49 テン、ちょっとやり過ぎる
このお話から新章突入です!
クルドヘルムを出発して二日。『銀獅子団』一行を乗せた馬車は順調に進んでいた。
ウラヌス大森林とは様相が全く異なる明るい森の中を進みながらアイナが呟く。
「全然魔物がいないねー」
「ほんとっすねー」
「ん。平和」
「こんなこともあるのねー」
「キュイっ」
馬車の中は女子メンバーで占められている。ヒューイとアレスは御者台だ。
「なんじゃ? お主たちは魔物に遭いたいのか?」
膝の上にキュイックを抱いたテンが不思議そうに尋ねる。
「遭いたい訳じゃないっすけど、なんか張り合いがないっすよね」
「それは遭いたいのか、遭いたくないのか、どっちなんじゃ?」
「ん……遭わないならそれに越したことはない、かな」
「ふむ」
テンが腕組みして一瞬考える素振りを見せる。
「えと、テンちゃん……?」
「む? まぁ、その、なんじゃ。我の『神力』のせいじゃな」
「しんりき?」
アイナの問いにテンが答える。神力とは神獣が持つ特有の力で、魔力や人間の気とも異なるもの。あまりお目にかかる力ではないので、魔物は恐れて逃げてしまうのだそうだ。
「今はだいぶ絞っておるのじゃが、ちびーっと漏れとるんじゃな」
「私たちは平気だけど?」
「うむ。お主らは慣れたのじゃろう。絞っておらん状態を最初に見ておるしの」
「っていうことは、テンちゃんがいれば魔物はずっと近寄って来ないの?」
「いや、魔物の中でも強いものは好奇心が勝って寄って来ることもある」
「うへぇ……」
キュクロプスはテンの神力を嫌がって、そこから離れるように街にやって来た。ということは、テンの言う「強い魔物」とはキュクロプス以上ということだ。
「うーむ。我はお主たちの闘いを見ておらんから、ちょっと見せてもらおうかの」
アイナたちが止める間もなく、テンは「むむむ」と言いながら顔を真っ赤にして何やら力を込め始めた。
「ふぅ。神力を魔力に変換して魔物をおびき寄せたぞい!」
「え? そんなこと出来るんだ……」
「『ぞい』っじゃなくて!」
「おびき寄せなくてもいいっす!」
「ん……平和がよかったのに」
「うむ、そんなに褒めるでない。照れるわ」
馬車の中で腕組みをしながらふんぞり返るテンに向かって四人が叫んだ。
「 「 「 「 褒めてないっ!」 」 」っす!」
「おろっ?」
テンは空気の読めない子のようだった。
「なんじゃ、ありゃ?」
前方に蠢く不穏な気配に、ヒューイが手綱を引っ張って馬を止める。森の中を走る道は緩やかに右にカーブしている。
「……魔物のようだな」
アレスが『心眼』を発動して魔物の気配を探った。木々が邪魔をして全貌は見渡せないが、どうやら道が魔物で埋め尽くされているようだ。
馬車の中からアイナたち五人も降りてくる。
「アレス、テンが魔物をおびき寄せたって――」
モニカが頭を掻きながら呑気に報告したが、前方を見て吃驚する。
「え? あれ全部魔物?」
道が隙間なく魔物で埋まっている。暗い緑色の皮膚をしたゴブリンがほとんどのようだ。身長は百~百二十センチほど。単体では最弱と言われるが、これほどの群れを見るのは『銀獅子団』も初めてだ。
一回り大きなホブゴブリンもちらほら混ざっている。数百、いや数千匹いるのではないだろうか。「ギャッギャッ!」「ギョゥ! ギョゥ!」と騒がしいことこの上ない。まだこちらには気付いていないようだ。
「どこにこんだけいたのよ……」
モニカが呆れたように呟いた。『銀獅子団』の六人はテンをジト目で見る。
「ふむ。ちょびっとやり過ぎたかの」
「 「 「 「 「 「 ちょびっとじゃない!」 」 」 」 」っす!」
六人は思わず大声でツッコミを入れた。
「ギャッ?」「ギョギョゥ!?」「ギャッギャーッ!」
気付かれた。
「むっ! 数が多過ぎるな。アイナ、いけるか?」
「うん! ネネお姉ちゃん、後のことはお願いしていい?」
「んっ!」
「じゃあやるね! 『地獄の炎』!」
アイナが両手を前に翳す。直径十センチ程の真っ黒な球体が「三つ」現れ、ゆっくりと落ちる。
それが地面に触れた瞬間、こちらに迫るゴブリンの大群の眼前に、高さ二十メートルの炎の壁が立ち上がる。
黒と赤が混ざった炎は、幅三十メートルに広がって濁流のようにゴブリンたちを吞み込んでいく。それは三十秒ほどで収まり、ゴブリンの大群は道のずっと先の方まで黒い灰の山と化していた。
「理を成す者よ、恵の雨となれ。水瀑!」
木々に燃え移った炎を消火するため、ネネが低級水魔術を唱える。「水瀑!」「水瀑!」と唱えながらネネが先に進む。アイナが申し訳なさそうに「ネネお姉ちゃん、ごめん……」と謝りながら後ろを付いていった。
「『地獄の炎』は確実にレベルが上がってるな」
「威力も範囲もすげぇことになってんな!」
「これはもう、軍隊レベルね」
「いや、軍隊より強いっすよ!」
何もすることがなかったアレス、ヒューイ、モニカ、ペネドラは、アイナの『地獄の炎』を分析するフリをして誤魔化していた。
「ほう。アイナがおればお主らはいらん――」
テンの何気ない一言に、四人が「ギンッ!」と怒気を飛ばす。
「こ、ことなどないっ! お、お主らがおればこそ、アイナは安心して力を発揮できるのじゃもんなっ!」
テンは空気の読めない子ではなかったようだ。テンのフォローに四人がにっこりと微笑む。
「その通り! テンは分かってるな!」
アレスが朗らかに告げてテンの頭を撫でた。
「アイナが強いのは私たちも十分わかってる。頼りにしてるし、誇らしいわ」
モニカが優しくテンの肩に手を置いた。
「でもスキルなしじゃよわよわっすけどねー!」
「だからこそ、俺たちがいるってこった!」
ペネドラとヒューイの言葉に、テンが「?」と首を傾げる。
「アイナのスキルは強力過ぎて、使った相手は必ず死ぬ。生かして無力化することが出来ないんだ。相手が魔物でも人間でも」
アレスはそこで間を置いた。テンは考える。力が強過ぎる? それではまるで自分のようではないか。
「相手を殺す必要がないとき、殺してはいけないときはアイナのスキルは使えない。それに、アイナは優しい。相手に敵意がなければ殺すのを躊躇してしまうんだ」
魔物は敵意を隠すようなことはしない。本能のままアイナに牙を向ける。しかし人間ならどうだろう? 敵意を上手く隠して近付き、背中からグサリ。そうじゃなくても、言葉巧みに近付き、アイナの力を利用しようとする者も少なからずいるだろう。
テンにはそれがよく理解できた。過去、自分に起きたことだからだ。
(さっきは当てずっぽうで言ったが、確かにアイナにはこの者たちが必要なのじゃな)
テンは一つ頷き、前方で消火を終えたネネがアイナの頭を撫でている様子を見た。二人がこちらに歩いて来る。
「終わったよー! また火事になるとこだったよ」
「ん。今度から『地獄の炎』はなるべく森で使わないようにしよう」
「うっ……ネネお姉ちゃん、ごめん」
灰の山は、風にあおられて消えていた。道の両側に焦げた木々が残っているだけである。
「それじゃ、行くとするかのー!」
「いや、ちょっと待て」
テンが明るい声で宣言するが、アレスの低い声に「ビクっ!」となった。
「テン。ここまで魔物がいなかったのはテンの力だろう?」
テンがこくりと頷く。
「ゴブリンをおびき寄せたのも?」
再びこくり。おずおずとアレスを見上げる。これは怒られるヤツでは――。
「今度から、おびき寄せるときは先に教えてくれるかい?」
テンはぶんぶんと首を縦に振った。
「出来れば、おびき寄せない方が助かるんだが」
「わ、わかったのじゃ! もう、わざとおびき寄せたりはせんから!」
必死な声を出すテンを六人が優しい目で見ている。何かを待っているようだ。
「ご、ごめんなさい、なのじゃ……」
六人は満面の笑顔と共に、ちゃんと謝りの言葉を口にしたテンをわしゃわしゃした。六人の手で髪と耳を撫でられる。
「く、くすぐったいのじゃ……」
頬をピンク色に上気させながら、満更でもない顔のテン。その可愛らしさにわしゃわしゃもヒートアップする。
神獣とは一体……。
テン「ついうっかりやってしもうたわ!」
アイナ「テンちゃん……」
このお話を気に入って下さった方、続きが気になる方、五月の夢を応援して頂けないでしょうか!?
日間ランキング入りしてみたいのです……
ぜひお力をお貸し下さいm(_ _)m
ランキングはptで決まります。
広告の下の☆☆☆☆☆の右端をタップ(クリック)して★★★★★に変えて頂けると泣いて喜びます!
★★★★★とブックマークが大変励みになります。
読者様に一切デメリットはございませんので、ぜひ!お願いいたしますm(_ _)m




