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77 待ち望んだ再会

1ベリル=約10円です。


 『銀獅子団』の五人とケルベロスは、常識外れのスピードでクシュタニア公国に向かっていた。


 ケルベロスの空間魔法で作られた亜空間は想像以上の広さがある。ただ、地面は無機質な灰色で、それ以外は薄暗く遠くは闇に包まれているので正確な広さは分からない。恐らくケルベロスも分からないのではないだろうか。


 しかしそれだけの広さがあったので、馬車と三頭の馬も入る事が出来た。と言うかそれでも全然余裕だった。

 昼間は馬車で街道を走り、ケルベロスには陽が落ちてから人気のない森や山間を走ってもらっている。ちなみに昼間は大型犬サイズになったケルベロスを馬車の中で休ませている。『銀獅子団』と馬たちは夜間、ケルベロスの亜空間で眠っている。


 ということで、『銀獅子団』は昼夜問わず走り続けていた。パタグリュエル共和国を出てから四日。途中、補給のために一度だけ街に立ち寄った他はずっと移動しているのだ。


 おかげで予定よりかなり早くムスベルヘイムの街に着きそうだ。どこかの街に寄り、冒険者ギルドのスイッター経由でアイナたちに到着予定を知らせても良かったが、その僅かな時間も惜しく感じる。もし補給が必要になったらそうしよう、ということで意見は一致していた。


 あと四日、長くて五日。もうすぐアイナたちに会える。無事を確かめ、再会を喜び合った後は、少しはゆっくり出来るだろう。


 そう言ってお互いを鼓舞し合いながら、『銀獅子団』とケルベロスは今日も疾走する。ひたすらに北を目指して。





* * * * * * * *





「あのー、フレデリクさん? お仕事に戻らなくていいんですか?」

「はい。全く問題などございません」


 フレデリクさん、本当に大丈夫かな? 騎士団クビになっちゃったりしないだろうか?


 ファミュルカたちと出会ってから三日経った。出会った翌日から、アイナはテンやフレデリクと共に毎日食料や飲み物、替えの服などを持って洞窟を訪れた。水と火の魔道具も貸そうとしたが、ファミュルカたちには使えなかった。どうやら魔力がないらしい。


 洞窟から戻った当日、アイナは冒険者ギルドで依頼の達成を報告した。三つ目の「謎の魔物」については、もしかしたら「アーニカ」の事だったかも知れないと思ったが、双頭竜だったと報告した。

 双頭竜については『終焉ラグナロク』を使ったため討伐証明がなかったものの、フレデリクがこれを保証することで依頼達成の報酬とは別に少なくない報奨金が出た。


 三件の依頼達成で三万五千ベリル。双頭竜討伐の報奨金として三百万ベリル。アイナは、これまでソロで受け取った報酬と桁が違い過ぎてクラクラした。

 放っておけば街を壊滅させたかも知れない竜を倒した報酬としては少ないとの見方もあるだろうが、アイナは一言も文句を言わず受け取った。と言うか金額の多さに驚いて喋れなかった。


 まだ手持ちのお金もあるし、全額をギルドの個人口座で預かってもらった。


 更に、ギルドマスター権限で半ば強制的にSランクに上がってしまった。「竜を単独で倒せる冒険者がAランクでは示しが付かない」と言われ、渋々了承したのだった。


 暇潰しの軽い気持ちで受けた依頼で思わぬ大金を稼ぎいだ上、Sランクに昇格してしまった。


 その翌日からは、大量に買い出しを行ってファミュルカたちに届けている。ついでにペドロさんの串焼き露店で毎日串焼きを買っていた。これは時間が経つと味が落ちるので、差し入れは焼く前のお肉だ。


 この三日間でファミュルカたちと色んな話をした結果、随分と仲良くなった。出来れば洞窟ではなく、この街の宿に連れて来てゆっくり休ませてあげたかった。


 そして三日目の今日も、差し入れを終えて先程ムスベルヘイムの街に戻って来た次第である。


「フレデリクさんが問題なくても、騎士団の方は問題では?」

「……………………大丈夫でしょう。しばらく休むと連絡してますので」


 なんかすっごく間があったけど? まぁ、もし騎士団の仕事がなくなっても、公爵家だから大丈夫なんだろう。


 実際の所、フレデリクは仕事を兼ねてアイナたちと行動を共にしていた。詳細は騎士団に報告していないが、自分は今、今後の戦況を左右する局面に立ち会っている。

 第一皇女のファミュルカももちろんだが、天使様の動向から目を離す訳にはいかないのである。


 フレデリクは元々信心深い方ではない。しかし、信じ難い力をまざまざと見せつけられ、アイナを「本物の天使様」と敬っていた。「アイナ教」の爆誕である。くれぐれも布教はしないで欲しい。アイナは半ば諦めながらもそう願わずに居られなかった。


「アイナ! お腹が空いたのじゃ」

「キューイ」

(そろそろ夕食のお時間でございます)


 空はオレンジ色に染まり、気の早い月が低い所に顔を出し、星の煌きも見え始めている。


「じゃあ晩御飯に行こう! 今日もボアボア亭でいい?」

「良いぞ! あそこのボアのステーキは絶品じゃ!」

「キュイ! キュイっ!」

(異論などございません)

「では私もお供しましょう」


 フレデリクの「お供します」にもすっかり慣れてしまった。


 フレデリクさんはずっと丁寧な言葉を使っている。貴族なのに良いの? 私は砕けた喋り方なのに。最初こそ恐縮していたアイナだったが、ここまで来たらなるようになれだった。気にしたら負けである。


 三人と二匹は連れ立ってボアボア亭に入って行った。





* * * * * * * *





「見えたぞ! ムスベルヘイムの防壁だ!」


 御者台のヒューイが後ろに向かって大声を張り上げた。モニカとペネドラは窓から身を乗り出す。


「やっとだわ!」

「とうとう着いたっすね!」


 アレスとネネは地図を広げ、逆円錐型の金属をその上に置き、ネネが魔力を流している。すると、金属はひとりでに動き、ある一点を示して尖った方を下に自立した。アイナが身に着けている魔道具のペンダントに反応しているのだ。


「んっ! 間違いなくここに居る!」

「ようやく会えるな!」

「うぉんっ!」


 足元に寝そべっているケルベロスも目を覚まし、さっきからソワソワしているようだ。尻尾がふぁさふぁさと揺れている。





 間もなく完全に陽が落ちるという時間、防壁の門の脇に佇む二人の兵士は、猛烈な勢いでこちらに迫る馬車にたじろいだ。そのまま突っ込んで来るかと警戒したが、馬車は直前でスピードを落とし、やがて停まった。


「身分証のご提示をお願いしますっ」


 馬車から銀髪の男が飛び降り、冒険者カードを提示する。


「『銀獅子団』だ。俺はアレス」

「『銀獅子団』……ということは、アイナさん達をお迎えに?」


 兵士がアイナの名前を口にすると、銀髪の男は見るからにホッとした顔になり、口元には笑みが浮かんだ。


「そうなんだ。大事な家族を迎えに来た」





 アレスは、兵士がアイナの名を口にしたことで、間違いなくこの街にいると確信して安堵した。同時に、恐らく門兵とも仲良くなっているアイナのことを思い、自然と笑みが零れた。


「遥々よくお越しくださいました! 街中では、くれぐれもゆっくり馬車を進めてください」

「ありがとう。了解した」


 顔の綻びを隠せないヒューイに目配せし、アレスは馬車に戻った。街の地図を手にヒューイの隣に移動する。


「ヒューイ、今ここだから……アイナたちが居るのはこの辺だな」

「分かった!」


 逸る気持ちを抑えつつ、人通りが多い街中で馬車を進める。十五分程で、目的の場所に到着した。


「ボアボア亭? アイナたち、飯食ってんのか」

「そうみたいだな。女性陣を先に行かせるか」

「ああ! 馬車をほっとく訳にもいかねぇし。アイナたちもどこにも行かねぇしな!」


 アレスが馬車の中に声を掛ける。


「着いたぞ! アイナたちは店の中にいるはずだ」


 モニカとネネ、ペネドラの三人とケルベロスは、矢のように馬車から飛び出した。





* * * * * * * *





「これじゃこれっ! 何度食べても美味いのう!」

「やっぱこのステーキ美味しいねーっ!」


 肉汁滴るボアのステーキ。ミディアムレアの焼き加減、ペドロさんのとはまた違う香辛料、そしてボアのくどい脂をさっぱりさせるこのソース。アイナたちは三日連続でボアボア亭のボアステーキを食べていた。


 次の一切れを口に運び、ふと顔を上げたアイナの目に、信じられないものが飛び込んで来る。


「ふぇ?」


 勢いよく開かれた入口の扉には、モニカとネネ、ペネドラの三人が立っていた。店内をキョロキョロと見回し、遂に三人の目がアイナと合わさった。


「 「 「 アイナ!」 」 」

「ほへぇひゃんたひ?(お姉ちゃんたち?)」


 三人の声に、テンも入口の方を振り返る。


「うぉ!? もう着いたの――」

「うぉーん!」


 テンに黒い毛の塊が飛び付く。ケルベロスの勢いに、テンが椅子ごとひっくり返りそうになった。


「こ、これ! 落ち着くのじゃ!」


 そして、モニカとネネ、ペネドラもアイナに駆け寄り、座ったままのアイナを三人掛かりで抱きしめる。


「アイナ……アイナ……」

「無事で良かった……」

「はぁー、アイナっちの匂いがするっす」


 アイナは口の中のお肉をようやく飲み込んだ。


「お姉ちゃんたち!? もう着いたの!? お兄ちゃんたちは!?」

「うぐっ、そ、外で待ってるわ」


 三人はようやくアイナを抱擁から解放し、次にテンを抱きしめた。


「テン! よかった……」

「ん……アイナを守ってくれてありがとう」

「テンっちぃ……」

「これ! お前たちもか!? 落ち着くのじゃ!」


 ケルベロスを一頻り撫でたアイナは、フラフラと入口に向かう。入口から漏れた四角い光の中には、アレスとヒューイが立っていた。二人とも、何かを堪えるように真っ赤な顔をしている。


 二人の顔を見た途端、アイナの両目から大粒の涙が溢れ出した。


「お、おにいぢゃんだち……じ、じんぱいがげでごべん……」


 アレスとヒューイも人目を憚らず涙を流しながら、二人でアイナを優しく抱きしめた。


明日は19時に予約投稿で公開します。

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