表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/110

97 水を出してみた

「そう畏まらんでくれ。我が娘を守り、この地に送り届けてくれた事、心から感謝する」


 アイナ達は自分の世界と同じように、皇帝の前で膝をついて頭を垂れていたが、一段高い場所の玉座に座っていた皇帝は、アイナ達と同じ場所まで下りて来てそう言った。皇帝の隣にはファミュルカも居た。


 皇帝はアイナ達を立ち上がらせ、自ら深く腰を折って礼をする。壁沿いに立っていた他のマザルガル帝国人達も、同じように礼をした。


「本来ならば、其方そのた達を歓迎する宴を開き、存分にもてなしたい所なのだが、我が国はご覧の通りの有り様。ご勘弁願いたい」


 皇帝は丁寧に謝罪を口にした。


「皇帝陛下、感謝のお気持ち確かに受け取りました。宴の件もお気持ちだけで十分です。その代わりと言っては何ですが、我々の提案をお耳に入れてもよろしいでしょうか?」


 代表して答えたアレスの言葉に、周囲の帝国人たちが俄に警戒する。ファミュルカを送り届けた代償として何かを要求するのではと訝しんだのだ。


「それはどんな提案かな?」

「この地に緑を取り戻すための提案です」


 アレスの返答に、今度は周囲がざわつき始める。「緑を取り戻す?」「雨を降らせるとでも言うのか」「異界の者がそんな力を?」


「皆の者、鎮まれっ! 『銀獅子団』の者たちよ、その話、別室でお聞かせ願えるか?」

「もちろんです。その前に、まずはお見せしたいものがありますので先程の庭にご足労いただけますか?」

「うむ、承知した」





 アイナ達と皇帝、ファミュルカ、アーニカ、宰相と何人かの貴族、そして近衛兵二十人が、元居た南庭に集まる。


「今からお見せするのは『魔術』、その中でも『水魔術』となります。それを使って、狭い範囲で雨を振らせます」


 アレスが簡単に説明すると、ファミュルカとアーニカを除いた帝国の人々が疑いの言葉を口にし始める。


「まぁ、見てもらった方が早い。ネネ、頼む」

「ん。ことわりを成す者よ、恵の雨となれ。水瀑フォール!」


 ネネがパタグリュエル公国で付与を施した杖、賢者の杖(ワイズロッド)(命名:ネネ)の先端を頭上に振りかざす。


 雲一つなかった青空の低い場所に突然黒雲が現れた。ポツリ、と雨粒が落ちて来たかと思うと、ザーっと雨が振る。ネネの目の前約二十メートル先の地面が、半径五十メートルに渡って湿り始める。


 雨は三十秒程で収まり、中空に虹が出現した。心なしか周囲の気温が下がり、頬を撫でる風が涼しく感じる。


 疑念を口にしていた帝国人達は、口をぽっかーんと開けて驚いていた。


「ん……今のは低級水魔術。中級・上級・最上級とあって、私は上級まで使えます。上級の場合は今降らせた雨の三十倍以上になります」


 ネネの淡々とした説明に、帝国人の方々は目をきらきらさせた。


 今のデモンストレーションを見て、何かにピンと来たテンがおねだりを始める。


「アレス、アレスっ! 我もやって良い? 良いじゃろ?」

「うぉ!? テン、水魔術も使えるのか?」

「魔術じゃなくて『魔法』じゃけどな」


 テンの言葉を聞いて、アイナが慌てて会話に入る。ムスベルヘイム・ダンジョンの中で、テンが突然「太陽」のような規格外の魔法を出したのを思い出したからだ。


「テ、テンちゃん! それ、危なくない?」

「大丈夫じゃ。攻撃用じゃないやつにすれば良いんじゃろ?」

「そうなんだけど、洪水とか起きないよね?」

「うむ! ちっこいのにするから問題ない! 行くぞ」

「ちょっと待て、テン!」


 何かを察したアレスが、皇帝の方に歩み寄る。


「皇帝陛下、他の仲間も水を出すのですが、もしかしたらかなりの量になるかもしれません。それを出して問題ない場所がありますか?」


 それを聞いた皇帝が、隣の宰相となにやら小声で相談する。


「それなら、ここから東に五百メートルの場所に、かつて湖だった場所がある。今は干上がっているが……直径二キロはあるから、そこなら問題なかろう」


 アレスがそのままテンに伝えると、テンはその場で二十メートル程ぴょーんと飛び上がった。それを見て、帝国の方々は顎が外れそうなほど口を開けている。


「見えた! あそこのちょっと窪んだ所じゃな。じゃあその真上に出すぞ? ほれ!」


 テンの気が抜けた掛け声と共に、五百メートル彼方の空中に水球が出現する。ここから見えるという事はかなりの大きさの筈。それが見る見るうちに大きくなっていく。回転しながら巨大化する水球は、陽の光を反射してキラキラと輝いていた。


「これくらいで良いじゃろ! じゃあ落とすぞ?」


 どっぱーん!!


 盛大な音と共に、水球がかなりの高さの水飛沫をあげて湖に落ちた。少し後に、ここまで地面が揺れるのを感じた。


 近衛兵の一人が城の警備兵に何かを伝え、その警備兵が馬を駆って東に走って行く。五分も経たずにその警備兵が戻り、興奮した顔で近衛兵に見て来た事を報告する。


「陛下! 湖が! マザル湖がっ! 八割がた水で満たされているそうです!」


 その言葉を聞いた皇帝と宰相、貴族たちがテンに駆け寄り、その足元に跪いた。


「女神様……」

「うむ! 我は女神ではないぞ? 神獣じゃ!」


 テンは薄っぺらい胸を反らせて満足そうに「うわーっはっはっはー!」と大笑いをかました。


 収拾がつかなくなるので、取り敢えず城の「別室」とやらに移動することになった。





「先ほど降らせた雨は魔術によるものなので『純水』です。テン、テンが出したのもそうなの?」

「うむ、そうじゃな」

「だそうです。なので、そのまま飲むのは問題ないですが、味はあまり美味しくないと思います」


 城の別室で、皇帝と宰相に向かってネネが説明している。


「飲用水にする場合は、綺麗に洗った石や木炭と一緒に樽に入れて、一日ほど寝かせれば良いと思います」


 宰相の後ろに控えた文官が必死にメモを取っている。


「マザル湖が満たされれば、それだけで帝都の民が一か月は水で困らない。テン殿、そして『銀獅子団』のみなさん。心から感謝する」


 皇帝が座ったまま頭を下げ、宰相と後ろの文官も慌てて頭を下げた。


「困ったときはお互い様です。二つの世界が繋がったのは偶然ですが、これから交流を深めればお互い益になるでしょう」


 それから、ネネとアレス、それに皇帝と宰相は今後について話し合いを始めた。


 まず、こちらが支援するとして、マザルガル帝国は何か提供できる物があるかを聞き取りする。

 『銀獅子団』としては無償で支援しても全く構わないのだが、一国を支援するとなるとアイナ達の世界の国々の力に頼る必要がある。それに、一方的に助けるのはマザルガル帝国にとっても良くない。甘ちゃん根性が染み付いても困る。


「我が国ではこのような鉱物がかなりの量産出されるのだが、其方達の世界で需要があるだろうか?」


 そう言って、皇帝はいくつかの鉱石を見せてくれた。何の加工もしていない岩の塊に見えるそれを、ネネが両手で抱えてじっくりと観察する。


「これはオリハルコン……こっちはアダマンタイト」

「我が国ではこれらを加工して混ぜ合わせ、武器の材料となる鋼を生産しているのだ」


 オリハルコンとアダマンタイトの合金……「攻撃刃腕ソード・アーム」が普通の武器では斬れなかった訳だ。


 アイナ達の世界では、オリハルコンとアダマンタイトは非常に稀少な鉱物である。パタグリュエル公国のドワーフ達に見せたら涎を垂らして目が血走る事だろう。従って、あまり大量に流通させるのはよろしくない。


「これらの鉱石が荷馬車一台分で……帝都の住民三~四か月分の食糧支援が出来ると思います」

「それほどまでにっ!?」


 宰相が驚きの声を上げる。現在、帝都には五万人の住民が居るのだ。皇帝はネネの言葉に安堵の吐息を漏らした。


「食料と水の支援はそれで上手く行きそうです。それ以外に、この地に緑を取り戻す必要があります」


 未来永劫、アイナ達の世界がマザルガル帝国を支援する訳にもいかない。元々この国の領土は広大で、鉱脈以外に穀倉地帯もあるのだ。


「しかし、其方達の言う『魔術』では穀物を育てる程の雨を降らせることは出来ないであろう?」


 ネネ一人の力ではもちろん不可能だ。しかし、ネネにはちゃんと考えがあった。


「水魔術が得意な者を募り、魔術師団を編成します。それ以外に、水の生成を行う大型魔導具も作成してもらいます」


 ネネの提案には莫大な金が要る。しかし、オリハルコンとアダマンタイトがあればその点は問題ない。


「あと……水の精霊にも協力を仰いでみます」


帝国の方々、驚き過ぎて顎が心配です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ