大洋の嵐
「さっきも言ったが、イニ島に行く船には女の船員しか乗らないからな。お前らの旅に俺が着いていけねえのは惜しいところだが、あいつらも航海の腕は悪くない。きっとすぐにイニ島に辿り着けるぜ」
「ありがとうございます。何から何まで」
「いいってことよ」
そう言って船長は俺達を促し、家のリビングまで連れていった。空き部屋などという都合の良いものはない為、今夜はそこで寝ろとのことだった。俺は村に宿があったことを思い出して固辞したが、「宿代も高えだろ」と言われてしまえば黙る他なかった。実際、ふかふかのベッドで寝るよりも宿代が浮く方が嬉しい。俺達は賑やかな家族に囲まれながら夜を過ごし、彼らがそれぞれの自室に帰っていった後、床に敷いた毛布の上で眠りについた。
そして翌日の早朝、俺達は船に乗ってアルーヴ村を発った。
潮風が潮風に靡き、水飛沫が水飛沫によって打ち上げられる激しい音が、俺達の耳を優しく塞ぐ。進む船が一面の濃藍に白い軌跡を描いては、混ざり合って浅葱になって消えていく。
「イニ島には元々、イニ教だけがあったんだ。それは島固有の宗教で、閉鎖的な環境でドロドロとドス黒く煮詰まっていったものだ。
だけどサンズウェイと繋がってから、あの島にテオドア教が伝来した。それは島の宗教を塗り替えていった……ように見えたが、その実その二つは融合してしまったんだ。
島に着いたら驚くよ。百聞は一見にしかずってね」
無造作な三つ編みを風に靡かせた船員の言葉を、俺達は雄大な海を眺めながら聞いていた。
しばらく航海していると、空がにわかに曇りだした。やがて夜のような暗雲が太陽を隠し、爆撃のような雨が降り始めた。
大粒の雨が俺達の全身を撃つように、激しく痛めつけるように打ちつける。海が荒れ、波が高くなり、船が揺れる。雷さえもこの流動する導体の満ちた場所に落ち始め、俺達は慌てて欄干にしがみついた。あまりの揺れに船室まで戻ることができない。
俺達ははるか先の霞んだ島、小さな孤島を見つめた。あれは希望か絶望か、その狭間で揺れる針か。
俺達は自分達の無事を祈った。一体何に祈ったのか。始祖王テオドアか、得体の知れない宗教の神か。
俺達の目はイニ島に釘付けになって、呪われたように離れなかった。




