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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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トールの街

門番の言っていたとおりに歩いていくと、すぐに宿屋は見つかった

宿屋は二建ての木造の建物で、見た感じ特別大きな家だという訳ではないのだが、それでも周りの家と比べると一回り大きな建物だった。


正面に三段ほどの階段がありそこを登ったところに入口がある。

入口を入ると右側にカウンターのようなものがあるのだが、そこには誰もいなかった。


「すいませーん。どなたかいらっしゃいませんかー」

トキトが奥に向かって呼びかけても、返事はなかなか返って来ない。

どうしようか、としばらくシオリと顔を見合わせていると、ようやく奥の方から壮年の男が姿を現した。

この男がこの宿の主なのだろうか。

髪の色は少し赤みのかかったブラウンで、がっしりとした筋肉質の体つきの、頼りがいのありそうな男だ。


「すまんな、今うちのは畑に出ていてね。えーと、ベッドは一つでいいかい?それとも二つあった方がいいかな」

シオリが何を言っているのか一瞬理解が及んでいないその隙に、トキトは手を大きく広げ、シオリが何か言い出す前に言った。

シオリの顔が次第に赤くなってくるのがわかる。


「すいません、こいつとは夫婦じゃありませんし、後から仲間も来るので部屋は三つほど用意してほしいのですが、でも、その前に少しお聞きしたいことがあるんです」

こいつと呼んだ時に反応したシオリが何か言おうとしているのがわかったが、トキトは手に力を入れてそれを制した。


「ああ、これはどうもすみません。お似合いのカップルに見えたもので」

男の一言でシオリが更に身構える。

余計な事は言わないでもらいたい、と思いつつ、トキトがシオリを窺うと、シオリは今にも噛みつきそうな表情を見せてはいるものの、まだ何とか黙っている。


「私のわかることなら何でもお答えさせていただきますが、……。何ですか?」

目に入っていないのか、無視しているのかはわからないが、男はシオリの様子など気にせずに平然としている。

トキトはシオリに話をさせないよう、すぐに言葉を返した。


「ここに来るまでの間、あまり人を見かけませんでしたが、最近ここに来る人は少ないのですか?」

「ああ、もともと少なかったんだが、ここ三か月はほとんど皆無だ」

男もすぐに返事をしてきた事で、話題はうまく切りかえられ、トキトはようやくホッとした。

シオリがあいかわらず何か言いたそうにしているのが目の端に見えているのだが、それは見なかった事にする。


「三か月と言うとやはり王位継承問題ですか?」

「そうさ、先王が亡くなって以降、宿はがら空きでね。三部屋と言わず五部屋でも六部屋でも使ってほしいくらいさ」

「ここには何部屋あるんですか?」

「六部屋だよ」

それじゃあ全部じゃないか、とトキトは心の中で突っ込みを入れるが、同時に、という事は今は誰も泊まっていないんだなと認識する。


「まあ、お客が来なくたって、うちは基本自給自足だから何とか生きてはいけるんだけどね」

カウンターの上には宿泊台帳のようなものが置いてあるのだが、確かにほとんど何も書かれていないように見える。


トキトはさらに聞いてみた。

「ここにはエルファールの国軍が来たりはしないんですか?」

シオリもようやく落ち着いたようで、睨むのを止め、男の話を聞き始めている。


「今まで三回ほど来たかな。でもすぐに帰っちまうよ。この街は調べようと思えばすぐに調べ終わるからな。朝五人くらいでやってきてあちこち聞き込みしたと思ったら昼過ぎには帰っちまう。まあ、こんな辺境に王族なんて来るわけないから分かるけど、あれは、決まりだから調べているだけっていう感じだな」

男はそう言って大きく一つ息をはいた。


「街中が物々しいわけでもないし、それならお客さんは戻ってきてもいいんじゃないですか?」

「いやいや、まだ残っている王族がいるらしいからね。その所為で国内は乱れているから街と街を行き来するだけでも大変なんだ。こんな時に、こんな辺境まで来る奴なんて滅多にいないよ。あれ、そういやあんた達は何処から来たんだい。最近ラウトノの街の向こうには盗賊団かなにかのアジトができたっていう噂もあるんだが…」


男は一瞬トキトに鋭い視線を送ったが、すぐに元の穏やかな眼差しに戻して続けた。

「まあ、いい。余計な詮索はしないよ。この宿ではお客さんのプライバシーは尊重しているんだ」

男の纏う空気に怪しいものは見られない、トキトはむしろ優しい空気を感じた。


「で、泊まるのかい。泊まらないのかい」

「後から三人来るから計五人、お願いしたいです。部屋は三つお願いします。それから、この宿は犬を部屋の中に入れても大丈夫ですか?大丈夫なら一匹お願いします」

全く同じ種なのかどうかまでは分からないが、この世界にも犬がいる事は聞いていた。

リーナもルーもパムを見て驚かなかったのは犬が身近な存在だったからだ。

ならば宿に泊める事も可能と見て聞いてみたのだが、それは正しい判断のようだった。

「何かあった時責任を取ってくれるのなら構わないよ。食事を出すのならその分のお金はもらうけどね」


「それで構わない。お金はこれでいいかな?」

トキトはレンの所から持ってきた金貨を一枚腰の袋から出すと、主に手渡した。

金貨には黄色い宝石がいくつか埋め込まれている。


男は金貨を渡されると目の前にかざすようにしてよく見ていたので、トキトが使えないのかもしれないと少し不安に思っていると、男は金貨に向けていた目をトキトに戻して言った。

「何か月泊まっていくつもりなんだい?」

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