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48 裸の付き合い

2話投稿の2話目になります。

「ふむ。お主ら『銀獅子団』は、その『異界人』とやらに対抗するため、これからパタグリュエルに向かうということじゃな?」

「ん。その通り」


 一通りの経緯を聞いたテンが確認し、ネネがそれを肯定する。


「ふむ。それならば、我をお主らの旅に同行させてはもらえぬじゃろうか?」


 テンの意外な申し出に一同は顔を見合わせる。


「それがテンの『頼み事』なの?」

「うむ。そういう事になる」


 モニカの問いにテンが頷いた。


「だが、俺たちと一緒に旅をする目的は何だい?」

「そんなことは決まっておる。神獣の使命は世界を危機から救うこと。そのためにはお主らと行動を共にするのが最善じゃ」


 アレスの言葉には、何を当たり前のことを、といった風に答えるテンだったが、一同の困惑は余計に深まった。


「俺たちは別に世界を救おうとか考えちゃいないぜ?」

「そうよね。急に世界って言われても」

「スケールが大き過ぎてたまげるっす」

「んー」

「みんな待って。テンちゃんは私たちに世界を救えって言ってるわけじゃないよ。そうだよね?」


 この中で最も年下のアイナが一番冷静であった。


「うむ。そうじゃな」


 テンの答えに一同がほっとする。


「なんだよ、脅かすなよー」

「それなら別にいいんじゃない?」

「一緒に旅するくらいなら全然オッケーっすよ」


 能天気な三人にネネが釘を刺した。

「ん、違う。そういうことじゃない。テン、私たちと同行するのが、なぜ世界を危機から救うのに最善なの?」


 ネネがテンに向かって疑問を投げかける。テンは、眉間に皺を作って腕組みをしながら「むぅ……」と考え込む。神獣ならではの深慮遠謀があるのか? それとも自分たちが知ってはいけない世界の秘密でもあるのだろうか? 一同は前のめりになり固唾を飲んでテンの答えを待つ。


「……えっと、勘?」


 小首を傾げて紡ぎ出されたテンの言葉に、『銀獅子団』の六人は全員一斉に椅子から転げ落ちた。


「キューイっ!」


 床に転がった六人の頭上を、キュイックがすぃーっと楽し気に飛ぶ。


「か、勘と言っても神獣の勘じゃぞ!? 我の勘はよく当たるんじゃから!」


 床の六人からジト目で見られているので、テンが慌てて弁解した。


「ん……当たるって、どれくらい?」

「うむ!」


 テンが椅子から飛び降り、腰に手を当ててふんぞり返る。


「だいたい五割じゃ!」


 見事なドヤ顔を決めていた。


「……五割、だと?」

「ふつーじゃねーかっ!」

「私の勘の方が当たるわ!」

「たまげたっす! もう、びっくりっす!」


 ヒューイ、モニカ、ペネドラのあけすけな文句にテンの目がうるうるする。


「み、みんな! テンちゃんをいじめちゃ駄目だよぉ!」


 立ち上がったアイナがテンに寄り添って「よしよし」と言いながら頭を撫でている。


「あ、ああ。そうだな。悪かったよ、テン」

「すまねぇ。悪気はねぇんだ」

「ご、ごめんね? ちょっとびっくりしただけだから」

「ん。テン、許して?」

「あたしは最初っからテンの味方っすよ」


 大人げなかった、と反省しながら謝る四人と、自分は他の奴らとは違うと主張したいペネドラ。


 アイナも含め、『銀獅子団』はテンの可愛らしい見た目に情をほだされていた。アイナと初めて出逢った時もそうだったのだが、アレスとヒューイ、モニカ、ネネの四人は弱々しく儚げな相手に弱いのだ。ペネドラは単純に可愛いものに弱かった。


 テンがとてつもない力を秘めた「九狐」という神獣である事実は彼らの頭からは綺麗さっぱり忘れ去られていた。


「じゃ、じゃあ、我も旅について行って良いのか?」


 上目遣いの潤んだ瞳でおずおずと尋ねるテンに対して、同行を拒否する意志力を持った者など一人もいなかった。





 かっぽーーん。


 宿には風呂がなかったので、『銀獅子団』女子メンバーとテンはクルドヘルムにいくつかある共同浴場の一つに来ていた。


 そして女湯の脱衣所ではいつもの光景が始まる。


 アイナもすっかり慣れたもので、その脱ぎっぷりには最早恥じらいはなかった。一番もじもじしているのはテンである。


「わ、我は神獣じゃから、その、ふ、風呂など入らなくても」


 言葉の途中でモニカとペネドラがテンの帯に手を掛ける。


「あれーーー」


 と言いながらテンがくるくる周り、ネネとアイナが器用にユカタを脱がせる。何年も一緒にいる彼女たちの連携プレイは見事に息が合っていた。


「テンちゃん、恥ずかしいのは最初だけだから! ねっ?」

「入っちゃえば気持ちいいから!」

「仲間になったらまずは裸の付き合いっすよ!」

「ん。大丈夫、怖くないよ?」


 言葉だけ聞いているとマズい感じもするが、彼女たちは風呂に入るだけである。あくまで風呂に入るだけである。


 顔を赤くしてちょっと涙目のテンが、四人に押されながら女湯に入っていく。


 一緒に風呂に入るたびに、アイナの成長っぷりと自分の平坦さを比べて溜め息を漏らしがちだったネネは、テンの平坦な胸を見て安堵を覚えた。テンと比べて安堵を覚えている場合ではないのだが。


 出逢ったばかりのテンは女子メンから洗礼を受ける。具体的に言うと泡まみれになり、四人がかりで頭のてっぺんからつま先まで洗われた。ふさふさしていた尻尾は濡れそぼって貧相になり、小刻みに震えている。九狐は女子メンの圧力に怯えていた。


 だが、みんなで湯に浸かると身体がじんわりと温まり、怯えなど霧散していく。


「ほぅ……これは良いものじゃな」


 アイナとネネに挟まれたテンが思わず呟く。


「よかったぁ、テンちゃんがお風呂気に入ってくれて」


 アイナも、上気させた頬を綻ばせる。周りを見ると、ほかの三人も優しい笑顔をテンに向けていた。


 桶に入ったキュイックが、横に並んだ五人の前をすぃーっと流れていく。


(やはり、『銀獅子団』について行くと決めたのは我ながら良い判断じゃったな)


 適度な温かさに身体中が緩んでいくようだ。自分は思っていた以上に緊張していたらしい。湯の中に身体のこわばりが溶けていく。


 裸になるということは、武器を持っていないのを相手に示すことでもある。相手を信用し、敵意がないことの証だ。


 神獣の九狐は力を持ち過ぎていた。いくら害するつもりがなくても、有り余る力は人を恐れさせる。人語を解し操れるテンにとって、人から畏怖されることは寂しく、そして悲しいことであった。テンは人間が好きだったのだ。


 六百年ぶりに自分を受け入れてくれたこの人間たちは、テンがどれほど人間というものを好きだったのか思い出させてくれた。


 胸の辺りがきゅっ! と熱くなり、テンの目にまた涙が浮かぶ。心配させたくなくて、両手でお湯を掬って顔をバシャバシャと洗った。


「ところで、アレスとヒューイとは、裸の付き合いとやらはしなくて良いのか?」

「それはだめっ!」

「しなくていいのよ」

「ん。不要」

「男どもとはしちゃダメっすよ?」


(全力で止められたっ!? なんだかあの二人が不憫じゃ)


「わ、分かったのじゃ。裸の付き合いは女とだけ、なのじゃな」


 男湯では、アレスとヒューイが同時にくしゃみをしていた。





 翌朝。テンを加えて七人になった『銀獅子団』は、いよいよアルゴスに向けて出発した。


「『銀キツネ団』に改名しても良いのじゃぞ?」

「 「 「 「 「 「 それはない 」 」 」 」 」っす」


 テンの提案に六人が同時にツッコミを入れる。「むぅ」と言って頬を膨らませるテンの様子に笑い声を上げながら、昇った朝日の方に向かって馬車は緩やかに走り出した。

ここまでで第一章となります!

ここまでお読み下さった方、ブックマークや評価して下さった方、本当にありがとうございます。


次のお話から新章に突入します。

新たな仲間も加わって、アイナたちの冒険はまだまだ続きますよ!


ただ……

初日・二日目を除いてここまで毎日2話投稿してきて、ストックがほぼなくなりましたorz

今後は1話投稿になります。

毎日楽しみにして下さってる方、ごめんなさいm(_ _)m

出来るだけ毎日投稿するつもりですが、仕事や体調の関係で週に5話程度になるかも知れません。

お話が貯まってからまとめて読んで頂くのも良いかな、と思います。


今後のお話も気になる!楽しみにしてるよ!という心優しい方は、ブックマークや評価をしてお待ち頂けたら嬉しいです。


PVもですが、やはりポイントが入る評価とブックマークは執筆を続ける大きなモチベーションになります!

ぜひ応援よろしくお願いいたします!


それでは、今後ともお付き合いの程よろしくお願いします!

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