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閉店間際のカウンターで

作者: かりすと
掲載日:2026/04/18

※大人向けの恋愛です。


何も始まらなかったのに、ちゃんと残った関係を書きました。

その店は、基本的に暇だった。



夜になれば多少は人が来るけど、

平日の遅い時間なんて、ほとんど誰もいない。



ダーツの音が、やけに響く。



カウンターに立ちながら、スマホをいじる時間の方が長い日もある。



その日も、そんな夜だった。



ドアが開く音がした。



珍しいな、と思った。



時間的に、誰か来るような時間じゃなかったから。



入ってきたのは、一人の女の子だった。



少しだけ周りを見てから、カウンターに座る。



「やってますか」



「一応」



そう答えると、少しだけ笑った。



その時点では、ただの客だった。



ダーツを投げて、少し話して、

一杯飲んで帰る。



それで終わると思っていた。



でも、次の週も来た。



同じくらいの時間に、同じ席に座る。



「また来ました」



「どうも」



それだけのやり取りなのに、

少しだけ店の空気が変わる。



それから、なんとなく続いた。



毎週ではないけど、

忘れた頃に来る。



長くいるわけでもない。



ダーツを少しやって、

軽く話して、帰る。



名前も聞かなかった。



聞くタイミングがなかったのもあるし、

聞く必要もなかった。



それくらいの距離が、ちょうどよかった。



「この店、暇ですよね」



ある日、そう言われた。



「否定はしない」



「なんでやってるんですか」



少しだけ考えてから、



「他にやることないから」



そう答えた。



「もったいない」



そう言って、グラスを揺らす。



「何が?」



「もっと流行りそうなのに」



「無理だよ」



「なんで?」



「頑張ってないから」



それを聞いて、少しだけ笑った。



その笑い方が、嫌いじゃなかった。



それから、少しずつ話す時間が増えた。



店が暇だから、というのもあるけど、



多分、それだけじゃなかった。



ある日、ダーツの勝負をした。



「負けた方、なんか奢りで」



軽いノリだった。



結果は、こっちが負けた。



「じゃあ、次来たときでいいですよ」



そう言って帰った。



その“次”は、すぐ来ると思っていた。



でも、来なかった。



一週間経っても、来なかった。



二週間経っても、来なかった。



別に珍しいことじゃない。



一度来ただけの客なんて、いくらでもいる。



でも、



なぜか気になった。



来る時間に、少しだけドアの方を見るようになった。



来ないと分かっているのに。



それから、しばらくして。



本当にたまたま、外で見かけた。



店から少し離れた場所。



誰かと一緒だった。



楽しそうに話していた。



声はかけなかった。



かける理由もなかった。



向こうも、気づいていなかったと思う。



それでよかった。



そのまま、店に戻った。



いつも通り、カウンターに立つ。



相変わらず、暇な店だった。



ダーツの音が、また響く。



ふと、思う。



あのとき、名前を聞いていたら。



もう少し踏み込んでいたら。



何か変わっていたのか。



でも、多分。



何も変わらなかった。



あの距離だったから、よかった。



あの関係だったから、残った。



グラスを拭きながら、ドアの方を見る。



開くことはない。



分かっている。



それでも、



少しだけ、期待してしまう。



暇な夜は、そういうことを考える時間が長い。



——あなたなら、あのとき、踏み込んでいましたか。

読んでいただきありがとうございます。


この話は、

「何も始まらない関係」と

「踏み込まなかった後悔」

を書きました。


もしよければ、


・踏み込むべきだったと思うか

・あの距離でよかったと思うか


コメントで教えてもらえると嬉しいです。

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