92 付与武器
アレス、ヒューイ、ペネドラの三人が、建物があった場所の東二十メートルに転移した異界人と対峙した。その異界人の名はグレカス中将。「十二将」の一人である。モニカは、冒険者ギルドの残骸で三人の援護が出来る場所に位置どった。
アレスの大剣「ヒュンデベルク」には、風属性と水属性が付与されている。
元々アレスの身の丈程ある大剣は、「斬る」というより「叩き潰す」用途に使われるものだ。なにせ重量が三十キロ程ある。スキル『剛力』を持つアレスだからこそ、目にも止まらぬ速さで扱えるのだ。
そして、剣技を極め、普通の剣より速く振り切れるからこそ、大剣で「断ち斬る」ことが出来ていた。
そう。大剣「ヒュンデベルク」は、元々「斬る」ための剣ではないのである。
だから「斬れる」付与が施された。超高圧で薄さ数ミクロンまで圧縮されたただの「水」が、剣身の周りを常に毎分六万回転の超高速で回っている。それは触れただけで何でも斬れる大剣となった。
グレカス中将は、背中から十本の「攻撃刃腕」を生やし、両腕も赤黒い剣に変え、縦横無尽に攻撃を繰り出す。普通の人間では目で捉えられないスピードで。
攻撃刃腕の攻撃は重く鋭い。並の騎士なら受け止めようとしても剣や鎧ごと身体が両断されるか、数メートル吹っ飛ばされる攻撃だ。
アレスは、それを冷静に大剣で受け止める。まるで力を使っているようには見えない。攻撃刃腕先端の刃の部分は、大剣に触れると同時にバターのように切り裂かれて行く。アレスは、刃の破片を避ける方に気を遣っている。
数度攻撃して、ようやくグレカス中将は異変に気付いた。攻撃が速過ぎる故、刃先を失っている事に気付くのが遅れたのだ。両腕を含めて合計十二本のうち、六本が刃先を失っていた。
アレスがグレカス中将の攻撃を往なしている隙に、ヒューイはグレカスの右後ろに移動していた。攻撃刃腕の攻撃に死角はないが、対象を把握するのは「目」に頼っている。人間と同じく顔の前に目が付いている以上、後方の攻撃は甘くなるのだ。
ヒューイの双短剣「ブラッディ・マリー」は元々刀身が赤かった。今は、一本は赤、もう一本は青になっている。それぞれ炎属性と氷属性を付与されたからだ。
付与効果は、炎属性は「刀身が当たった部分を摂氏千℃まで熱する」、氷属性は「刀身が当たった部分を絶対零度まで冷やす」というもの。
もちろん、単体で使っても恐ろしい威力だ。しかし、ヒューイが得意とする二本の短剣による連撃を行うとどうだろう?
超高温に熱せられた物体が、即座に超低温に冷やされるとどうなるか。その物体は非常に脆くなる。それを何度も繰り返すと、わずかな衝撃でもその物体は崩れ去るのだ。
アレスに気を取られている隙に、ヒューイはグレカスに肉薄した。そこへ三本の攻撃刃腕が迫る。
(前の奴よりちょっとばかり速いか)
スキル『俊敏』を使い、二本の攻撃刃腕を最小限の動きで避け、一本には避けながら「ブラッディ・マリー」で六連撃を与える。更に避けた二本が戻って来たので、一本は弾き、もう一本に四連撃を加えた。
右後方に振り回した攻撃刃腕三本のうち、二本が真ん中から折れてボトリと地面に落ちた事に気付いたグレカスは、さすがに自分の不利を感じ、体勢を立て直すため後方に転移する。
「ヒューイの左十メートル!」
「あいよっす!」
アレスの指示に、ペネドラは瞬時に反応する。スキル『神速』で指定のポイントに移動し、グレカスの出現の備えて右脚を引いた。
ペネドラが選んだのは脚甲。それは、一見して騎士が身に着けるような、脛から爪先まで覆う金属製の脚甲のようだ。ただし色は黒。ペネドラが派手な色を嫌がったため黒に塗装されている。
付与は風属性と土属性。蹴りのインパクトの直前に、風属性によってスピードが上がり土属性で脚甲を強化しながら圧縮された岩を生成する。つまり、まるで隕石が落下するような衝撃を蹴りの接触面に発生させるのだ。ちなみに生成された岩は毎回砕けて無くなる。
転移して現れたグレカスは、不完全な攻撃刃腕を繭のように身体に巻き付け、防御の体勢を取っていた。そこに、ペネドラが遠慮なく蹴りをぶち込む。
「おりゃぁぁぁあっすー!」
ドッゴォォォォォン!
上段から中段へ振り下ろされた蹴りがグレカスを襲い、とても蹴りの音とは思えない轟音が響き、繭はベッコリと凹んで吹っ飛び、地面を転がって行った。
「ペネドラの前、五メートル!」
「任せて!」
グレカスの劣勢を見た別の異界人が転移で現れると、そこにモニカが放った矢が飛ぶ。雷を纏った矢は二本の攻撃刃腕に当たり、地面に縫い付けた。
意識を失って転がったまま繭が緩んだグレカスの首を刎ねて、アレスがとどめを刺す。地面に縫い付けられた異界人にはヒューイとペネドラが迫り、残った六本の攻撃刃腕を削りにかかった。
モニカが遠方から援護し、アレス、ヒューイ、ペネドラの三人が確実に一人ずつ斃す。彼らは作戦を忠実に実行していた。
* * * * * * * *
「お前は我々の仲間ではないのか!?」
「? 全然違うの。お前は敵なの」
異界人から問われたアーニカはそう返すと、背中の帯で一閃した。
アーニカの背中の帯は、正しくは「帯」ではない。帯のように見える光の粒子の集まりである。
異界人の攻撃刃腕は、このアーニカの背にある帯状のものをモデルにしている。つまり、アーニカがオリジナルなのだ。
かつて、クルニクエルという生き物はもっとたくさん存在した。この生き物は半分精霊のような存在で、自身と自身が守るべきものの願いによって形が変わる。
人型になったクルニクエルの背には、十二~二十本の光の帯があった。それはあまりにも強く、その強さを求めて開発されたのが攻撃刃腕である。
現代の異界人には、クルニクエルの存在がほとんど知られていない。だから、攻撃刃腕のオリジナルがクルニクエルであること、アーニカがそのクルニクエルであることを知らないのは当然である。その攻撃手法があまりにも似ているため、異界人はアーニカに「仲間ではないのか」と問うた訳だ。
アーニカは地上を滑るように移動する。実際五センチ程浮いているのだが。そして次の異界人を発見し、先制で光の槍を放つ。
キュイックのように「吸収」する術が無ければ避けるしかない。そして、転移持ちは避けるのに安易に転移を使う。
アーニカの額にある六個の小さな「目」は、転移先の僅かな空間の歪みを見逃さない。そこに向かって光の槍十六本を放つ。そして現れた異界人にその全てが突き刺さり、貫通した。
「くぅっ! き、貴様……」
身体中を貫かれた異界人に近寄り、帯を一閃。逆袈裟に身体を両断する。
「これで四人。次なの」
アーニカは、この場にファミュルカが居なくて良かった、と今なら思える。優しいファミュルカの事だ、例え敵でも無慈悲に殺す事に心を痛めただろう。もしかしたら、機械のように殺すアーニカを恐れたかも知れない。
(早く終わらせてファミュルカの所に帰るの)
アーニカは表情を変える事なく、淡々と次の獲物を求めて移動した。
『銀獅子団』が異界人の攻撃に対処できるのは、これまでに二度遭遇しているからです。
彼らは異界人を「最大の敵」と認定し、対策を練って鍛錬を欠かしませんでした。
そこに強力な「付与武器」が合わさって、かつてのような窮状には陥らないのです。今のところ。
さて、次話はまた水曜か木曜の夜に投稿予定です。
お待たせして申し訳ございませんが、楽しみにお待ち頂ければ幸いです。




