71 アイナの冒険者ランク
商業区域の騒ぎから抜け出し、アイナはテンの手を引きながら冒険者ギルドに来た。
「うん、私たちは冒険者なんだから、暇なら依頼を受ければいいんだよ!」
「魔物退治か? 腕が鳴るのう!」
(私もアイナ様のお役に立ちたいです!)
「キューイっ!」
「いやいや、危なそうなのはやめとこう?」
「なんでじゃ!?」
「そもそもテンちゃんに敵う魔物なんて滅多にいないじゃん……」
「そこそこでいいんじゃっ!」
そこそこって……そう言えばテンちゃん、ククルのことも「そこそこ」って言ってたような…………
「いやいや、ダメだよっ!? テンちゃんの『そこそこ』はククルクラスの大物なんだから!」
(そんな、お恥ずかしい……私など小物でございます)
「いや、二人とも基準がおかしいからね!?」
「むぅ」
(?)
「キュイっ?」
駄目だ。この子(?)たちだけにしたら大変な事になる。私がしっかりしなきゃ! アイナは心に誓った。
掲示板に貼り出された依頼を見る。『白睡蓮団』の三人に聞いたのだが、最近は首都クストニアで大規模なクエストが継続中で、かなり多くのパーティがそちらに行っているそうだ。そのため掲示板には大量の依頼が残されている。
「わぁ、依頼が随分貯まってるね。おっ、これなんかどう? 『コボルト討伐』。あ、『ハウンドウルフ討伐』もあるよ?」
「むぅ。もっとこう、ワクワクドキドキするような依頼はないのか? 竜の討伐とか」
竜ならワクワクドキドキするらしい。アイナにとっては生きた心地がしないが。そんな依頼がもしあったらテンに全部お任せしよう。
「んー、さすがに竜はないねぇ」
「なら、いっそこうじゃっ!」
テンは一生懸命背伸びをして、掲示板に重なるように貼ってあった依頼書をごっそり手に取った。
「どうするの? テンちゃん」
「これなら、どんな依頼があるか分からんじゃろ? その方がワクワクドキドキするじゃろ!?」
どうせカウンターに持って行けば、依頼の内容は職員さんが詳しく教えてくれる。更に、ソロだとCランクのアイナではBランク以上の依頼は受けられない。
それでも、テンがあまりに嬉しそうに依頼書の束をカウンターに置くものだから、アイナは本当の事が言えなかった。
「じゃあ、テンちゃんはそこの椅子で待っててね」
「うむ!」
少し離れた待合所にテンを座らせ、アイナはカウンターに戻る。椅子に座って足をブラブラさせ、にこにこしているテンが微笑ましい。
「すみません、お待たせしました」
「いいんですよ! えーと、アイナさんは今Aランクだから――」
「えっ?」
「え?」
「今『Aランク』って言いませんでした? Cの間違いでは?」
「いいえ、ギルドの記録ではAランクになってますよ? えーと、王族二名の護衛に王家に対する反乱を防いだ件、それにパタグリュエル共和国の緊急依頼達成も功績になってます。え? これでA? Sランクにもなれそうですけど。申請します?」
「しませんっ!」
アイナは知らない間にランクが二つも上がっていた。パーティとしての依頼達成が個人のランクにも反映されるなんて初めて知った。
十五歳でAランクでも十分目立つのに、Sなんてとんでもない!
実は、個人の「戦力」だけならアイナはSどころかSSランク相当なのだが、アイナはまだ自分の力を過小評価していた。
「そうですか? 申請はいつでも出来ますから仰ってくださいね?」
「分かりました……(絶対しないもん!)」
「では、こちらの依頼は全部受けていただけるのでしょうか?」
「あ、一応内容を教えてもらえますか?」
アイナは依頼の内容を一通り聞く。Aランクになったからには、あまり低いランクの依頼は受けない方が良いだろう。駆け出し冒険者の仕事を奪うことになりかねない。
それに、あまり長くかかりそうな依頼もパスだ。『銀獅子団』が到着するまであと十日。それまでに片付くものが良い。
職員さんと相談し、三つの依頼を受けることにした。
「北の街道沿いの魔物、三十体の討伐」……Bランク
「北東の森の魔物、レッドベア五体討伐」……Aランク
「東の森に出現した謎の魔物の調査」……Aランク
北の街道沿いで魔物を倒し、そのまま森へ入りレッドベアを討伐。そこから南下して正体不明の魔物について調査する。
この「正体不明の魔物」の部分が、きっとテンを満足させるに違いない。相手が神獣クラスでなければ、そうそう後れを取ることはないだろう。
もし『銀獅子団』から連絡が入ったら、三つの依頼のことを伝言するようにお願いし、宿にいったん戻って準備を整える。
野営の必要もありそうなので、商業区画で装備を見繕うことにした。朝の騒動はすっかり収まった通りを歩き、真っ先に朝食べた串焼き露店に向かう。
「おじさん、こんにちは!」
「おう、嬢ちゃん! また買ってくかい?」
「ううん、実はお肉にかかってた香辛料のことを聞きたくて」
「香辛料かい? これは俺のオリジナルブレンドなんだよ」
「そうなんだ! これ、とっても美味しいから、売ってたら買いたいなって思って」
「嬢ちゃんみたいに可愛い女の子から『美味しい』って言われたら嬉しいね! 良かったら少し分けてやろうか?」
「いいの!?」
「ああ、構わんさ! 嬢ちゃんはこの街の人じゃないんだろ? ついでにレシピも書いてやるよ」
「ほんとっ!? ありがとう、おじさん!」
「いいってことよ。ああ、俺のことは『ペドロ』って呼んでくれや!」
「ペドロさんだね! 私は『アイナ』だよ! この子はテンちゃん」
「アイナちゃんにテンちゃんだな! ほれ、これ持って行け!」
ペドロは瓶に入った香辛料と、レシピを書いた紙をアイナに手渡した。
「こんなに!? ペドロさん、ありがとう! それと、焼いたお肉を八本と、焼く前のお肉を八本もらえる?」
「おっ! こっちこそありがとな! 全部で四百八十ベリルだな!」
アイナは千ベリル渡した。
「お釣りは香辛料とレシピ代にして! ペドロさん、ありがとう!」
「おう! まだ街に居るならまた来てくれよな!」
アイナたちはペドロに手を振って露店を後にした。
野営に必要な装備を、と思ったが、良く考えるとアイナはもちろん、テンもククルもキュイックも空間魔法は使えない。テントや寝袋、竈や調理器具など便利でも大きな道具は持って行く事がそもそも出来なかった。
そのため、最低限の保存食とポーションなどの医薬品を購入し、そのまま北門へと向かったのだった。
* * * * * * * *
アイナたちがペドロから香辛料とレシピを受け取っていた頃、一人の青年が冒険者ギルドの扉を開いた。
金髪に緑の瞳、スラっとした細身の彼は、この日の朝に横暴な貴族の護衛から親子を救った青年だった。
「はっ! フレデリク様!? どうしてこんな所に?」
「ははは。『様』はいらないよ」
「いえっ! 公爵家のご子息にして騎士団の副団長様ですから!」
アイナにSランク昇進を勧めた女性職員が椅子から立ち上がり、畏まって半ば叫ぶように口にする。
その様子に、他の職員たちもフレデリクに恭しく礼をし、冒険者たちはそっと外に出て行った。
「騎士団って言っても辺境の第三団だからね……まっ、いいや。ちょっと人を探してるんだけど」
フレデリクは今朝がた見た少女の特徴を並べる。銀髪を長く伸ばし、あどけなさを残した美しい顔立ち、首には青い石のネックレス。一緒にいた狐人族の少女は、まるで姉妹のように可愛らしかった、と。
「それなら『銀獅子団』のアイナさんで間違いないです! 一緒にいた子はテンちゃんというお名前です」
このクシュタニア公国は、公爵家の中から選ばれた「大公」が国を統治する。目の前のフレデリクが次代の大公になっても不思議ではない。だから、なぜアイナのことを探しているのか、などと余計な事は詮索しない。クシュタニア公国民である女性職員にとっては当然の判断である。
「アイナさんか……それで、アイナさんが今どこに居るか知ってる?」
フレデリク、敵か味方か……!?
新キャラが登場したのに大変申し訳ないのですが、毎日投稿が難しくなりました。
ストックが完全に「ゼロ」になりました。
次の更新は水曜日か木曜日になる予定です。
お待たせして申し訳ございませんが、楽しみにお待ち頂けたら嬉しいです!
引き続きよろしくお願いいたします。




