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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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捜索

少しして、辺りはだいぶ薄暗くなってきた。


「まずいな。だいぶ暗くなってきた」

急に森に入ることにした為、捜索の準備は整っていない。

したがってランプのような物も今ここにはない。

という事は、このまま日が完全に沈んでしまったら、身動きが取れなくなってしまう可能性が高いという事になる。


「イチハ、見つからないけど、どうする?」

シオリもだいぶ焦っているように見える。

しかし、イチハの姿は依然として見当たらない。

相変わらず何となく気配のようなものは感じるのだが、目に入ってくるのはこの辺り特有の針葉樹の森だけだ。


「シオリ、こっちに来て。手をつなごう」

「なっ、何言ってるの。こんな時にふざけないで」

「暗くなると何も見えなくなる。俺たちがはぐれたらもっと厄介なことになってしまうだろ」

納得したのかどうかはわからないが、シオリが近づいて来る気配がある。

が、シオリはある程度近づいた所で止まったようだった。

どうやらトキトの事を睨んでいるらしい。


「言っていることは分かったけど、言い方が気に入らない。はぐれたら私厄介になるの?」

トキトは大きくため息をついて、シオリのいる方を向いた。

「違うよ。ここではぐれたらどっちがイチハを見つけてももう一人探さなきゃいけなくなると思わない?そうなるよりは一緒にいた方がいいでしょ、ねっ、ほら、俺はシオリ好みのいい男じゃないかもしれないけど……この際我慢して」


シオリはまだ何か少し言いたそうにしていたが、結局はそれを飲み込み、ふんっ、と右手を差し出した。

トキトはトキトで言いかけた言葉を飲み込んで、黙ってシオリの手を握ると、その手を引いて歩き出す。

シオリの手を握った時、意図せずドキドキしてしまった事は内緒だ。


刻々と暗くなっていく森の中を、奥へ奥へと進んでいく。

レンの血の効果が切れたのだろうか、トキトは久しぶりに本格的にお腹が空いてきたような気がした。

そういえばそろそろ夕食の時間になるはずだ。

前に食べたディゴラの肉はうまかった。

俺達の倒したディゴラの肉、街の人達はちゃんと確保しておいてくれてるかな、などというしょうもない考えが浮かんでくる。

しかし、良く考えればイチハも自分達と同じ状況のはずなのだ。

だとすると、イチハもお腹を空かせていてもおかしくない。


しばらく無言で森を進んでいくと、少しだけ開けた場所に出た。

もうだいぶ暗くなっているので良くは見えないのだが、何やら大きな岩が何個か転がっていて、その所為かその辺りにだけ木が生えていないように見える。

その開けた空間の一番手前の一角には、腰の高さほどの丸い石が転がっている。


「シオリ、イチハの気配感じない?」

問いかけても、シオリの反応は返ってこない。


「シオリ、どうした?」

トキトは視線を前に向けたまま、今度はシオリの手を強く握って聞いてみた。

すると、その力に反応したのか、シオリはビクッと体を震わせた。

「なっ、何? あっ、ごめん。なんでもない」


妙な反応を返されてしまったトキトは、さすがに今度はシオリの事を振り返ってみたのだが、辺りがもうだいぶ暗くなっていた所為で、その表情までは良く分からなかった。


「どうした? イチハの気配でもしたか?」

なので、トキトがシオリの表情を確認するべく顔を近づけていくと、シオリは何やら慌てているように見える。

どうしたのだろう、そう思ってトキトがさらに顔を近づけるべく、シオリの手をぐっと引き寄せようとしたその時、がさっ、という何かが動く音がトキトの後方でした。


慌てて振り返るが、あたりは暗さを増していて、何も見えない。

気を張って耳をよく澄ませていると。

ガサッ

今度は正面の木の上の方から音がした。


緊張を崩さないように神経を研ぎ澄ましていく。

トキトは左手でシオリの手を引いて、自分の後ろに隠すように持って行くと、右手でそっと剣を抜き、構えた。

もうすっかり暗くなった正面の森をじっと見つめる。


そんなトキトの耳にシオリの声が届いてくる。

「なに、あれ」

シオリはどこか指差しているのかもしれないが、暗くてどこを指しているのか良く分からない。


少しきょろきょろしてみると、トキトは右手の森に淡く緑色に光る玉のようなものを見つけた。

しかも、その中にかすかに人影のようなものも見えたような気がする。

しかしそれを確認するよりも早く、その光はトキト達のいる方向とは反対の方向に動きだし、そのまますーっと消えていった。


「まさか、幽霊じゃないわよね」

繋いでいる手を通してシオリの震えが伝わってくる。

しかし、トキトにはあの光が特に邪悪なもののようには思えなかった。


「大丈夫。幽霊なんかじゃないよ」

トキトがぐっと手を握ると、シオリもぐっと握り返す事でそれに答えた。

「…早く探さないと、イチハ、きっと寂しがっているわ」

シオリが気持ちを切り替えたのがわかる。


「分かってる」

あの緑の光を追うべきだろうか、一瞬そんな考えが浮かんだトキトだったが、良く考えると、暗闇でやみくもに歩き回るのは危険なので、その考えは却下する事にする。


考えたくはないが、このままイチハが見つからず、森の中で一夜を明かす事になるのなら、月明かりの届くこの場所は、意外に適した場所といえるのかもしれない。

ここで朝を待つべきだろうか、そんな事を考えながら、トキトは岩の一つに近づいて行った。


岩は星明りでやっと見える程度なのだが、岩の場所は何とかわかる。

その岩に触れるくらいの所まで近づいたトキトは、その岩の上辺りに微かに何かの気配がある事に気が付いた。


「ちっ、何かいる。イチハを追ってきたのは早計だったかも。真っ暗じゃ対応しようがない。せめてもう少し準備くらいはすべきだった」

このトキトの声は決して大きなものではなかったのだが、シオリには十分聞こえたはずだった。

しかし、シオリは何かを伺っているようで何の反応も返してこない。


トキトはイチハの事ももちろん気になっていたのだが、シオリを窮地に陥れる様な真似もするつもりはなかった。

「シオリ、ごめん。俺の判断ミスだ。やはり安易に森に入るべきではなかった。何か出てきたらできるだけ俺が引きつけるから、シオリはその間にどこか安全な場所を見つけて逃げてくれ」

トキトにそう言われても、相変わらずシオリは何も答えない。

しかし、手は握ったままなのでシオリがすぐそこにいる事も間違いない。


「シオリ…?」

恐る恐るトキトが聞くと、ようやく反応が返ってくる。

「しっ! やっぱり何かいるみたいよ。ほらっ、そこの岩の上!」

その意外に厳しい口調に促され、トキトも目を凝らして見てみるが、残念ながら良く見えない。

と言うより、シオリが指差す方向すらわからない。


「ねえ、リーナから習った魔法を応用すれば、光を出すことくらいできるんじゃない? ちょっと手を離してくれない? やってみるから」

シオリはシオリの手を握っていたトキトの手の甲に軽く触れる事で手を離すようにと促すと、トキトの手からそっと抜け出した。

そして、何やらぶつぶつと唱え始める。


トキトがしばらく様子をうかがっていると、シオリの目の前にゆっくりと白い光が浮かび上がってくるのがわかった。

シオリは両手を顔の前に突出し、バレーボールを両手で掴んだ時のように手のひらを内に向けて集中している。

その両手の間が白い光を放っている。


少しするとその光は安定し、身の回り程度を照らすことができる明るさとなった。

「すごいよ、シオリ。魔法、使えるじゃない」


シオリは少しだけ自慢げな表情を見せたものの、すぐにその表情を消して叫んだ。

「トキト、そこ見て、誰かいる!」


トキトが岩を見上げると、確かに岩の上に誰かが横たわっているように見える。

シオリがその岩の上を照らせるように両手を動かすと、横たわっていた人の顔がはっきりと確認できた。


「イチハ!」

トキトは岩に駆け上がるとすぐにイチハを抱き上げた。

イチハはぐったりとしているものの、怪我などはしていない様に見える。

イチハを見つけた瞬間、シオリの手の中の白い光が一瞬消えて真っ暗になったが、すぐにまた光り始め、イチハの顔を照らし出した。


「ごめん。ちょっと動揺した」

シオリは両手を前にかざしたまま足だけで岩を登ってきて、その両手を倒れているイチハの真上まで持ってきた。

イチハを照らすには十分すぎるほどの光がイチハの身体を包み込む。


「意識はないけど、息もしてるし、大丈夫…みたいだな」

トキトはイチハの口元に耳を近づけ、呼吸をしていることを確かめた。

イチハの表情は、まるで昼寝でもしているかのように穏やかだ。


「よかった。でも、何でこんな所に…」

「わからない。それより、早く帰らなきゃ。シオリ、その光、どのくらい続けられそう?」

トキトは魔法を使ったことがないので、シオリにどのくらいの負荷がかかっているのか、よくわからなかった。

が、夜の森は光が無ければ動けない。


「まだしばらくはいけそう。ここで野宿するより行っちゃった方がいいと思うわ。この森にはまだ何かいるかもしれないし、ここにいて囲まれたらお終いなんじゃないかな」


確かに、ここで一晩過ごすには、現状、装備も足りていない。

それにイチハは早い所、宿で寝かせてあげた方がいい。

イチハに何があったのかはわからないが、何もなくてディゴラと戦っていたはずの彼女が森の奥に寝かされている訳がないのだ。


「よし、戻ろう。イチハは俺が背負っていく。シオリはその光を続けて」

「わかった。気を付けて行ってね」

トキトはその場でイチハを背中に乗せると、慎重に岩を降り始めた。

シオリは転ばないようにトキトの足元を照らしてくれている。


そして、丸い珠のような石の先から元来た道をたどって森の中へと入って行く。

その時トキトは一瞬緑色の光が瞬くのを見たような気がしたのだが、目を擦って見直しても何も見えなかったので、見間違いだと思い気にしなかった。

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