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31 最深部付近

本日2話投稿の1話目です!

 アイナは咄嗟に木の裏から出て、ペネドラの前に立った。


「みなさん、私の後ろに!」


 小さなアイナの背中を盾にするように、騎士たちが大きな身体をなるべく小さくしながら後ろに集まる。ペネドラは後ろからアイナの肩に両手を置いた。


「アイナっち、ごめんっす!」

「うん、大丈夫! 『反射リフレクト』っ!」


 森林陸亀フォレスト・トータスの口から青白い光の束が放たれるのと同時に、アイナの突き出した両手の前にオレンジ色の光の板が出現する。その板は縦横五メートルの正八角形で、一部は地面に埋まっていた。


 青白い光の束がオレンジの板に当たると、目も眩む光が爆発する。


「ギョウワァァァァエェェェェ!?」


 光が収まると、目の前には口の周りが黒く焦げた森林陸亀フォレスト・トータス。アイナたちが隠れていた木々は根元が焦げ、樹木本体は跡形もなくなっていた。騎士がふと後ろを振り返ると、二~三十メートル後方まで木々が同じようになくなっていた。


 自分の攻撃を跳ね返され、その一部を喰らった森林陸亀フォレスト・トータスは、思わず首と手足、尻尾を甲羅に引っ込めてその場に蹲った。


 その瞬間、夜空に赤い炎の球が見えた。


「後退っ! 後退っす!」


 ペネドラの声に、全員が一斉にその場から離脱する。


(なんか、かわいそうなことしちゃったかも)


 馬車の方に戻りながら、アイナは森林陸亀フォレスト・トータスの身を案じた。





 元の場所に戻ると、馬車は出発の準備を整えていた。


「乗れっ! 今のうちに行くぞ!」


 アイナとペネドラは先頭の馬車に飛び乗る。後ろの馬車に次々と騎士たちが乗り込むのを確認し、馬車は勢いよく出発した。


「なんか、森の中がすっごく光ってたけど、誰も怪我しなかった?」


 モニカがペネドラに確認する。森の中に森林陸亀フォレスト・トータスが移動してから気が気ではなかったのだ。特にアイナのことが。


「あー、肝は冷えたっすけど、アイナっちのおかげで助かったっす」

「もう、ペネドラお姉ちゃんがおっきい声出すんだもん!」

「てへへ……アイナっちが心配で、声が出ちゃったっすよ」


 モニカとネネがジト目でペネドラを見つめる。だが、気持ちは分かる、と思っていた。


 あのタイミングでペネドラが声を出さなければ、そのままやり過ごせたかも知れない。『反射リフレクト』ではなく『天翼ガーディアン』を使えば、森林陸亀フォレスト・トータスに怪我をさせずに済んだかも知れない。アイナは森林陸亀フォレスト・トータスが「本来大人しい」とネネから聞かされたことが頭に残っていて、怪我をさせたことを気にしていた。


「アイナ、浮かない顔してる。どうかした?」


 それに気付いたネネがアイナに聞く。


「うん。大人しい魔物なら、怪我させなくても良かったかなぁって思って」

「でもあいつ、問答無用で撃って来たっすよ?」

「アイナ、優しい」

「アイナは優しいわよね」

「あいつ、こう、グバー! って。すんごいの撃って来たっすよ!?」


 無視されたと思ったペネドラが身振り手振りを交えて言い訳する。言い訳というか、ペネドラなりにアイナの行動を庇っているのだ。伝わりにくいが。


「攻撃されたら身を護らなきゃいけない。他に何人もいたし、アイナの判断は正しい」

「だいたい、魔物寄せを仕掛けてる奴が一番悪いわよね。アイナが気に病む必要なんてないわよ」


 三人の言う通りだ。大人しいとは言え、先に致死性の攻撃を放ったのは森林陸亀フォレスト・トータスだし、『天翼ガーディアン』で防いでも攻撃が止むとは思えない。迷えば誰かの命が失われたかも知れないのだ。


 キュイックがアイナに頬ずりする。「気にしないで」と言っているようだ。


「うん……うん、そうだね! もう気にしないことにする」

「ん。それでいい。今回、魔力の消費は大したことないと思うけど、出来れば休んで」


 ネネがアイナの肩を抱き、頭を自分の肩に乗せようとする。身長差がほとんどないので、アイナの首の角度が直角に近くなる。それに気付いたネネが、自分の太腿をぱんぱん! と叩く。


「ここで寝ていいから」


 今回、椅子取りゲームの勝者はネネであった。ネネの太腿に頭を預けたアイナを見て、モニカが「ぐぬぬ……」といった顔をしていた。


 馬車は東へ向けて走り続けている。そろそろウラヌス大森林の最深部に到達しようとしていた。





「おいおい、嘘だろ?」


 馬車の速度を落としながらヒューイがため息混じりに言葉を漏らした。


「まさに、縄張り争いの真っ最中、ってとこみたいだな」


 十メートル近い巨猿ハヌマーン。巨大な多頭ヘビ、九頭竜ヒュドラ。そして同じく巨大なクモの魔物、黒蜘蛛アラクネー


 三種類の魔物が、拓けた所で群れを成して争っていた。


「なぁ、あそこって……」

「ああ。前回通ったとき、ネネが地竜を燃やし尽くした場所のようだな」


 そこだけぽっかりと木々がない。丁度良いとばかりに、そこが魔物たちの戦場になっているらしい。


 まだ三百メートルは離れているのに、ここまで魔物の叫び声が聞こえる。ぶつかり合う音、何かが千切れる音、何かが噴き出す音。生温い風に血生臭い匂いが混じっている。


「どうしたっす?」


 馬車が停まったので、ペネドラが様子を窺った。


「いや、今は近付かねぇ方がいいかなってな」


 外に出て来たペネドラに、ヒューイが前方を指差しながら答える。


「うわ……引くっすね」


 巨大な魔物たちが争っている様子にペネドラも顔を引き攣らせる。目を覚ましたアイナとネネ、モニカも降りて来た。騎士も二人集まってきている。


「無理に突っ込むことはない。魔物同士で潰し合ってくれればそれでいいんだが」

「それなら少し引き返しますか? 誰か見張りを置いてもいいですし」


 アレスの言葉に、騎士の一人が提案する。確かにここは少々近過ぎるだろう。十五分ほど引き返せば、あの縄張り争いに巻き込まれる心配も殆どない。見張りを置かなくても、誰かが一時間おきくらいに様子を見に来れば問題ない。


「よし、少し戻ろう。見張りも要らないだろう。十五分ほど引き返して、そこで休憩しながら――」


 その時、一瞬影がよぎった。続けざまに五つ。それは真っ直ぐ魔物たちの争いの場所に向かった。


 広げた翼の大きさが十メートルを超え、鋭いかぎ爪と嘴、さらに風属性の魔術に似た攻撃を持つ「巨風鷹ヴェズルフェルニル」。五羽の巨大な鷹が一直線に飛んで行き、争いの場の上空で旋回を始める。


 新たな魔物の参戦に巨猿ハヌマーンが跳躍し、足を掴もうとするが届かない。黒蜘蛛アラクネーが粘糸を吐き、九頭竜ヒュドラがその身を精一杯空に向かって伸ばす。だがいずれも巨風鷹ヴェズルフェルニルには届かなかった。


 五羽の巨風鷹ヴェズルフェルニルは空中でホバリングし、眼下に向けて一斉に翼をはためかせる。


 風の刃が地上の魔物たちを襲う。無数の刃が降り注ぎ、魔物たちの身体が切り刻まれ血飛沫が飛び散る。刃を逃れた少数の魔物たちが森の奥へ逃げ込んでいく。それは一方的な蹂躙だった。


 動く者がいなくなった地上に降り立ち、巨風鷹ヴェズルフェルニルたちは魔物を貪り始めた。


「あいつら、連携してたわよね……」


 モニカの呟きにアレスが答える。


「ああ。あれは厄介だな。少し戻って作戦を立てよう」


 一行はなるべく音を立てないよう注意しながら、ゆっくりとその場から引き返した。

「アイナ、強い!」

「ペネドラ、かわいい」

「森林陸亀かわいそう……」


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