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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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訪問者

トキトの声にいち早く反応したのはディンブルだった。

すぐに二階へ登る階段へと向かおうとしたのだが、客人は早くも玄関先まで来てしまっていたようで、玄関のすぐ前にある階段まで行くにはもう間に合わないと、身振りで伝えてきた。


「こっちへ」

するとレーシェルがクローゼットの両開きの扉を開きリーナとディンブルを招くようにしてその中へと誘った。

レーシェルはまずはリーナを中へと押しやると続いてディンブルも引き込み、一瞬だけトキトの目を見ると最後に二人とは反対側の扉の裏に入りゆっくりと扉を閉めた。


ほぼ時を同じくして、入口の扉を開ける音がして、二人の男が入ってくる。

ナガルともう一人は先程通り過ぎた旅人のようだ。

しかし手には剣を持っている。

トキトも剣に手をかけながら、二人に向かって言った。

「誰だ。何の用だ」


男たちは無言で部屋へと入ってきて辺りを見回した後、トキトに向かって剣を突き出した。

「俺はナガル・ファロンデルム。ファロンデルム家の当主だ。ここにいるのはお前だけか?」


トキトは手を剣に添えたまま、ナガルの目を見て答えた。

「そうだ」


「いや、嘘だな」

なにか知っているのだろうか、トキトが一人でない事を確信しているような口ぶりだ。

が、ここは慌ててはならない所だ。


トキトは努めて冷静を装いながら、言った。

「何がだ」


するとナガルはトキトに向けた剣を降ろした。

しかし、依然としていつでも剣を打ち合えるよう準備はしてある。


「俺はファロンデルムで風の民の夫婦が来ているという噂を聞いた。それはお前の事だろう。風の民がそうそうたくさんいるわけがない」

どこでその噂を聞いたのだろうか。

相方がリーナだと勘ぐっているのだとしたら、これはまずい。

確認されれば一発で見破られてしまう事だろう。


だが、もしかしたらそこまでは分かっていないのかもしれない。

だとすれば、賭けてみる価値がある。

「そこまで知っているなら隠しても仕方がないな」

その言葉に、クローゼットの中にいたリーナとディンブルは固まった。


この時、ディンブルはわずかな時間に素早く考えを巡らせていた。

ナガルを騙せると思っているのなら間違いだ。

リーナには何度も会っていて良く知っているのに加え、自分までここにいるのだ。

リーナ様の騎士である自分まで一緒にいるとなると否定のしようがない。

ならば戦うしかないか。


そんなディンブルの様子には気づく事なく、トキトはクローゼットに向かって呼びかけた。

「リン、出ておいで」

やむなくリーナが動こうとするのよりも早く、反対側の扉が大きく開き、クローゼットから出て来たのはレーシェルだった。


レーシェルは扉から一歩進み出る時に、躓いて扉の前に転がった。

その反動でレーシェルが出てきた扉が全開になってしまったが、ナガルの位置からは、閉まっているもう一方の扉の陰にいるリーナは見えていない。


「リン、何やってんだ」

「ごめんなさい。…トキトさん」

リンに成りきったレーシェルはそう言いながら立ち上がり、スカートの裾をはたきながらクローゼットの扉を閉め、俯きながらトキトの横まで移動した。


トキトは嬉しかった。

何も言わなくてもレーシェルが自分の意図を汲んでくれたからだ。

だが、まだ気を抜く事は出来ない。


「妻のリンだ。俺達は二人でここで休んでいただけだ。お前達が剣を持っているのが見えたから、妻だけそこに隠れさせたんだ」

言いつつトキトはレーシェルの肩を抱いた。

レーシェルがトキトに身体を預けてくる。

その動きはまさしく夫を信頼する妻のそれだ。


「顔を見せろ」

だが、ナガルの厳しい眼つきは変わらない。

トキトが優しくレーシェルの肩に手をかけ一歩退くと、レーシェルは控えめに顔を上げていった。

サルヌイの店で服を替えるだけでなく髪を染め軽く化粧もした事が幸いして、レーシェルは年齢より大人びて見えるようになっている。

若い妻としてなら充分通用するだろう。


ナガルはレーシェルの顔をまじまじと見つめると、後ろの男に問いかけた。

「ギルブレン、お前の見たのはこの女か?」

ギルブレンと言われた男がナガルの後方から進み出る。

「はっきりとは断言できませんが、恐らくこの者の隣にいたのはこの女かと思います。ですが、ディンブルと、あともう一人女がいました」


クローゼットの中のリーナとディンブルに再び緊張が走った。

トキトも内心そこまで細かく見られていたのかと苦々しく思ったが動揺は見せないように注意する。


「男、お前、この家の前でここに住んでいる男と高貴そうな女に会わなかったか?」

ナガルは一応質問の形態で尋ねてはいるが、これは断定だ。

会ったはずだと言っているのだ。


「ああ、会った。ここはあの男の家なのか?それは知らなかった」

トキトはすっとぼけた。


「男はここで女を探していたのだ。それで、女もいたのか?」

「ああ、すぐそこで俺達はその女とぶつかったんだ。そうしたらどこから現れたのか知らないが急に男が現れて、女をどこかへ連れて行ってしまった。まあ、一応謝られたから文句もないんだけどな」

咄嗟に作った話にしてはうまく話せたのではないか、とトキトが思っていると、ナガルは後ろのギルブレンと何やら小声で話し始めた。

どうやら何かを確認しているようだ。


そしてトキトの事を振り返り、聞いてきた。

「で、その二人はどこへ行った?」


トキトはすぐに答えた。

「街道をファロンデルムの方へ行った様だが、行き先は知らない。俺達はあの後ちょうどいい空き家があると思ってここで休んでいただけだし、そもそもここがあの男の家だなんて知らなかったしな。あんたらこそ何者なんだ?そんなことまで知っているなんて」


ナガルはトキトの問かけには答えず、ギルブレンに他の部屋を確認するよう言いつけた。

それを受け、ギルブレンがすぐにこの部屋から出て行く。


「あの男はファフスデール家の次男ディンブル。そして女の方はおそらく前王の第三王女リーナだ。お前たち風の民には興味のない事かもしれないが、リーナはエルファールの王位継承問題の解決のために捕えなければならない女だ。隠すとためにならないぞ」

ナガルが怖い顔を作って脅して来る。


それを無視する様にトキトは平然と答えた。

「別に何も隠していない」

「ならいいがな」


しばらくするとギルブレンが降りて来てナガルに言った。

「上にはディンブルが潜んでいた形跡はありましたが、人は誰もいませんでした」


「潜んでいた? ここはそいつの家じゃないのか?」

トキトが知らなかった体で聞く。

レーシェルの緊張が握った手から伝わってくる。


「いいや、ディンブルはリーナを探すためにここに潜んでいたのさ。そして出て行ったのならリーナを見つけたという事」

ナガルが話している間にギルブレンがトキトのいる方へ近づいてくる。

ギルブレンは部屋の探索をまだ止めていなかったのだ。


「後はそのクローゼットの中だけです」

剣に添えていたトキトの手に力が入る。


「そこは良いだろう。そこの女が出てきたときに中が見えた」

ナガルの言葉でギルブレンは引き下がった。


「邪魔したな」

ナガルはトキトにそう言うと、ギルブレンに、行くぞ、と一声かけて家から出て行った。

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