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35 パルムの街

2話投稿の1話目です。

 ライラたち『蒼牙団そうがだん』がウラヌス大森林に来たのは、もちろんマリウス王子の身を案じてのことだった。


 マリウスの後ろ盾の一人、グリアドル侯爵から暗殺計画の噂を知らされ、ブラコン、もとい弟想いのライラがじっとしていられる訳もなかった。グリアドル侯爵領の街にいたライラたちは国境の街キルアまで走り続け、キルア常駐の兵士五十名を引き連れて森に向かった。それが三日前。


 キルアの街を出発した翌日、今は廃墟となっている村に差し掛かったときに盗賊を装った暗殺団と遭遇したが、『蒼牙団』と兵士たちの敵ではなかった。


 この「暗殺団」と森に仕掛けられた「魔物寄せ」のことは、事前に侯爵から知らされていたのだ。真に恐ろしいのはグリアドル侯爵の情報網である。


 森に入ってからは、逸る気持ちを抑えつつ魔物の群れを確実に殲滅しながら二日かけてここまで来たそうだ。


 そしてようやくマリウスの無事を確認した次第であった。ライラの弟への愛が炸裂したのも仕方のないことだ。


 ひとしきり姉弟の、というか姉のブラコンっぷりを見せつけられたあと、一行は森の出口に向かって東へ進んだ。『蒼牙団』と兵士たちが既に魔物を一掃し、魔物寄せも解除してくれていたおかげで、翌日の昼頃には森を抜けた。廃村の手前で一晩野営し、次の日の夕暮れにはキルアに到着したのだった。





「で? このまま王都まで一緒に行くのか?」


 キルアで一泊し、次の朝に出発して十日目の野営地。明日には次の街「パルム」に到着する予定だ。

 元々キルアの常駐だった兵士たちとは街で別れたが、ライラたち『蒼牙団』の六人は当然のようについて来ていた。今さら聞くのもどうかと思ったアレスだが、どうしても確認する必要があったのだ。


「そうだが? 何か問題か?」


 焚き火を見ていたライラが返した。『銀獅子団』と『蒼牙団』は何度か共にクエストをこなしたものの、特別仲が良いという訳ではない。


「いや、問題などないよ。むしろ助かる」

「私たちもグリアドル侯爵から指名依頼されているのだ。だからマル……マリウス王子は責任をもって護る」


 ライラにとって護衛対象はあくまでマリウスであり、ミリアナ姫はついでのようだ。


「ライラ、実は頼みがある」

「なんだ?」


 アレスは慎重に言葉を選ぶ。これは『銀獅子団』にとってこの上なく重要な頼み事だ。失敗は許されない。


「パルムの街で二泊したい。そのうち一日は、マリウス王子とミリアナ姫の護衛を『蒼牙団』に任せられないだろうか?」


 アレスは可能な限り真摯な声を出して頭を下げた。必要なら金を出してでも――


「そんなことか! 全く問題ない。任せるがいいぞ!」


 ライラがすこぶる機嫌のいい声で快諾したので、アレスは拍子抜けした。


「そ、そうか。助かるよ。ありがとう」

「礼には及ばん。むしろマルを独り占めするチャンス……」


 後半はライラが自分に言い聞かせるようにもにょもにょ言っていたが、アレスは聞かなかったことにした。


 事前にミリアナとマリウス、騎士たちにも伝えてはいたのだが、ライラが快く引き受けてくれたのでアレスは肩の荷が降りた気分だった。


 そう。明後日はアイナの十五歳の誕生日なのだ。是が非でも盛大にお祝いしたい。せっかく街にいるのだし、護衛を任せられる優秀なパーティもいる。これでまた仲間から白い目で見られることもないだろう。





 パルムの街に到着した翌日。


 昼食後、アレスたち五人が「用事がある」と言ってどこかへ出掛けてしまったので、アイナはなんとなくミリアナたちと一緒にいた。

 マリウスはライラの鉄壁のガードで高級宿に缶詰にされている。ガルドスとメルリアの二人の騎士、そして『蒼牙団』のカイン、クレイグ、マットの三人の男性メンバーがライラと共に護衛についていた。


 ミリアナの一行は、二人の侍女、四人の騎士たち、それに『蒼牙団』のジュリアとマリー、そしてアイナ(とキュイック)というメンバーだった。大所帯である。


 道中を共にした騎士や侍女は別として、ジュリアとマリーはアイナに対して(なぜ『銀獅子団』にちびっ子が?)(頭の上の生き物はなに?)と訝しんでいた。


 ミリアナたちはパルムの富裕層向けの区画を散策していた。と言っても、貴族など少数しかいないし王族は滅多に来ないのでごく狭い一角である、


(これはチャンスですわ。『銀獅子団』をカルデ王国の味方にするには、アイナを私の言いなりにするのが一番手っ取り早い)

(しかも今日はアイナの誕生日というではありませんか! ここまでの活躍を労い、お祝いの贈り物でも与えればイチコロでしょう。何と言っても私は王族なのですから)


「アイナさん。ちょっとこちらにいらして?」

「っ! ……はい」


 後ろの方で遠慮がちにしていたアイナに声をかけた。


(まあ可愛らしい! まるで子犬のようにこちらに駆けてくるではありませんか!)


「コ、コホン。アイナさん、森では恐ろしい魔物からよくぞ私を護って下さいましたわ」

「……? いえ、『銀獅子団』のみんながいたからです」

「キュイっ」


 キュイックが自分のことを言われたかと思って反応する。


(私より年下なのに、なんて殊勝な態度でしょう)


「もちろん『銀獅子団』のみなさんあってこそです。でもアイナさんは特に活躍していたと私は思いますわ!」

「そ、そうですか? ……ありがとうございます」


 ウラヌス大森林に入って最初の地竜の襲撃以降、戦闘中は馬車の中にいたミリアナは闘いを見ていないのではないだろうか。


 騎士たちもだいたい離れた所でミリアナとマリウスを守っていたから、誰がどのように闘っていたか知らないと思うのだが……唯一、森林陸亀フォレスト・トータスの囮に同行した騎士はアイナのスキルを見たが、恐らく防御魔法の一種だと思ったに違いない。


 アイナはミリアナのことを「傲慢でプライドが高く、身分が下の者を見下す」王女と思っていた。そのミリアナが急に褒めてきたので、アイナの警戒メーターが上昇した。


「ときにアイナさん。何か欲しいものはなくって?」


 突然ミリアナから欲しい物を問われて、アイナは答えに窮する。


(欲しいもの……みんながもっと強くなる装備……かな?)


 アイナが個人的に欲しい物は「なにかいい感じに見える武器っぽいもの」という本人もよく分かっていない物だったので、真っ先に思い浮かんだのは『銀獅子団』のみんなのことだった。


「なにか……強い武器、とかでしょうか?」

「ぶ、武器ぃ!?」


 ドレスとか靴とか宝石とか、女の子っぽいものを考えていたミリアナは、斜め上の返答に声のトーンが跳ね上がった。後ろの侍女たちがその声に「ビクッ!」とした。


(武器とは予想外ですわ……こんな街に良い武器もないでしょうし。城の宝物庫なら探せば何かあるかもしれませんが)


「あ……ミリアナ様、すみません! 今は特に欲しいものはないです」


 うんうん唸るミリアナに、アイナは気を利かせて言い直した。


「武器……武器ですわね! 分かりました。城に使いをやって、下賜できる武器のリストを作らせましょう」


 話が急に大きくなったので、アイナが慌てて手をブンブン振る。


「いえいえ、そんな! お気持ちだけありがたく頂戴します」


(あれだけの魔物から私を護ったのだもの。それくらいの価値はありますわ。それに国宝級の武器を下賜すれば『銀獅子団』も国の頼みを断りにくくなるでしょう)


 我ながら素晴らしい案を思い付いた。宝物庫に武器など寝かせていても、使う者がいなければそれこそ宝の持ち腐れである。それで『銀獅子団』という戦力を味方にできれば安いものではないか。


 ミリアナはふんすっ! と鼻息を粗くした。


「ふふふ! 早速お父様に進言しなくては」


(あ、これは悪い人の顔だ! 私、まずいこと言っちゃったかも……)


 アイナの警戒レベルがまた一つ上がる。


「それはそうとして、今日は貴女のお誕生日でしょう? だから私が個人的に何か贈りたいのですわ」

「たんじょうび……?」「キューイ?」


 アイナは自分の誕生日をすっかり忘れていた。キュイックはなんとなく合わせた。


(だからみんなどこかへ出掛けて……)


 いつもべったりの五人が何だかよそよそしかったのは、きっと自分の誕生祝いを準備するためだ。五人が自分のために何かしようとしてくれていると気付いて、アイナは思わずニヤニヤしてしまった。


 そうとなれば自分も準備がある。こうしてはいられない。


「ミリアナ様っ! お気持ちだけで十分です。私はここで失礼します!」

「えっ!?」


 まさか断られるとは思っていなかったミリアナを尻目に、アイナはキュイックを頭に乗せたまま、宿に向かって駆け出した。


(まあ! 話の途中なのに失礼な……でもいいですわ。別の案が浮かびましたから)


 『銀獅子団』のサプライズをぶち壊してしまったことには気付かず、ミリアナは一人ほくそ笑んでいた。

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