63 ほのぼのダンジョンライフ
ニーズヘッグ・ダンジョンは、アイナが最初に置き去りにされた所です。
支度を終えたアイナは、『天翼』の周りに『死神の鎌団』を出して集まっていた魔物を一掃し、ピンポイントの『地獄の炎』で焼き尽くした。
ちなみに集まっていたのはハウンドウルフ。ニーズヘッグ・ダンジョンでアイナにおいたをしたアイツらである。
来た道を戻るだけだったので、二層下の最初の場所に戻るのは早かった。四時間ほどで飛ばされた地点に戻り、そこから下へ続く階段を探したのだが、一時間もかからず見付けた。次の層も変わらず草原であった。
「ねぇ、キュイック。空から階段を見付けたり出来ないよね?」
「キューイ……キュっキュキュイっ!」
「『どうかな……分からないけどやってみる!』と言っておる」
「わぁっー!? キュイック? テンちゃん? うわぁっ!」
アイナは、キュイックを両手で頭上に捧げてくるくると回った。嬉し過ぎて語彙力がなくなってしまったようだ。
「キューィ…………」
「目が回ったみたいじゃぞ?」
「わっ! ごめんキュイック」
アイナはキュイックを胸にかき抱き、その身体を優しく撫でた。
「何か嬉しかったのか?」
「うん! 今までも、なんとなく言葉が通じてる気がしてたんだけど、テンちゃんのおかげで本当に通じてたって分かったから!」
「ふふふ。キュイックはちゃんと分かっておるよ」
アイナはキュイックに頬ずりしながら、片手でテンを抱き寄せた。
「テンちゃん、ありがとう! キュイックも、ありがとう!」
「キューィイイ」
「『礼を言うのはまだ早い』だそうじゃ。しかしキュイックが空から階段を見付けられれば随分と楽が出来そうじゃのう」
「そうだね! でもキュイック、無理しなくていいからね?」
「キュイっ!」
それからアイナたちは昼食の獲物を探した。幸いなことに、この草原エリアにはニワトリ型、イノシシ型といった食べられる魔物が多い。
ソロで冒険者をしていた頃、先輩たちから食べられる魔物について色々教わった。頑張れば昆虫型でも食べられなくはないそうだが、出来ればお断りしたいアイナであった。
獲物はたくさん居るのだが、例え一匹でもアイナたちでは全部食べきれない。保存手段がないのであまり長く置いておけないのだ。余ったお肉は魔物を誘き寄せないよう、ピンポイントの『地獄の炎』で焼き尽くしている。
草原に燃え広がらないよう、『地獄の炎』を使う前には『死神の鎌』で周囲の草刈りをする念の入れようだ。
死神も、空間ごと断絶する大鎌で草刈りすることになるとは思っていなかっただろう。
そして、食べるために獲物を仕留めるのにも『死神の鎌団』が大活躍である。
アイナは剣も弓も得意ではないし、そもそも持っていない。もちろん素手で魔物を倒すなんてペネドラじみたことも出来ない。
テンなら軽々と素手で倒せるだろうが、アイナはテンに魔物を殺させるのをなんとなく躊躇っていた。だって見た目幼女なので。
割と素早く動く魔物を狩るのに、広範囲に数十体展開できる『死神の鎌団』は非常に便利だ。数打ちゃ当たる戦法である。
死神たちも自分たちがニワトリやイノシシを狩ることになるとは思っていなかったに違いない。
なんだか死神たちの扱いが雑な気もするが、アイナは気にしないことにした。だって自分のスキルだし。
ちなみに狩りの時は、テンに神力を極限まで絞って貰っている。そうしないと魔物が逃げて行ってしまうのだ。
「一撃死」
アイナはたくさんの死神をコントロール出来るようになってきた。一度にたくさんの獲物を狩る必要はないので、一匹だけに斬撃が当たるよう調節する。
そうやって狩ったブラックボアの、なるべく美味しそうな部分だけ捌く。命の恵みに感謝しながら、アイナとテン、キュイックは、胃袋に美味しく収めるのであった。
昼食を終え、横で死神がせっせと草刈りをしていると、満腹になったキュイックが突如やる気を見せる。
「キューイっ!」
バサバサと真っ白な翼を動かし、キュイックは空中へと羽ばたいた。
「キュイックーっ、気をつけてねーっ」
アイナとテンの頭上を一周した後、キュイックは「キュイっ!」とひと鳴きして眩い光の球になり、光の筋を空に残してあっという間に遥か彼方に飛んで行った。
「速っ!? あんな速く飛んでて階段が見えるのかな?」
「もちろん見えるぞ? 『光竜』の子じゃからな」
「コウリュウ?」
「なんじゃ、知らんかったのか?」
「うん」
「光の竜と書いて光竜。キュイックの母に会ったのじゃろ? それが光竜の大人の姿じゃ」
「ほぇー……光の竜かぁ。かっこいいね!」
「うむ。今はまだ弱いが、あと百年もすれば十分強くなるじゃろ」
「ひゃ、百年!? …………そっか、百年かぁ……」
キュイックが飛んで行った空を見ながらアイナが呟く。キュイックは自分より遥かに長く生きるのか……それは嬉しいような、ちょっぴり寂しいような不思議な気持ちだった。
「うん。私が生きてる間、ずっとキュイックを見守りたいな」
「うむ。キュイックもそれを望んでおるよ」
「本当? 嬉しいな! ねぇ、テンちゃん。テンちゃんも、私が死ぬまで一緒にいてくれないかな?」
「っ!? …………ア、アイナがそれを望むなら、いいい一緒にいても、べ、別に構わんぞ?」
「ほんと!? やった!」
「ふ、ふむぅ……」
ずっと空を見ているアイナの横顔をチラチラ見ながらそう答えたテンは、顔を真っ赤にしながら尻尾をブンブン振っていた。
キュイックだけに階段を探させる訳にもいかないので、アイナとテンも探索を開始する。道らしい道がない為、死神を先頭に草を払ってもらいながら進む。見た目は恐ろしい死神だが文句一つ言わない。アイナのスキルで生み出しているので当然なのだが。
時折魔物と出くわすが、テンが一緒なのでほとんどこちらには向かって来ない。
「テンちゃん! あそこ、草が無くてちょっと土が盛り上がってる。行ってみよ?」
「うむ!」
そんな調子で周りと様子が違う場所を見付けては調べ、少しずつ先へ進み、三十分おきくらいにキュイックが報告に帰って来る。キュイックはアイナたちを見付けるのも全く問題ないようだ。
最初は当てずっぽうで飛びまくっていたキュイックだが、それでは効率が悪いと気付き、今は地上を目視できる範囲を真っ直ぐ端まで飛び、横にずれて真っ直ぐ戻りながら探しているらしい。
「キューイっ!」
探索を始めて三時間後。
「おっ! キュイックが階段を見付けたようじゃぞ!」
「ほんとっ!? キュイック、すごい!」
アイナが両腕を前に出すと、キュイックがそこへゆっくりと降りて来る。
「キュイっ」
「道案内してくれるそうじゃ」
「おおーっ! じゃあキュイック、お願いね」
キュイックはアイナの腕から飛び立ち、顔の高さくらいでホバリングを始めた。
「ねぇ、テンちゃん。キュイックのこれって、翼で飛んでないよね?」
「うむ。風魔法を使っておるのじゃ」
「魔法? 魔術とは違うの?」
「うーむ、簡単に言うと、魔法を人間にも使えるようにしたのが魔術じゃな。詠唱や魔法陣の補助で、本来人間には使えん魔法を使っているのじゃよ」
「ふーん……」
「お主らの言う『スキル』というのは魔法の一種じゃ。詠唱など要らんじゃろ?」
「うん、たしかに」
「ネネが使う魔術なんかは、必ず詠唱しとるじゃろ?」
「うんうん」
「魔法は、使うのに詠唱など要らん。少し意識するだけで使えるんじゃ。こんな風に」
そう言ってテンは右の掌を斜め上に向けた。すると、数百メートル先の上空で目が眩むような光を放つ、巨大な火の玉が出現した。まるで太陽が生まれたかのようだ。一気に周囲の気温が上昇する。
「てててて、テンちゃん!?」
「んで、我クラスになると一度出した魔法を消すことも容易い」
次の瞬間、巨大な火の玉が消滅する。火の玉があった場所に向けて強い風が吹いた。キュイックが風に煽られてフラフラしている。
「魔法というのは強力なのじゃ。『スキル』も魔法じゃから、使う者のイメージによって無限の可能性がある」
「そうなんだ…………テンちゃん、勉強になったけど、テンちゃんの魔法は前置きなしで使うのは禁止ね?」
「うっ…………分かったのじゃ」
アイナはテンの手を握り、ふわふわと進むキュイックの後をついて行った。
この物語における「魔法」と「魔術」の違いについてテンちゃんに説明してもらいました。
魔法で生み出されている「死神」、見た目はコワいけど働き者なんです!




