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ネクストワールド・ワンダラー  作者: 竹野 東西
第3章 風の里
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激昂

登ってくるクミを下に見ながら、エイゴがクウヤの隣に寄せてくる。

「本当、クミはやばかったんだぞ。そこにいるトキトに助けられたから何とか無事に済んだけど、トキトがいなけりゃクミは今頃殺されてたか、良くて捕まってたところだ。奴らは俺達を奴隷にするつもりらしいからな、捕まってたら死ぬより辛い目にあわされていたかもしれない。トキトには礼を言っておくんだな」

クウヤが慌てて振り返るとトキトはシオリを宥めている。

しかし、シオリにやり込められるその姿は、大して強そうには見えないものだ。


そうこうしている間に今度はクミが追いついてくる。

「あれ、クウヤ。来ていたのですか」

この時クウヤはトキトを見たまま固まっていた。

その視線の先にはシオリに噛みつかれているトキト。

どうやら宥める事には失敗したようだ。


「どうしたんです?」

クウヤの視線の先にシオリがいた為、クミはクウヤがシオリを見ていると勘違いした。

「あっ、わかりました。シオリさんですね。彼女、きれいですからね。でも、彼女には手を出したらダメ…」

「クミ! お前、大丈夫なのか?」

クミは話の途中で突然言われたため、クウヤが何の事を言っているのか一瞬わからなかった。


ポカンとしているクミにクウヤが畳み掛ける。

「怪我はないか? 誰にやられた? くそっ、いったい誰が? なぜクミを狙いやがった? 何でクミが襲われなきゃならなかったんだ!」


「落ち着いてクウヤ。私は大丈夫だから」

クミはそう言ってクウヤの事を引き剥がすと、興奮するクウヤを落ち着かせるべく諭していく。

「確かに危ない所だったけど、トキトさんが助けてくれたから大丈夫。しばらく立てなかったけど、その時はエイジやエイゴおじさんが私の事を背負ってくれたし…。みんなのおかげでもうすっかり回復したわ」


確かにクミはもう一人で動ける程度には回復している。

が、当然万全の状態では無い。

クウヤはそんなクミの状態を一目で理解した。

「くそっ、何で俺はその場にいなかった! 俺は何をやっていたんだ!」


「落ち着け、クウヤ。クミは無事だったんだ。今はとにかく安全な所まで…」

エイゴが興奮したクウヤを押さえつける。


「誰だ。誰がやったんだ。知ってんだろ。教えてくれ!」

エイゴは胸ぐらを掴んできたクウヤの腕をゆっくりと引きはがした。

「ヴァルパネス軍だよ。奴らは里を奪い俺達を奴隷として使うつもりらしい。里を包囲していた軍は何とか突破できたが、奴らは第二陣、三陣と準備しているらしいからな。まずは何とかユルまで逃げ切る事が先決だ。すぐに出るぞ」


最後尾を登ってきたエイジも、動かない一行に怒りの声を上げて言う。

「何やってんだ親父! ここでぐずぐずしてたら追いつかれるぞ!」


「おお、そうだった。皆、ここは一旦森に逃げ込んでから上をめざそう。ソウゴ! 先頭を頼む」

エイゴの号令にソウゴはすぐに反応、その後にアイカ、トーゴ、サナエと続いた。

トキトもシオリを落ち着かせ、一緒に後に続こうとした所へクウヤが駆けこんでくる。


「あんたねー、まだ何か言う事があるって言うの?」

シオリがまた怒りの炎を燃やし始めるが、クウヤはそんなシオリを無視してトキトの腕を掴んだ。


「教えてくれ。クミを襲ったのは誰なんだ。知ってんだろ?」

突然、しかもあまりに血相を変えて迫まってきたクウヤの勢いに押され、トキトは気が付いたら答えていた。

「あっ、ああ。ヴァルパネスのベレツ隊…とかって言っていたな。…けど、奴らは俺がぶちのめして…って、えっ、いない?」

クウヤは最後まで聞かずに敵に向かって飛び出していた。

エイジが止めようとするのをギリギリのところですり抜けて、クウヤは斜面を下っていく。


呆然とするトキトにトーゴが戻ってきて聞いた。

「クウヤに何を言ったんだ?」

他の皆も集まってくる。

「いや、誰がクミを襲ったのかって言うから、ヴァルパネスのベレツ隊だって…」


「ちっ、あのバカがっ」

ソウゴが小さく舌打ちする。


「どうする?」

「どうするったって、放っておく訳にはいかんだろう」

エイゴが力なく言い放つ。


「ようやく逃げ切れそうかと思った所だったのにあのバカ」

エイジもそう言わずにはいられない。


エイゴはすぐに気持ちを切り替えた様だった。

すぐにサナエに指示を飛ばす。

「サナエはクミを連れてこの事を兄貴に伝えてくれ。万が一ここで皆がやられたら一族の他の者たちも危ない」


「待って。私は残ります」

クミだ。

「お前、まだ体調が万全じゃないだろう?」

「それはみんな同じでしょ。それよりこの中で援護射撃ができるのは私とシオリさんだけでしょ。私は残った方がいいはずよ」

クミの意志が固い事はその目が物語っている。

エイゴはそれを受け入れる事にした。


「わかった。トキトはどうする?」

「聞くまでもない。俺の所為でもあるからな。行くぞ、彼はもうだいぶ先まで降りている。孤立してしまうぞ」

駆け出すトキトにシオリもすぐに並びかける。


「シオリはサナエさんと一緒に…」

「ふざけないで! あいつは気に入らない奴だけど、私だけ皆の帰りを待っているのはイヤ。一緒に行くわ」

トキトとしては、本音を言えばシオリには危ない目に合って欲しくはないのだが、恐らくそれは言っても無駄なのだろうし、先にユルへ向かう事が安全とも言い切れない。

なので、それは言わない事にし、前方を駆け降りて行くクウヤを見失わない様神経を集中させた。

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