウゴがどう思うかなんてどうでもいいわ。風の民に迷惑…」

しかし、シオリは混乱しているようだった。

「ずいぶん引っ掛かるな。だから、そんな事俺達が上手くやればみんな解決する事だろう。ソウゴだってわかってくれるさ」

トキトもシオリの口調につられて少し興奮してしまっていた。


段々と言い合いになってくる。

「だから何でソウゴが出てくるのよ」

「はあ? 俺達が会った中じゃあ奴がリーダーだったからだろうが。お前、ソウゴの家で何かあったのか?」

「お前って呼ばないでよ!」

トキトはシオリを宥めるつもりが、話がずれて修正がきかなくなっていた。

そして、そちらに神経を集中するあまりリーナから目を離してしまっていた事に気付かされる。


「私ならここにいます。ディンブルの処刑を中止し、風の民への締め出しも行わないと約束するならそちらに参ります」

気が付くとリーナは、衛士のいる門とトキト達の隠れている路地のちょうど中ほどまで、既に進み出てしまっていた。


『約束しよう。こちらへ来い』

門の前の衛士の何人かがリーナへ駆け寄っていくのが見える。

リーナもゆっくりと彼等の居る方向へと歩を進めている。


トキトは完全に出遅れてしまっていた。

リーナの行動には、もっと注意を払っていなければいけなかったのだ。

どうする?行くか?


トキトは迷った。

リーナは既に衛士たちの近くまで行ってしまっている。

今跳び出してもリーナの拘束は免れないだろう。

となればただ無駄死にするだけに終わってしまうかもしれない。


トキトが考えていたのは一瞬の事ではあったのだが、その間にシオリは飛び出していた。

そして、飛び出してすぐに魔法を放った。

大きな空気の塊が周囲の砂や埃を舞い上げつつリーナを通り越していく。


「何やってるの、トキト。行かなくちゃ!」

シオリの声で、トキトはとにかくここは動くべきだという事に思い至り、すぐに通りに飛び出して、シオリの後を追いかけた。

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