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61 金の転移陣

「さて。色々ごちゃごちゃしてるから話をしよう」


 アレスが、『銀獅子団』の面々と『紅の鷲獅子団クリムゾン・グリフォン』に向かって声を掛ける。先程まで一緒に闘っていたが、改めてお互い自己紹介し合った。


 その間、まだ息がある二人の異界人を拘束する。ゼフが魔道具の布を使い、それで簀巻きにした。すっかりテンに懐いたケルベロスに、二人の見張りを任せる。


 「神の右手」を盗み出した経緯と理由はシュウが説明した。


「なるほど、人質か……だがな、お前たちが盗んだ『神の右手』、それレプリカだぞ?」

「はっ?」

「いくらSSランクとは言え、そう易々と盗めんだろう、国宝を」

「…………」

「それに本物でも、かなり高位のエルフの付与術士じゃないと使えないそうだ」


 自分たちが追ってるのがレプリカであることは、ダンジョンに入ってから既に仲間には説明済みだ。


 盗まれたのがレプリカなら、なぜこれ程の大事になっているのか?


 それは、マリノアス共和国の諜報部がアドジオン帝国の、いや帝国を降伏させた「異界人」の狙いを掴んだからに他ならない。

 盗みを実行した冒険者パーティ名までは分からなかったが、神獣を倒すために強力な武器を必要としていることは分かっていた。


 いずれ本物が狙われるとしても、それまでの時間稼ぎとしてレプリカを盗ませた。そしてそれを本物と思わせるため、マリノアスの精鋭部隊がパタグリュエルに乗り込んだという訳だ。

 ドワーフたちにとっては寝耳に水だったが、いずれ異界人がこの世界全体に害を及ぼすとしたら、他人事では済ませられない。だからドワーフ側も協力したのだった。


 本物と信じ込ませるためとは言え、何人もの兵士と冒険者に犠牲を出してしまったのは誤算であった。


「俺たちは一度ヘルムスに行き、事の顛末を説明する。約束の武具強化もしてもらうつもりだ。お前たちはこのまま帝国に戻ってそのレプリカを渡し、人質を解放する。それでどうだ?」

「俺たちに異論はないが……俺たちは罪を犯した。それに、帝国が異界人に降伏したのなら、どうにかしなきゃならんよな」

「俺たちもいずれ帝国に行くつもりだ。それまでに出来るだけ情報を集めて欲しい」

「分かった」


 アレスとシュウはがっちり握手を交わした。


 『紅の鷲獅子団』は何らかの罪に問われるだろうが、彼らは文句なしに貴重な戦力である。異界人との闘いに欠かせない。それについてはマリノアス共和国側に刑の減免を請願するつもりのアレスであった。


「さてと。取り敢えず方針は決まったな」

「それで、これどうすんだ?」


 ヒューイが「これ」と言って後ろのケルベロスを親指で示した。


「一緒に行きたいと言っておるぞ?」


 テンがとんでもない事を言い出した。


「へっ? 一緒に? 何で?」

「ダンジョンは飽きたらしい。 久しぶりに外の世界に行きたいそうじゃ」

「いやいやいや、さすがに連れて行くのは…………デカいし、ほら、他の人が怖がるかも知れないし」


 ヒューイの言葉に、ケルベロスが三つの頭をこてん、と傾げる。


「それは大丈夫じゃぞ? ほれ!」


 テンがケルベロスに向かって金色の光を放ち、それが全身を覆った。光が小さくなり、そこに現れたのは頭が一つになった黒い大型犬だった。蛇の尻尾もフサフサした毛に覆われて普通に見える。


「うぉん!」

「わっ! 可愛くなったね!」


 物怖じしないアイナは、ケルベロスの顔の前に膝を着いて頭をわしゃわしゃと撫でた。ケルベロスは気持ちよさそうに目を細め、アイナの顔をべろんと舐める。


 大型犬と戯れるアイナの姿を、アレスたちは生温い目で見ていた。うん、可愛い。もちろんアイナが。


「ねぇ、いいんじゃない?」

「テンに服従してるし、アイナにも懐いてるみたいだしな」

「ん。悪さしなければいい」

「仲間になれば心強いっす!」

「キューイっ」

「キュイックも『いい』と言っておる」


 アレスも苦笑いしながら「じゃあ連れてくか!」とノリノリであった。


「あっ…………あの二人はどうするの?」


 拘束した二人の異界人のことはすっかり忘れていた。


「お! それならケルベロスが空間魔法を使えるから――」


 テンの声が「キィィィィィィィィィイン!」という甲高い音に遮られる。全員が音の出所に注目した。

 男の異界人の胸から真っ赤な光が漏れている。


「なんかヤバそう! 『天翼ガーディアン』!」


 アイナが『天翼ガーディアン』を展開して全員を包み込むのと同時に、異界人を中心に大爆発が起きた。





「げほっ、げほっ! くそ、みんな大丈夫か!?」


 爆発の土埃が舞うなか、アレスが他の面々の様子を確認する。


 土埃が収まってくると、周囲の様子が一変していた。異界人が拘束されていた場所は周りが焼け焦げた大穴になっている。床に直径二十メートル程の穴が出来ていた。


 アレスたちは元いた場所から後ろに十メートル以上吹き飛ばされていた。


「ヒューイ!」

「ここだ」

「モニカ!」

「ここよ」

「ネネ!」

「んっ!」

「ペネドラ!」

「いたたたた……ここっす」

「アイナ!」


 爆発の瞬間、アイナが『天翼ガーディアン』を使ってみんなを守ってくれた。


「アイナ! どこだアイナ! テン! キュイック!」


 『銀獅子団』がアレスの元に集まる。ふと後ろを見ると『紅の鷲獅子団』の五人も無事のようだ。長い赤髪の女性がみんなに治癒魔術をかけている。


「アイナー! テーン! 返事しろ!」


 小さくなったケルベロスが「くぅん」と鳴き、アレスの左腕を甘噛みして引っ張る。


「うん? アイナたちがどこにいるか知ってるのか?」


 アレスたちはケルベロスの後を付いて行く。ケルベロスは爆発で出来た穴の縁から、下を覗き込むように伏せた。


 それを見た五人は同じように穴の下を覗く。そこには、今にも消えそうにチカチカと瞬いている「金色」の転移陣があった。


「くそっ!」


 何かを悟ったヒューイが、止める間もなく転移陣に向かって飛び降りる。しかし、ヒューイの足が着く直前に、陣は光を失ってしまった。





* * * * * * * *





「はっ!」


 アイナがぱちっと目を覚ますと、テンが膝枕してくれていた。キュイックはアイナの胸の上で丸くなっている。


「起きたか、アイナ。痛い所はないかえ?」

「テンちゃん!」


 アイナはキュイックを腕に抱き上半身を起こした。キョロキョロと辺りを見回す。ここは――草原? 背の高い草が周りに生い茂っている。


「私は大丈夫。テンちゃんは? 怪我してない?」

「我は大丈夫じゃ! 神獣じゃし!」

「キュイックは? 怪我してない?」

「キュゥゥゥルゥゥゥ」


 キュイックは寝言で返事した。


「キュイックも大丈夫じゃ」

「よかったぁ。 テンちゃんありがとね? 膝枕してくれて」

「うむ。それは構わんが――」

「それで、ここは別のダンジョンなんだね?」

「う、うむ」

「他のみんなは来てないんだね?」

「……うむ」

「私の様子、変じゃなかった?」

「少し気を失ってただけじゃ」

「そっか。『献身デボーション』が発動してないならみんな無事ってことか。よかったぁ」


 テンが言い難そうにモジモジする。


「それでな、アイナ。転移陣じゃが、消えてしもうて戻れんのじゃ」

「うん」

「お主を助けようとしたんじゃが間に合わんかった。済まぬ」


 テンがアイナに頭を下げる。爆発で床が抜け、落下するアイナを一旦は掴んだテンだったが、一緒に転移陣の真上に落ちてしまったのだった。なおキュイックはアイナにずっと掴まっていた。


「テンちゃん! テンちゃんは悪くないよ? 謝ることなんかないからね!?」


 アイナはキュイックを地面にそっと置いて、テンを抱きしめた。背中をぽんぽんと叩いて元気づけようとする。


「う、うむ…………それと、ここがどこか分からんのじゃ」

「ニヴルヘイム・ダンジョンじゃないってことだよね」

「うむ。これが話に聞いた『他国のダンジョン』とやらじゃろう」


 ここがどこだろうとやることは決まっている。ダンジョンから脱出して『銀獅子団』に合流するのだ。


 ただし、ここが何階層なのか、出口が上か下かも分からない。脱出に時間がかかることは覚悟しなければならないだろう。


 アイナは、腰のポーチを確認する。ポーチと言うには少々大きなそれには、アイナが単独で冒険者をしていた時から変わらず、「冒険の必需品」を入れている。


 まず取り出したのは十五センチほどの銀色の細い棒。表面に細かい魔法陣が刻まれた「魔道具」である。これは水を生成する魔道具だ。ネネに教わった通り、魔道具に魔力を注ぐ。すると先端から直径十センチほどの水球が生まれた。


「よかった、壊れてない! これで水の心配はないね」


 他に、銅の色をした棒。これは火を生成する魔道具だ。そして小さなナイフ。さらに小瓶に分けたポーション。同じく小瓶に入れた塩。


「うん、全部無事だ。これなら何とかなりそう」

「そうか。それは何よりじゃな」

「うん! それでテンちゃん、出口なんだけど、上か下か分かる?」


 テンが胸の前で腕を組み、目を閉じて眉間に皺を寄せる。


「うーむ、うーむ…………上じゃ! 神獣の勘が囁いておる!」

「うん、分かった! 上を目指そう!」


 当たる確率五割の神獣の勘に従い、アイナとテン、キュイックは出口を目指して出発した。

異界人、最後まで迷惑ですな……

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