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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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分岐点の古民家

古民家は、元々は空き家だったらしく、あまり人の住んでいる気配はしなかった。

かろうじて街道に面した二階の窓が開いている事が、人がここにいるという事を示している。


ディンブルは、屋敷に入るとそのまま玄関を抜けて居間の中へと入っていった。

居間には立派なテーブルが置いてあるのだが、使用した形跡は感じられない。

恐らくディンブルは、ずっと二階の窓から街道を覗いていたものと思われる。

居間でくつろぐ事など無かったのではないだろうか。


居間に入ると、三人はディンブルと向き合うように席に着いた。

そして、全員が席に着くと、リーナが今までの経緯を語り始めた。

リーナがベルリアス王に会い、自らに反意のない事を分かってもらおうとしている事、そしてそれができるまで閃界人のトキトに守ってもらっている事、道中風の民にも助けてもらい、見つかりにくいようにと髪を染めトキトと夫婦の体にしてもらった事、ルーが怪我をして風の民の所で匿ってもらっている事等、一気に話す。


リーナが一通り話し終えると、今度はディンブルが話し始めた。

リーナに自分がこれまでどうしていたかを報告しようという事の様だ。

それによると、ディンブルはリーナをエルファール城から逃がした後、コルノザラウへと向かったという事だった。

ディンブルはリーナがディザルを頼っていくだろうと考えたのだそうだ。

しかし、コルノザラウに行ってもリーナはいなかった。

そうなると他に探す当てはなく、あちこち歩き回るよりはコルノザラウに向かう街道沿いで待っていた方がよいだろう、と、この空家を見つけてからはずっとここに潜んでリーナが通りかかるのをひたすら待っていたのだそうだ。


「それにしてもリーナ様、ご無事で何よりです。私は、リーナ様は絶対に捕まらないと信じておりました。またお会いできて本当にうれしく思います」

ディンブルは泣いてはいないものの本当にうれしそうで、崇めるようにリーナの事を見つめている。


「ディンブルも無事でよかった。ルーも怪我はしていますが元気です」

「それはよかった。ルーの事も気になっていたのです」

「みんなトキトさん達のおかげです。ディゴラに襲われていた所を助けられた所から始まり今に至るまでお世話になりっぱなしです」


すると、ディンブルはトキトに向き直って頭を下げた。

「先程は本当に申し訳なかった。リーナ様を見つけた瞬間に自分が守らなければという思いばかりが先走って、我ながら冷静な判断ができなくなっていたようだ。冷静に考えればリーナ様を護送するなら馬車を使うだろうし、護衛も大勢付けているのが普通だった」


リーナに対する時とは違ってだいぶ上から目線なのは、どこぞの有力貴族のご子息なら仕方がない事なのかもしれない、とは思いつつ、しかし、こちらが謙る必要もない、とも思うので、普通にタメ口で話す事にする。

「まあ、それは良いよ」


ディンブルの眉がピクリと動いた。

トキトは何も気づかない風を装って続けた。

「だけど、あんな所でリーナの名前を呼んだのは迂闊だった。たまたま人通りが少なかったから良かったものの幹線の街道上だぞ。誰が聞いているかわからない」


「貴様! リーナ様を呼び捨てにするとは何事だ」

いきり立つディンブルを、リーナが諌める。


「ディンブル、いいのです。トキトさん達はみんな私をリーナと呼んでくれますが、それがかえって心地いいのです。ひょっとしたら、もともと私は王女など柄ではなかったのかもしれません」

ディンブルはまだ何か言いたそうにしていたが、リーナがいいと言った為、それ以上は何も言えないでいる。


その間にトキトは続けた。

「そんな事より、リーナの所在が分かるとまずいって言ってるんだ。分からないのか」

「そんな事だと…」

「そんな事だろうが! リーナをどう呼ぼうがリーナは死なないが、リーナが捕まればリーナは殺されるんじゃないのか」

「ぐ、ぐぅ……」

ディンブルにもそんなことは分かっていた。

しかし、ディンブルは自分のいない間にリーナと親しくなっているトキトを不快に思わずにはいられなかったのだ。


だが、リーナの命に比べれば自分の思いなど軽いものだ、そう思う事でディンブルは冷静になれた。

「確かに、トキトの言うとおりだった。リーナ様を見つけた嬉しさでつい我を忘れてしまっていたようだ。申し訳ない」

ディンブルはテーブルに両手をつけ頭がテーブルにぶつかるのではないかというほど深く頭を下げた。


「いや、俺に謝られても困る。大事なのはリーナが無事でいる事だ。ディンブルもそう思っているんだろう?」

「ああ、そうだ。そのためなら命も懸ける事ができる」

「ならば、リーナを王様に合わせる事に協力してくれると思っていいんだよな」

「もちろんだ」


ディンブルは即答したが、トキトはリーナの顔を伺った。

信じていいかどうか確認したかったのだ。


リーナはトキトの聞きたい事を察して大きく頷いた。

「ディンブルは私に剣を捧げてくれたただ一人の騎士です。エルファールから脱出するときもルーとともに命を懸けて戦ってくれました。ルーとディンブルは私にとって大切な人なんです。たとえ二人に裏切られてその結果殺されることになっても私は二人を恨むことはありません」


リーナの言葉を受け、トキトが反応するよりも早く、ディンブルはリーナに言った。

「私は誓ってリーナ様を裏切るようなことはありません。それを証明するために私はリーナ様に剣を捧げたのです」

ディンブルのリーナを見つめる目は真剣そのものだ。


「俺にはそんな習慣などないから剣を捧げるかどうかなんて言う事はどうでもいい。ディンブルが信じられる男だとリーナが言うのであれば俺はそれを信じるだけだ」

「もちろん、ディンブルは信じられる人です。トキトさんも信じてください」

リーナは迷いなく言い切った。ならば信じていいのだろう。

「わかった。信じるよ」


トキトが言うと、今度はディンブルがリーナに聞いた。

「リーナ様、私にもこの者達は信じられる者だと、お言葉を下さい」

ディンブルはここまでのやり取りからトキト達に対する不信感はもうだいぶ消えていたのだが、リーナの言葉によって確実なものにしたかった。

これから力を合わせるにはそれが必要だと思ったのだ。


「はい、トキトさんも信じられる人です。ディンブルも信じてください」

それを聞いたディンブルはトキトに右手を差し出し、二人は手を固く握り合った。

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