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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第2章 エルファールの第三王女
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はじめての街

その後すぐに、遠くにトールの街の門を望む事の出来る場所までたどり着いた。

この先は森から出て西から来ている街道に入り、そのまま少し北に行けばトールの南門へと至る。


人々の行き来が活発な内陸部や貿易の盛んな沿岸部の都市などは、門を通るのに身分証を見せなければ入れない場所もあるようなのだが、トールではそんな事はしていないらしい。

もともと訪れる人の数が少ないのだそうだ。


街道と合流する少し前の森の中にイチハ達を残し、トキトはシオリと共に街道に出た。

別れ際、シオリがイチハにリーナ達を頼むね、と念を押したのが功を奏したのかイチハは張り切ってリーナの横に張り付いている。

イチハ達の事は心配だが、パムもいるので大丈夫だろう。

何か良くない兆候があればきっとパムが教えてくれるはずだ、と、トキトはなぜだか確信していた。


トールの街はその全体が壁で囲まれている。

といっても、その壁は木で作られており、高さも人の背丈の倍くらいの高さでしかない。

周囲の野獣がむやみに街に入らないようにしてある、という感じの造りだ。

その壁の中央付近に小さな門が開いている。

それがトールの南門だ。


「結構立派な門みたいね」

確かに、周りの壁と比べると、目の前の門の方が数段頑丈に造られているように見える。

しかし、その立派な門も無造作に全開にしたままなので、あまり街への出入りに気を配っているようには思えない。


「門の手前に誰かいるみたい、ちょっと緊張するわね」

街道に入ってからもここに来るまで誰ともすれ違わなかったので、門の前にいる人はリーナ達を除けばこの世界で初めて会う人という事になる。

シオリが緊張するのも無理はない。

いきなり剣を突きつけられたらどうしよう、等と少々びくびくしながら南門へと差し掛かると、其処に居た門番と思しき男が、にこにこしながら近づいてきた。


その男は結構がっちりした体格の男で、右手には長い槍を持っていたのだが、その槍に敵意はなく穂先は地面を向いている。

顔は身体つきからは想像できないくらい柔和な顔をしており、髪は濃いめの赤色をしている。


「どこから来たのですか?」

「ラウトノから来ました」

トキトはルーと相談してあらかじめ決めていた答えを返した。


「こんな辺境の地にやってくるなんてあんた達変わってるね。いや、そんな恰好をしているところを見るとあんた達もしかして魔物猟師(ハンター)かい。……。いや、そんなわけないか。二人ともまだ若いみたいだし…。あっ、ひょっとして結婚祝いの旅行か何かかい? それなら…」

「違います! 誰がこんな男となんて…」


シオリが真っ赤になって怒っている。

門番の矢継ぎ早の話にどう切り出そうかと困っていた所だったので、シオリが強引に割り込んでくれたのは良かったのだが、それでもトキトからするとそんなに否定しなくてもいいだろう、とも言いたくなってくる。

少し恨めしい目でシオリを見るが、シオリは腕を組みをしてそっぽを向いている。


「ひょっとして、風の民? 黒い髪に黒い瞳、うん、確か前に聞いた風の民の特徴と一致するな。へー、うわさには聞いていたけど見るのは初めてだよ。うわー、今日が当番の日でよかったー」

「門番ご苦労さんです。私たちは、エルファールの東の端がどうなっているのか見てみたいと思い旅してきました」


風の民は各国を自由に渡り歩く流浪の民で、外見は黒髪、黒い瞳、肌は薄い橙色つまり日本人がよく言う肌色、と、トキト達の外見に一致する。

それに、彼等の中にはこの世界の理を解き明かそうと各国を巡っている者や傭兵をしながら諸国を巡っている者もいるという。

もともとこの辺りではトキトやシオリのようにの鎧に刀の外見で歩いていてもあまり違和感はないらしいのだが、風の民だと言っておけばより納得されやすい、というのがリーナとルーの見解だった。


「あーそう。あんた達、やっぱり風の民なんだ」

別にそうは言っていないのだが、門番は勝手に風の民だと思い込んでくれたようなので、トキトはそのまま放っておく事にした。

ルーの読み通りの対応だ。


しかし、もうこれ以上は突っ込まれたくないので、トキトは流れに乗った体で話題を変えるよう試みた。

「その辺では誰ともすれ違いませんでしたけど、この辺りは街道に人が少ないんですね。」

まずは世間話から入るのがいいだろう、と、思ったことを口にする。


門番はそれに乗って来た。

「ああ、それでも少し前までは、日に何人かは来てたんだけどね、こんな辺ぴな所でもたまに魔力石が取れることがあるからさ、といっても大して力のあるものじゃないんだけどね。それでもそれ目当てのハンターや商人がたまに来たりしていたんだ。そう、前に一度あんたらみたいな風の民が来たことだってあったらしいぜ。その時は俺はラウトノにいたから会ってないけどな。けど、ほら、三か月いやもう四か月前になるか、ファン国王が亡くなっただろ、その後は、ほれ、王位継承騒ぎさ。こんな辺境じゃ誰が王様になっても変わらないんだけど、ご存じのとおり国内は今大荒れでさ。新しい国王はベルリアス様に決まったけど、いまだに王族の何人かは逃げ回っているらしくて、北や西の国境付近にはたくさん兵を出しているっていう噂でさ。だからわざわざ東の果てのこんな辺ぴな街まで来る人はほとんどいないのさ。あんたら、ラウトノから来たんだろ、あっちはけっこう大変だったんじゃないの?」


話を変える事が出来た事は良かったのだが、滅多に来ない話し相手に興奮した為か、一気にまくし立てる門番の勢いに、トキトは少したじろいだ。

「いや…、そうだね、確かにここよりは賑やかだったような…」

それでも適当に話を合わせようとするのだが、言葉はうまく出てこない。

しかし門番は勝手に話を続けてくれた。


「そりゃ、ここより賑やかじゃない所なんて探すのが大変だよ。そんな場所はこの先のラフィの村くらいかじゃないかな。いや、あそこに住んでいる人はみんなどっかへ行ってしまったらしいから今は村は無くなっちゃたんだっけ…。けど、この街は来る人が少なくても一応はそれなりの街だからね、ここで暮らす人もそれなりにたくさんいるんだよ。ここの住民がよその街に行く事はほとんどないんだけどね。それでも、この街では自給自足が原則だから大丈夫なんだ。この街は成り立ちの時からいろいろあった街だからね、あまり他の街とは交流しちゃいけないんだ。だから、基本的にこの街の人は街の中でできるだけつつましく暮らしているのさ。成り立ちっていうのはさ…」


「あの…、この町に宿はありますか?」

ここで、更に話が長くなりそうな雰囲気を察したシオリが強引に口を挟んで聞いた。


トキトとしては、ついでにこの街の有力者の情報も聞きたい所ではあったのだが、宿で聞こうと思い直して黙ることにした。

ここであまり長く時間を取られてしまっては、宿も決まらないし、何よりも中に来ても大丈夫か確かめないうちにリーナ達が来てしまう事にもなりかねない。

それでは、二人だけ先に来た意味がなくなってしまう、と考えたのだ。


「宿屋?それなら…。まず、この門を入ってまっすぐ行くと中央に館があって行き止まりになっているんだ。ほら、あそこ、見えるだろう?」

門番の指さす先に目をやると、二百メートル位先に大きな屋敷のような建物があるのが見て取れる。

「そこを右に曲がってまっすぐ行って、二本目の角を左に曲がって五軒目の右手にある二階建ての少し大きめの建物がそうさ」


門番の男はまだ何か話したりなそうなそぶりを見せていたが、二人がそれを振り切るように門の中へと入っていくと、諦めたのか元の場所へ戻っていった。


門を入るとそこには畑が広がっていた。

何やら野菜や豆のようなものを作っているような畑が続くが、それとは別に奥の方には実がなっている低い木が生えている場所もある。

畑の間を真っ直ぐ行くと、少しして民家の数が増え始め、門番が館と言っていた少し大きめの屋敷の周りは集落になっていた。

家は決して大きいとはいえないものの、しっかりとした造りの家の集落だ。


その館の前まで来ると、館が思ったよりも頑丈に出来ている事がわかってくる。

目の前に流れている小川を橋で渡って屋敷に入るようなつくりになっていて、小さい割に立派な門もついている。

屋敷を囲んでいる壁も、よく見ると木の壁の向こう側に石造りの壁が見えている場所がある。

どうやら二重構造になっているらしい。

四隅には小さな物見台のようなものが設けられ、いざという時にはちょっとした城としても機能するように出来ている。

恐らくここがこの街一番の実力者の住む家なのだろう。


館の近くまで来ると、さすがに何人かの人達とすれ違うようになった。

総じて赤っぽい髪と瞳の人が多いようだが、それ以外の見た目は自分達とあまり変わらないように見える。

さっきの門番のようにやたらと長い話に巻き込まれても困るので、こちらからは何も話しかけずに通り過ぎるようにしたのが、すれ違った人達も特にこちらに向かって話しかけてくるような事はなかった。

かといって特に警戒されている様でもなさそうで、中には軽く微笑んでくれる人もいる。


「みんなが話好きっていう訳ではないみたいね」

すれ違った人達が、会釈だけして通り過ぎて行くのを見て、ほっとしたようにシオリが言う。

トキトもそれに同意した。

「ほんと、こっちにしゃべらせてくれない人だったよな、あの門番。でも、おかげでいろいろな事がわかった」


「もう少し聞いて回ってからでないとはっきりとは言えないけど、リーナ達も来ても大丈夫そうなんじゃない? 少なくとも国軍の追手は来ていないみたいだし」

「そうだね。この感じだと大丈夫そうかな。特に物々しい雰囲気もないしね。このまま宿屋まで行っちゃおうか。あとは宿屋の人に聞けばいいんじゃない。他に誰に聞けばいいかよくわからないしさ」


この規模の街では、酒場等というものがあるかどうかはわからない。

かと言っていきなり館を訪ねるというのもどうかと思える。

あの館にこの街の実力者がいる事は間違いないのだろうが、それが、王女の祖先なのかどうかはまだわからない。

逆に国軍とつながりのある人が住んでいる可能性だって考えられるのだ。

それならまだ宿屋の主から情報を聞いた方がいいともいえる。


「……。ところでさ、俺達、兄妹っていう事にしないか?」

少し落ち着いた所で、トキトはシオリに提案した。

門番とのやり取りの後、密かに考えていたトキトなりの妙案だ。

トキトの唐突な提案に、シオリは怪訝な顔をして、トキト事を見つめてくる。


トキトは慌てて言葉を付け足した。

「だってさ、ほら、さっきみたいに夫婦に思われていちいち否定するのも面倒くさいし、あまり強烈に否定されると結構へこむんだよな。いや、別にシオリとどうこうなりたいわけじゃないから怒らないで……。でもさ、兄妹って言っとけばそれ以上突っ込んで聞いてこないだろうし。ほら、一応俺の方が年上だから兄っていう事でさ」


「いやよ! ……。なんでトキトの事をお兄ちゃんなんて言わなけりゃならないのよ」

最初少し考えるそぶりを見せていたシオリは、トキトの話を聞いているうちに顔色を変え、すぐに強く否定してきた。


「いや、別にお兄ちゃんと呼ばなくてもいいんじゃないかな……」

「もう、余計なこと考えてないで! さあ、行くわよ」

この話はもうお仕舞い、とばかりに強引に話を打ち切ったシオリは、ずんずん先へと行ってしまう。


「何で怒るんだ? そんなに悪いことかな…」

トキトは小声で呟き、すぐにその後を追いかける。


シオリは少し後ろを伺うような仕草を見せたようにも見えたのだが、トキトが追いついた時には知らん顔をしてただ前だけを見つめていた。

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